【日々怪談】2021年6月19日の怖い話~×
【今日は何の日?】6月19日:ベースボール記念日
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スーパー銭湯で湯船に入っていたら、少年達がわいわい騒ぎながら入ってきた。
年の頃は小学三年生か四年生。友達同士で来ているのか、日に焼けた少年達が湯船の間を小走りで行き交い始めた。
――洗い場を走るんじゃねえよ。
木内さんは心の中で軽い憤りを感じた。
少年野球か少年サッカーだろうか。大人は誰も同伴していないのかと周りを見回すが、どうやら少年達だけで来ているようだ。
湯船に浸かっていると眼鏡が曇ってしまうので、木内さんは眼鏡を外していた。
だが、少年達の姿を追うでもなく眺めていると、違和感がこみ上げてきた。
少年達の背中が異様に黒いのだ。
どうしても気になったので、わざわざ湯船から上がり眼鏡を掛けて確認すると、少年達の背中には大きなバッテン印が描かれている。
墨で描いたように真っ黒で、身体に直接描かれたのとは印象が違う。立体感がない。
そこだけ色が全て抜けているように見えた。
少年達は並んで洗い場に陣取ると、思い思いに身体を洗い始めた。
泡がそのバッテン印に掛かると、泡のほうが見えなくなる。
背中にシャワーの湯が掛かるが、掛け落ちる湯の中からバッテン印だけが浮き出て見える。
これはマズいものを見ているのではないか、そもそも少年達を興味深げにじろじろと見ていること自体がマズいのではないか。
木内さんはそう思って、視線を逸らした。
だが少年達は結局、湯から上がり脱衣所でシャツを着るときまでも、背中に大きな黒いバッテン印を背負ったままだった。
――「×」神沼三平太『恐怖箱 百聞』より