【日々怪談】2021年7月15日の怖い話~ぶぅん
【今日は何の日?】7月15日: ファミコンの日
ぶぅん
某大手ゲーム会社の事務所にて。
同僚も部下も帰宅してしまった真夜中、彼も一人で延々と残業をしていた。
誰もいない事務所というのは寂しいものだ。総務から「節約」を厳命されているため自分の課の島以外は灯りが消され、寂しさに侘びしさが加わっている。
書類のチェックをしていると、何かが聞こえたような気がした。
人の呼吸音だったような気もするし、何かが動いた音だったかもしれない。
そもそも音なんか何も聞こえなかったのかも。
でも、空気が動いたような、そんな気配があった。
気になって椅子から立ち上がってみる。
辺りを見回しても誰もいない。当たり前だ。
頭を掻いて椅子に腰を下ろす。
――ぶぅんぶぅん。
何か音が聞こえた。
エアコンの音、じゃない。
――ぶぅんぶぅん。
有線は切ってある。テレビの電源も入ってない。
――ぶぅんぶぅん。
風切り音のような。
――ぶぅんぶぅんぶぅんぶぅん。
音は次第に大きく、早くなってきた。
目の前の書類に向き合ったまま、背中でそれを聞く。
――ぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶん。
こうなると我慢比べのようなものだ。
自分の真後ろを見てみたい誘惑に耐えきれなくなって、ゆっくり振り向いた。
背後のデスクのペン立ての中に、定規があった。
プラスティックの、どこにでもある普通の定規。
定規はペン立てに入ったまま、大きくしなって左右に揺れていた。
……それは見なかったことにして、仕事に戻った。
――「ぶぅん」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より
#ヒビカイ # ファミコンの日