【日々怪談】2021年7月17日の怖い話~スーツVS全裸
【今日は何の日?】7月17日:東京の日
スーツVS全裸
川出さんが、得意先の営業回りをしていたときのこと。
駅からとある会社へ向かう途中、歩道の前方に四つん這いになった全裸の男がいた。
〈んな馬鹿な! 変質者もいいとこだ!〉
と驚きはするものの、ここは大都会東京。どんな輩がいても不思議はない。困るのは全裸男の佇む先に取引先の会社があるということだ。
一度道路を渡って逆側の歩道に移ろうかとも思ったが、どうにも車道が広く、交通量が多い。横断歩道も見当たらない。
立ち止まって様子を窺うと、全裸男のさらに向こうからスーツ姿の男性がこちらに歩いてきていた。
〈よし、あのスーツ男に対して全裸男が何をするか見てからこちらの手を考えよう〉
スーツ男は全裸男に躊躇することなくグングンと歩みを進めている。
グングン
グングン
〈おいおい、あの進行方向、そしてあの勢い……あいつ、全裸男にぶつかるぞ!〉
全裸男は相変わらず四つん這いのまま、こちらに浅黒い顔を向けている。
〈きたきた! スーツ男が、今にも全裸男にバックからアタック……!?〉
――というところで、全裸男はピョンと真横のビルの壁に飛び跳ね、蜘蛛のように壁をよじ登っていった。
〈えええぇぇぇぇ!〉
呆然として立ち尽くしている間に、スーツ男とすれ違った。
気を取り直すことができないまま、川出さんは取引先へ向けてフラ~ッと歩き出した。
――「スーツVS全裸」高田公太『恐怖箱 百聞』より