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【書評】怪談四十九夜 鬼気

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4月27日発売の文庫『怪談四十九夜 鬼気』の書評です。

今回のレビュアーは卯ちりさん!

早速ご覧ください!

 

書評

「怪談四十九夜」はその名の通り、怪談文庫おなじみの、手練れ作家陣が中心に集い、49話の怪談を収録しているアンソロジーのシリーズだ。長すぎず短すぎず、程よい尺の怪談が作家別に掲載されているので、お気に入りの作家から読むのもよし、未読の作家の怪談に触れ、気に入れば単著を読むのもよし。シリーズ7冊目となる今作は、吉田悠軌、田辺青蛙、丸山政也、葛西俊和の4名が初参加となり、執筆陣の顔ぶれの豪華さはそのままに、作家毎の個性を堪能しながら読み進められるのが楽しい一冊だ。

 

いくつか紹介すると、吉田悠軌「まだら猫」は幕末頃の奇談が口伝された希少な怪談であり、葛西俊和「宿直」は、後遺症が残るほどの理不尽な害を被るのが恐ろしく、田辺青蛙「幽霊画の話」は、験担ぎの幽霊画から話が転じ、意図せぬ形での幽霊が出現する展開が興味深い。丸山政也「エリカ」、つくね乱蔵「封印」の2編はいずれもバンドマンの体験した怪談だが、偶然にも両話ともバンドの作った曲が怪を引き起こす点で共通している。冨士玉女と神薫は、それぞれ複数の髪の毛に纏わる話を書いているが、冨士玉女「毛髪」「毛髪その2」は奇妙さがあり、神薫「挑髪」「死髪」は家系による因縁を感じる話だ。是非読み比べて欲しい。また、先陣が我妻俊樹、トリが黒史郎という編纂のセンスも良く、掲載順に読むことをおすすめする。

 

それら粒揃いの怪談の中でも、編著者である黒木あるじの一捻りされた収録作が特に面白い。筆者は毎度、これを一番のお目当てにして四十九夜を読んでいると言っても過言ではないのだが、今回の収録作も太鼓判を押しておく。4つの連作、4人の幽霊から導き出される怪異の正体については、読んでからのお楽しみなので、これ以上の説明は控えておく。アンソロジーという限られた尺の中で演出巧みに愉しめる怪談にお目にかかれる、それだけでも、この怪談集は読んで損はしないだろう。

 

ちなみに、「怪談四十九夜」は四十九日にちなんだ命名と思われるが、49話は百物語の二分の一であることに、ふと気がついた。百物語には手を出す勇気がない人にとっても、この本は手に取りやすい一冊と言えるのではないだろうか。百話の半分であれば、たとえ一晩で本書を読了したとしても、読者にはおそらく、何も起こることはないであろう。おそらく……。

レビュアー

卯ちり

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

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