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3月新刊『実話怪奇録 北の闇から』内容紹介・著者コメント・試し読み・朗読動画

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北海道の空恐ろしい話、胸に沁みいる心霊譚!

【札幌市】幻の血が溢れる薄野の裏路地
【旭川市】事故現場に囚われた少年霊
【恵庭市】絶対に祓えない霊が居座る最恐物件
【小樽市】写真に写りこむ黒い仏壇の凶兆
【函館市】飲み物に猫の歯が混入する怪
…など北海道各地で報告された怪現象&恐怖体験35!

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あらすじ

北海道在住の著者が全道から聞き集めた北の大地の怖い話、不思議な話。
体験者の実在する生々しい怪談の数々は、まるで雪のように時に空恐ろしく、時に優しく胸に沁みる。
・奇怪な現場写真も掲載する恵庭市の家は、屋根裏に強力な霊が棲みつく。霊と交わした共同生活の取引とは…「恵庭の家の話」
・旭川市の路上でガードレールに凭れて座る少年霊。事故死した現場から動けない彼を視てしまった男は…「訓え」
・夢に現れる夕張郡の田舎道と古屋。小学生の自分と友達は床下の甕を覗き恐ろしい出来事を体験する…「記憶」
――他、web連載に書き下ろし18篇を追加した滋味深い北海道の実話怪談集!

著者コメント

 自薦の1話に「アルバムを開いて」を選びました。
 このお話は、皆様の身近で起こり得るものだと思っております。
 もしよろしければ、このタイミングでアルバムの整理をしてみては如何でしょうか?
 そして何かの違和感を覚えたのなら、怪異への扉が開かれているのかもしれません。
 どうぞ慎重に、思い出を噛みしめながら一枚一枚のご確認を……。

著者自薦・試し読み1話

アルバムを開いて(小樽市長橋)

 ある休日のこと、新田さんはアルバムを開いていた。
 幼少期からの物を独り暮らしを始める際に実家から持ってきていたのだが、大人になってからの写真はスマホなどで事が足りていた。
 これ以上は写真が増えることもないだろうと、整理を始めたのである。
 ページを捲るたびに、記憶が呼び起こされ手が止まる。
(あー、こんな玩具もあったよね)
(お父さん、めっちゃ若いー)
 大切な想い出を確認する作業は、ひと時の癒しを与えてくれていた。
 あるページを捲った途端、彼女の思考は止まる。
(あれ? これ、うち?)
 ある一枚の写真に違和感を覚える。
 和室の仏壇の前で座っている新田さんの姿が写っている。
 恐らく幼稚園の頃だと思われるが、笑顔でこちらを向いていた。
 違和感があったのは仏壇で、彼女の記憶にあるものとはどうにも違う。
 背景として少しだけ見えている和室は実家のもので間違いがないが、そこに存在感を増したように写っている漆黒の仏壇だけはどうしても受け入れることができなかった。
(もしかしたら、途中で仏壇を買い替えたのかなぁ?)
 そう思うことで、次のページへ進んだ。
 途中途中で配置を入れ替えたり、自分が可愛く写っていない物はアルバムから抜いていく。
 一通りの作業が終わったときには、既に夕方になっていた。
 アルバムを仕舞い、彼女は夕食の買い出しに出掛けた。
 帰宅後、夕食を作ってテレビを見ながら食べていた。
 そのときに母親から電話が入った。
 いつものように他愛もない話に花が咲く。
 一時間も話し続けて、話のネタも尽き始めた頃のこと。
「あ、そういえば、うちって仏壇買い替えたんだっけ?」
 突然の何の脈絡もない話に、母親は困惑する。
 新田さんはアルバムの整理をしていて、見覚えのない仏壇が写っていたことを説明した。
「ちょっと意味が分からないんだけど、うちの仏壇はずーっと同じよ。お母さんが嫁いできたときにはあった物だから、ずーっと同じ物」
「えっ、でも……」
 母親にはっきり断言されてしまうと、自分の記憶違いのような気もしてきた。
 もしかしたら写真写りが悪く、違うものに見えただけかもしれない。
「じゃあ、仕事頑張ってね」
 そうして電話は切られた。

 翌日の七時過ぎ、実家からの電話が鳴った。
 出勤の準備をしていた新田さんは化粧を片手に電話に出る。
「あ、お父さん。どうしたのこんな早くに……」
「いいか……よーく落ち着いて聞きなさい。で、落ち着いて帰ってきなさい」
 どうにも涙ぐんだような声の父親は、よく分からないことを言っている。
 言いあぐねているようで、酷く遠回りな話し方であったが、核心に触れた瞬間、新田さんは固まる。
「母さんが、死んだんだ……」
 昨夜遅く、トイレに起きようとした父親は、横で寝ている筈の母親がいないことに気付いた。
(母さんもトイレか)
 トイレに向かったところ、ドアの前で倒れている母親を見つけた。
 慌てて救急車を呼んだが、既に事切れていたという。
 すぐに新田さんに連絡をすることも考えたが、何分にも深夜である。
 駆け付ける新田さんに万が一のことが起きないようにと、朝を待っての電話であった。

「それから数年経ってからですかねぇ」
 母親の死から落ち着きを取り戻し、漸くアルバムを開けるようになった。
 若い母親が笑顔で自分と映っている。
 ポロポロと涙を零しながら、ページを捲り続ける。
 ところがあるページで手が止まった。
 彼女の目に飛び込んできたのは、記憶にない一枚である。
 例の〈仏壇の前で取られた写真〉であるが、座っている彼女の横には笑顔の母親が写っていた。

 そして漆黒の仏壇は、実家の仏壇に変わっていた。

「もしかしたら、あのとき見た写真が、何かの知らせだったのかもしれないですよね。それが分かっていれば、電話で話もしていたんですから……」
 新田さんは、自分に何かできたのかもしれない、という後悔のようなものを抱えている。
 例の写真も〈曰く付きの物なのかもしれない〉とは思いつつも、捨てられないでいる。
 その理由は、母親の満面の笑顔に愛情を感じるからだという。

朗読動画(怪読録Vol.72)

【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。

今回の語り手は 星川慶子 さん!

【怪読録Vol.72】ふとした一服中にあり得ないものが!?―服部義史『実話怪奇録 北の闇から』より【怖い話朗読】

商品情報

  • 著者名:服部義史
  • 発売日:2021/3/29 ※発売日は地域によって前後する場合があります。
  • 定価:本体680円+税
  • ISBNコード:9784801925922
  • シリーズ:ご当地怪談

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著者紹介

服部義史 Yoshifumi Hattori

北海道出身、札幌在住。幼少期にオカルトに触れ、その世界観に魅了される。全道の心霊スポット探訪、怪異歴訪家を経て、道内の心霊小冊子などで覆面ライターを務める。現地取材数はこれまでに8000件を超える。著書に『蝦夷忌譚 北怪導』『恐怖実話 北怪道』、その他共著に「恐怖箱」テーマアンソロジーシリーズなど。

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