あらすじ
ホラーの鬼才・平山夢明を筆頭に、我妻俊樹、黒木あるじ、黒史郎、神薫、田辺青蛙、つくね乱蔵ら名だたる書き手に加え、
怪談DJの響洋平、せんだい文学塾会長の鷲羽大介、そして〈怪談最恐戦2020〉で怪談最恐位に輝いた夜馬裕が初参加。
総勢10名が154話の恐怖をすべて書き下ろす!
ノータイムで訪れる、ぶっ通しの戦慄の果てに広がる荒涼とした死地を体感せよ!
試し読み 冒頭3話
ノック音 夜馬裕
コン、コン、コン、コン――。健介さんは、部屋に響くノック音で目を覚ました。
枕元の時計に目をやると夜中の三時半。こんな時間に玄関を叩く迷惑な奴がいる。
男子学生ばかりのマンションで、週に一度は誰かの部屋で酒盛りするほど仲が良い。どうせ酒の切れた奴が、ビールか焼酎を拝借しに来ただけだろう。
そう思って再び布団を被ったのだが、コン、コン、コンと扉を叩く音がやまない。
仕方ないので起き上がると、健介さんは玄関の扉を開けた。だが、外には誰もいない。
すると、「おい、こっちだよ!」と廊下から男の声がするので、そのまま一歩廊下へ足を踏み出そうとして、健介さんはふと気になった。
あれ、玄関って、部屋の右側にあったっけ?
途端に、冷たい風が顔へ吹きつけて我に返った。
外に面した窓を開け放ち、身を乗り出して五階から飛び降りる寸前の自分に気づく。
すると、部屋の奥の暗がりから、「惜しい!」という声や、ケタケタという含み笑いなど、たくさんの声が聞こえてきた。考えればこのマンションに、仲良しなど一人もいない。
引っ越しを決めるまで、こんな具合に騙されて、三回も飛び降りそうになったという。
いまも 黒木あるじ
「若いころ、山で狐に化かされたことがある。さすがにこっちも馬鹿じゃないから、ちゃんと途中で正気に戻ったがね。ま、人間サマのほうが獣より賢いのは当然だ」
そう言って老人は自慢げに微笑み、どう見ても泥団子としか思えないかたまりを美味そうに頬張った。
問いかけ 黒史郎
「まだ、なにかがあったわけではないのですが……」
毎日利用している駅のホームで、たまに「危ない人」を見かけるという。
その人はよく、黄色いラインの外側を大きな荷物を持って泥酔者のようにフラフラと歩いている。その人を見ていると、気が付くと自分もつられて、ふらふらと揺れている。
たまに大きくグラリと線路側に傾くことがあって、(危ないっ)と心の中で叫ぶと、その人は視界から消える。ホームから転落したのではなく、姿がパッと消えるのである。
気がつくと自分はホームの端に立っていて、駅員に注意をされるのだそうだ。
そういうことが、一度や二度でないという。
もし、その人がホームから転落するところまでを見てしまったら、
「どうなると思います?」
(完)
朗読動画(怪読録Vol.75)
【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。
今回の語り手は超豪華! 星川慶子さん、糸柳寿昭さん、上間月貴さんの3名!
【怪読録Vol.75】短編の怖い話を3話連続でお聞きください・・・平山夢明ほか『瞬殺怪談 死地』より「遺影サービス」「帽子を拾う女」「三度目の家出」【怖い話朗読】
商品情報
シリーズ好評既刊
著者代表
平山夢明 Yumeaki Hirayama
神奈川県生まれ。『SINKER 沈むもの』で小説家デビュー。短編『独白するユニバーサル横メルカトル』で日本推理作家協会賞短編賞、『DINER』で日本冒険小説協会大賞、大藪晴彦賞を受賞。著作に『或るろくでなしの死』『暗くて静かでロックな娘』『ヤギより上、猿より下』『あむんぜん』他。実話怪談では 『「超」怖い話』『東京伝説』『平山夢明恐怖全集』『怪談遺産』などシリーズ多数。