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【書評】憑依怪談 無縁仏

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3月28日発売の文庫『憑依怪談 無縁仏』の書評です。

今回のレビュアーは卯ちりさん!
早速ご覧ください!

書評

もはや説明不要の怪談生き字引、怪談界の黎明期より活躍するいたこ28号、満を期しての怪談文庫初単著。学生時代のエピソードから、ここ最近の怪談ロケでの出来事まで、怪談に身を捧げた幾年月の活動がそのまま凝縮されており、ファースト・実話怪談集にしてベスト版の完成度と風格をたたえている。誠に記念すべき一冊である。

全33話のバラエティに富む怪談話から醸し出されるのは、少しばかり懐かしさを感じる、平成時代の(特に昭和末〜90年代の雰囲気を感じる)アンダーグラウンドな空気感だ。馬鹿らしく、ユーモラスで、少しばかりエロくて、ヘンテコで、怪奇。怪談が孕む軽妙ないかがわしさこそ、我々の好奇心の源と言わんばかりに、怖い話をここまで楽しげに伝えてくれる人間は、彼をおいて他にいないだろう。

北極ジロの名前でも活動するいたこ28号の怪談といえば、「8ミリフィルムに映る少女の話」が最も広く知られていると思うが、本書ではそれとは別の8ミリフィルム怪談「見ている」が収録。また、学生時代のエピソードでは、故・大迫純一氏との出会いと、彼と共に制作した映画にまつわる「心霊写真談」も興味深い。メディアを介した幽霊の出現は、フィルムからビデオになり、携帯電話になり、最近ではLINEやTwitter等のSNSを介した観測報告がメジャーになりつつあるが、いま一度、昭和末期における心霊体験を体験者本人の著作で味わっていただきたい。

本書収録作は、前述の怪談らしい怪談もあれば、「変な話」の怪談も豊富だ。総武線沿線での宇宙人(?)目撃談の詰め合わせ「カレラハスデニイル」は、心霊現象とは一線を画した奇天烈さがあり、SMプレイを望む幽霊「ぶた」や、枕元に立つラブドール「リョウコ」、小人の恐ろしい悪戯「よいしょ! よいしょ!」のエロ怪談の滑稽な味わいは、怪談と猥談と笑いは紙一重であることを証明している。

怪談イベントに足を運ぶファンであれば、既にイベントで拝聴している話もあるだろうが、文章でも存分に読者を面白がらせようとする心遣いと遊び心の詰まったこの一冊は、マニアのみならず怪談の新規ファン、怪談イベントに行きたい、怖い本を読みたいと迷っている人への布教にも適切だ(と個人的には思う)。

怪談バカ一代による、めくるめく怪談クロニクルは、すべての怪談ファンにとって必読の書となり、怪談入門書となり、やがては不朽の怪談バイブルと化すであろう……TABUN。

レビュアー

卯ちり
実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

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