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4月新刊『実話怪事記 怨み禍』(真白圭)内容紹介・著者コメント・試し読み・朗読動画

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怪談会社員・真白圭が日常に蟠る恐怖を引き摺り出す!

恐怖が臓腑に刻まれる真白圭の実話怪事記シリーズ最新作!

業火の如き怨みの炎は決して消えない――。
戦慄が蠢く実話怪談!

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あらすじ

「ソーシャル ディスタンス」

バーで偶然同席した同僚の女性。彼女がここにいるのは、家に明らかな異変が起きていたからだった!

「雲長」

山スキーで吹雪に見舞われ半ば遭難しかけたとき、目の前に驚きの人物が!雪女?それとも…

「リメンバー」

東京都港区の一等地に建つマンションに出没する謎の女。調べると、とあるタレントの事件にも影響が…

「蒼狼の国」

モンゴルの草原で邂逅した謎の怪物。人を食らうと云われるその者の姿は、まるで彼の国の祖――

「さきおくりびと」

登校中、目の前で流血事故が起きた。血の海となった路上だが、さらに目を疑う光景が…

「ベビーカー」

昼下がりの区民ホールのロビーで、乳母車が独りでに動き出す…。そして幌から覗くおぞましい怪異

「時刻表」

時刻表に来るはずのない列車のダイヤが書かれていた。深夜のローカル駅でそれを確かめると不気味な光景が…

「黒炎」

男女間の縺れの果てに禍々しい異形が… 著者の知人が体験したリアル心霊譚に震える!

「すねこすり 猫の膝」特別写真

こちら→特設ページ

著者コメント

こんにちは、怪談作家の真白圭です。

今作「実話怪事記 怨み禍」は、自身七冊目の単著になります。

年に一回ほど、仕事のツテや知り合いを辿って集めた奇話怪話の類を「実話怪談集」として上梓させて頂いております。

実話怪談というジャンルは実に面白いもので、呪いや祟りなど禍々しい話がある一方、日常の景色がほんの少しズレただけの出来事に、ゾッとしたりすることもあります。

其処に霊的な存在を感じることもあれば、何が何だかわからないことも多いようです。

事程左様に実体の掴みにくいジャンルだからこそ、「得体の知れないものを理解したい」という人間の本能を擽るのかもしれません。

毎回、集めた話の傾向によって作品の方向性を微妙に変えておりますが、ひとつだけ、作家を始めてからずっと変えずに心掛けているモットーがあります。

「読み物として、楽しんで頂ける本づくりをする」

特に今作では、このことを強く意識して全40話を纏めさせて頂きました。

何かと気分が沈みやすい昨今ですが、本書が読者様のひとときの憂さ晴らしになればと願ってやみません。

著者自薦・試し読み1話

白玉

「去年、旅行先で酷い目に遭ったのよ。でね、そのときのことなんだけど……ちょっと変な体験をしたから、教えてあげるわ」
 先日、居酒屋で同席した吉田さんは、都内の飲食店で働く三十代の女性だった。
 聞くと、彼女は日本各地の神社仏閣を観光するのが趣味なのだそうだ。
 日々こつこつと旅行費を貯めては、年に四、五回、国内旅行に出掛けているらしい。

 一昨年の十月のこと。
 吉田さんは、中部地方の山間部にある温泉地に宿を取った。
 友人の佐藤さんを誘っての、気ままなふたり旅である。
 旅行の初日はゆっくりと温泉に浸かり、翌日、時間を掛けて近場にある神社を参詣する予定を組んだのだという。
 ただ、吉田さんは免許を持っていないので、レンタカーを使うことはできない。
 そのため、旅行先での移動には、もっぱらバスや電車、タクシーを利用している。
「で、旅行の二日目のことだけど、昼の二時頃までに予定していた観光が全部終わっちゃったのね。それで『これから、どうしようか?』という話になって」
 吉田さんにはもう一社、もし時間が余るなら参詣したいと思っている神社があった。
 が、その神社は、温泉街から離れた山の頂上付近に建立されている。
 歩けない距離でもないが、往復すると相当時間が掛かりそうだ。
 試しにスマホで調べてみると、駅前から神社行きのバスが出ていることがわかった。
「だったら、一旦最寄り駅に向かってみようか」と、歩き始めた直後である。
「お姉ちゃんたち、○○神社へ行くの?」
 路肩に停車している軽トラックから、声を掛けられた。
 見ると、壮年の男性が運転席でニコニコと笑っている。
 いかにも、田舎の農業従事者といった風情のおじさんである。
「俺も、これから神社に用があるからさ。良かったら、乗っていきなよ」
 そう言われ、つい好意に甘えようかという気持ちになった。
 ――それが、間違いだった。
「後で聞いたんだけど、最近地方で白タクが増えているんですって。それも、自分たちが白タクだってことを黙ったまま、客を拾うらしくて」
 吉田さんたちを軽トラに誘った男性が、正にそれだった。
「こっちのほうが近いから」と、男性は途中で未舗装の山道に進路を変更した。
 そして、山腹まで上ると「運賃を払って欲しい」と言い出したのである。
「もちろん、そんなのは拒否したわよ。だいたいこっちは、タクシー料金が勿体なくて、バスに乗ろうとしていたんだから……そしたらアイツ、急に態度が変わって」
「金を払わないなら、降りてくれ」と、男性が軽トラを停めた。
 朴訥に見えた表情は消え、口元には酷薄そうな笑みを浮かべている。
 もし運賃の支払いを拒否すれば、本気で置き去りにするつもりらしい。
 が、吉田さんたちは頑なに支払いを拒んだ。
 金が惜しいというよりも、詐欺紛いの恫喝に屈するのが嫌だったのである。
「だったら、降りますから」
 そう言って、ふたりは軽トラから降車した。
 男性は引き留める素振りも見せずに、さっさと山道を上って行ってしまった。
「で、仕方ないからスマホで調べてみたんだけど、アイツ、わざと遠回りしていたのよ……きっと、それが常套手段なんでしょうけど」
 だが、愚痴を言ったところで始まらない。
 地図アプリを見ると、どうやら神社までは相当距離があるようだ。
 腹立たしいが、こうなった以上は山道を引き返すしかなさそうだった。
 時刻は、午後三時過ぎ。
 あまり愚図々々してもいられない。
 鬱蒼と茂る雑木林に囲繞され、微かな陽光しか差し込まない山道である。
 陽が傾けば、忽ち周囲が暗闇に塗り潰されてしまうのも、想像に難くない。
 が、焦る気持ちとは裏腹に、彼女たちの足取りは鈍かった。
「思ったより、道が荒れていたのよ。地面に木の根っこが伸びているし、雑草も多くて……もちろん、山歩き用の靴なんて履いてないから、坂道を下りるのが大変で」
 転ばないように気をつけて、ふたりは山道を踏みしめながら進んだ。
 スマホでタクシーを呼ぶことも考えたが、それは止めておいた。
 白タクの一件があったので、殊更、意固地になっていたのである。
 だが、無情にも山道は刻々と薄暗さを増していった。
 無論、周囲に外灯などはない。
 それでも吉田さんたちは、地面を見据えながら確実に山道を下った。
す ると、――ふと吉田さんは、地面が妙に明るいことに気がついた。
 仄かな薄明かりが、足元に差し込んでいるのである。
 そのため、暗い山の中でも木の根に躓かずに歩けているのだ。
(……でも、どうして地面が明るいんだろう?)
 気になって、光が差し込む方向を目で追った。
 ――空中に、白い玉が浮いていた。
 十メートルほど離れた後方で、白い玉がぼんやりと光を放っていた。
(懐中電灯かしら?)と目を凝らしたが、どうやら違う。
 バスケットボールくらいの大きさの光球が、山道の上に浮かんでいるのである。
 思わず吉田さんは「何、あれっ?」と声を出しそうになったが、堪えた。
 佐藤さんが、怪談話の類を嫌っていることを思い出したからである。
 もし、背後の白い玉に気づいたら、彼女はパニックを起こすかもしれない。
 それだけは、絶対に避けたいと思った。
 見ると、佐藤さんは脇目も振らずに黙々と先を歩いている。
(きっと山道を下りるのに精一杯で、後ろに気が回らないんだ)
 佐藤さんから離れ過ぎないように、吉田さんも懸命に山道を下り続けた。
 白い玉は仄かに光を発しながら、ふたりの後をついてきたという。
「それから、三十分くらい歩いたかしら。やっと山道を抜けて、舗装された道路に出られたのね。それで後ろを振り向いたら、もう白い玉はいなくなっていたわ」
 夜の帳が落ちて、まるで墨筆で塗り潰したような暗闇が雑木林に立ち込めている。
 だが、道路脇には外灯が灯り、時折、通り過ぎていく車の姿もある。
(……これなら、温泉旅館まで戻れるわ)
 吉田さんは、漸く緊張を解くことができた。

「その後、やっとの思いで温泉宿に戻ってこられたのね。それで、ひと休みすることができたんだけど……そうしたら、急にあの白い玉のことが気になり始めて」
 考えてみれば、まったく正体不明の発光体である。
 だがその割に、吉田さんはあの白い玉をあまり怖いと感じていなかった。
 と言うのも、彼女には(白い玉に助けて貰った)という思いがあったからである。
 実際、あの玉が山道を照らしてくれなければ、躓いて怪我をしていたかもしれない。 
(もしかしたら、あの玉は神様だったのかも)
 そう思うと、あの白い玉について、是非とも佐藤さんと語り合ってみたくなる。
 が、――話し掛けた途端、佐藤さんの表情が俄かに曇った。
「あぁ、吉田さんには見えてなかったんだ。アレは絶対に、神様なんかじゃないよ。だって私には、空から長い腕が伸びて、白い玉を抱えているように見えたから」
 彼女には、異様に痩せ細った二本の腕が、両側から白い玉を挟み持っているように見えていたのだという。
 その腕は上空から降りていたが、腕のつけ根がどこにあるのか見えなかった。
 白い玉を抱える指が異様に節くれ立ち、まるで乾いた朽木のようだったという。
 そんな得体の知れないものに追われていたのだと、彼女は言うのである。
「アイツ、段々と距離を縮めてきていたから、私、凄く怖くって……もし捕まったら、どうなるか想像もできなかったから」 
 そう言ったきり、佐藤さんは黙ってしまった。

 翌日の朝、ふたりはあまり会話もせずに帰路についた。
 途中、地元の交番で白タクの被害届を出したが、なぜかいまだに連絡はない。

(了)

朗読動画(怪読録Vol.81)

【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。

今回の語り手は 怪談社の上間月貴 さん!

【怪読録Vol.81】夜道で怪異に追われ、逃げ込んだ家でも恐怖は続く!―真白圭『実話怪事記 怨み禍』より【怖い話朗読】

https://youtu.be/-UuJeYkLk4c

商品情報

著者紹介

真白圭  Kei Mashiro

1971年新潟県生まれ。東京理科大学大学院修了。第四回『幽』実話怪談コンテスト佳作入選後、本格的に怪談蒐集を始める。単著に「実話怪事記」シリーズ『腐れ魂』『穢れ家』『狂い首』『憑き髪』のほか『生贄怪談』『暗黒百物語 骸』、共著に「怪談四十九夜」シリーズ、『怪談実話競作集 怨呪』などがある。

シリーズ好評既刊 

実話怪事記 腐れ魂

真白圭が炙り出す、奇妙に歪んでいてどこまでも昏い怪異の数々。人により脚の数が違うように見えるという。その数が教える恐るべき意味…「零から六の脚の話」、いつも見かけるこの世ならぬ者、ある夜ついつい手を合わせると…「先まわり」、仕事をバリバリこなす女性が手にした見知らぬ口紅。おぞましい欲望が溢れ出る恐怖「口紅」ほか全45話を収録。怪異を好むあなたの魂も、膿み腐れてもはや救いようもないほど崩れている――かもしれない。

実話怪事記 穢れ家

子供の頃によく見かけた奇声をあげる変な男性。大人になり再び見かけたがどうも様子がおかしい…「ホウおじさん」、事故が多発する交差点でうっすら見える老人、それが自分に向かって手招きするのだが…「手招き」、仕事も順調で家庭も円満――そんな成功者の彼が話す、逃れられない忌まわしい家の秘密「忖度」など46編を収録。いつもの通り道、ふと気づけば見知らぬ家々――ふと開いたドアに吸い寄せられて、黒い闇の中へようこそ。

実話怪事記 狂い首

日々の取材の中で得た奇妙で不思議な話を丁寧に綴る真白圭の最新作。スタジオに現れる不審な男が妙な問いかけをしてくる。答えられずにいたら…「インストラクター」、砂地で見つけたウミガメの死骸に、黒魔術オタクの友人が妙なことをやり始めると…「魔法陣」、野原に電柱がたくさん立っている! その光景を見て声を弾ませた友人。でもその場にいたもう一人の彼に見えていたのは棒に刺さった生首の数々――〈首〉に翻弄される彼らのその後とは「晒し野」など46話収録。

実話怪事記 憑き髪

緻密な取材で集めた不可思議な恐怖を、丹念に描き尽くす真白圭の実話怪事記シリーズ最新作! 旅先で廃墟を訪れてから体調を崩して……自分だけに降りかかる無慈悲な怪異「幽体離脱」、パーティー会場となった台湾の屋敷で遭遇する怪奇現象の数々「迷い家」、アパート中に響く居るはずのない犬の声。同居人の陰惨な過去に意外な原因が…「犬鳴き」、毎夜現れるこの世ならざる髪の長いおんな。逃れるためにお祓いへ向かうが…「ひとふさ」など43編を収録。憑いたものがどこまでも追ってくる! 絡みつく恐怖はあなたにも――。

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