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4月新刊『怪談天中殺 占い師の怖い話』(幽木武彦)内容紹介・試し読み・朗読動画

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算命学×心霊現象。命式が語る、恐怖の予兆!

すべての怪は宿命に、命式に予言されている……

生年月日から導き出す命式や人体図で個人の本質や宿命を占う算命学。
命式を見れば霊感の有無さえ分かるという占術は、その人が遭遇する心霊的な事象、怪奇事件まで暗示していることがある。
本書はそんな〈宿命の怪〉を目撃した占い師が綴る戦慄の実話怪奇録である――

算命学の占い師が語る、異色の実話怪談!

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あらすじ

「倒異の業」

よそから家に入る女性を倒す宿命を持った叔父。案の定、息子の嫁が自殺し、家の中に異変が…

寺の多い町」

大運年運月運と3つの天中殺が重なる時期に引っ越した部屋で起きた怪現象。その土地には何が…

「死神」

勤める会社がことごとく数年以内に倒産、社長が急逝するという女性。彼女は「何」を持って…

「凍子」

凍子と藍子、二人の女性占い師は前世からの因縁を持つ宿敵。やがて凍子が術を使い生霊を…

「墓殺格の女」

恵まれた財運と裏腹に精神的安定を得にくい宿命の女性。呪いに手を出した彼女の末路とは…

「あいけ」

夫に二度先立たれた天干二重干合の宿命をもつ女性。残された幼い息子がある日、妙な言葉を…

「井戸」

白龍を守護神にもつ女性の家の庭にある触れてはならぬと言われた古井戸。禁忌に触れた父母は…

「争母」

母の愛を奪い合う争母の命式を持って生まれた双子の姉妹。早世した姉の魂が妹の娘に憑依し…

著者コメント

ズバリ「見えてしまう」人もいれば「聞こえる」人もいる。
「匂う」人もいます。
そう。匂いは異形の者たちと繋がる不気味なサインの一つ。かく言う私も、とっくに鬼籍に入った父の匂いがなぜだか濃厚に立ちこめる実家に帰省をし、家に入れなかったことがありました。
忘れもしない、父の新盆の時のことです。
この『いやな匂い』という怪談も、そんな「匂い」を通じてグロテスクな異界に引きずりこまれた、ある女性の実体験です。

著者自薦・試し読み1話

いやな匂い

「死んでしまった人間との相性って、見てもらえるものなんですか」
 占いの仕事をしていると、人生はいろいろだと考えさせられる。
 しかもそこに、怪異の蒐集などというもう一つのフィルターが加わると、そんな私の複雑な思いは、ますます強いものになる。
 奇妙な相談をしてきたのは、半田郁美さん。占い師として私が運営するサイトを通じて問いかけてきた。
 もちろんできますと、返事をした。すると半田さんからは、こんな返事が来た。
「義母と私を見てもらいたいんです。私を憎んで、憎んで憎んで、死んでいった人との相性を」

 四十路を迎えた半田さんの離婚歴は、二回。
 三歳になる一人息子は、二度目の結婚でようやくさずかった。現在は、最初の結婚相手だった男性とよりを戻し、息子と三人で暮らしている。
 しかしその生活は、聞いてみると相当怪奇だった。私、結婚運悪いんですかねと、半田さんは自虐的に言った。
 そうかもしれなかった。

年干支 庚申
月干支 乙酉
日干支 庚子

 半田さんの日干支は「庚子」。
 こんなことを言っては何だが、あまり結婚運はよろしくない。
 しかも「天干二重干合」(結婚が一度ですまない場合が多い)「井蘭斜格」(家庭運があまりよくない)といった状態にもなっている。
 最初の結婚は、二十七歳のとき。
 くだんの義母に、二年半もの長きにわたって反対され続けた末のゴールインだった。
 夫(当時は恋人)に連れられ、最初に挨拶に行ったときから忌みきらわれた。
 あとで夫から聞いた話では「笑ったときの目の形が嫌い」ということのようだった。
 そんなことを言われて、こちらも気分がいいわけがない。
 だが半田さんは必死に努力をし、ようやく義理の両親の許しを得ることができた。
 しかし案の定、同居生活はうまくいかない。
 どうしても義母とそりがあわない。
 それこそ箸のあげおろしから、ちょっとしたふるまいのあれこれ、ファッションやヘアスタイルまで、いちゃもんをつけられた。
 夫婦のプライベートなスペースにまで、義母は平気で立ち入り、ゴミ箱の中までチェックをされた。
 三年、持たなかった。
 半田さんは泣く泣く家を飛びだした。
「こんなに嫌いな人も珍しいというぐらい嫌いでしたね。夫との仲は悪くなかったのですが、結局離婚を選びました」
 再婚をしたのは、三十五歳のとき。
 三十七歳にして、ようやく一児をもうけることができた。
 名を陽太くんという。
 だが新しい夫は、極度の浮気性だった。本気になった愛人の家に入りびたるようになった。
 離縁を求められた半田さんは、紆余曲折の末、二度目の離婚届に判を押した。三十八歳になる歳のことだった。
 ところが、焼けぼっくいに火が点いた。初婚の相手だった夫が、連絡を取ってきたのである。
「嫌いになって別れたわけではありませんでしたから。再婚相手だった男にくらべたら、いろいろな意味で信頼できる人でした。でも、義母とは二度と暮らせません」
 しかも半田さんには、すでに陽太くんもいた。簡単に、義母が再婚を認めようとも思えない。
 果たせるかな、やはり首は縦に振られなかった。
 すでに義父は鬼籍に入り、義母は未亡人になっていたが、女帝ぶりには、むしろ拍車がかかっていた。
「でも夫は、今度は何があってもと抵抗してくれて。結局義母が反対しても実家を飛びだし、三人で暮らす道を選択してくれました」
 こうして半田さんは、前夫とやり直すことになった。
 あんな女の子供に財産はやれないと反対する義母を刺激しないよう、籍を入れることはせず、事実婚の形を採った。
 挨拶に出向くことを義母が拒んだため、一度として顔を見ることはかなわなかった。
 新しい暮らしが始まった。
 それが、一年前のこと。
 夫は陽太くんを我が子のようにかわいがり、また陽太くんも、新しい父親によくなついた。
 半田さんの心中には常に義母の存在があったが、それでも前夫との二度目の日々に、女の幸せを感じていた。
 ほどなく、義母に癌が見つかった。
 スキルス胃がんだった。
「私のせいにされました。あんな女が戻ってきたから病気になったって」
 半田さんの言葉には、怒りとやるせなさがにじんでいた。
「入院をしても、義母は私が見舞いに行くことを絶対に許しませんでした。でも、とうとう危篤になってしまって、私は夫と病院に駆けつけました」
 半田さんは宿命の義母との再会を果たした。
 十年ぶりだった。
 個室のベッドに横たわり、義母は生死の境をさまよっていた。
 別人のようだった。骨と皮ばかりになっていた。
 本当に義母かと疑いすらした。
 ふくよかな人だったのに、あの頃の義母はもうどこにもいない。しかも、意識はすでに朦朧とし、瞳は鉛色に濁っていたというのに――。
「私がいることに気づくと、表情が変わったんです」
 半田さんはそう言った。
 うつろだったはずの義母の目が、くわっと見開かれた。
 すでに言葉など発せられる状態ではない。
 それなのに、何か言わずにはいられないとばかりに口が動いた。皺だらけの顔に、憎悪と怒りがあらわれた。
「私だって、正直思いは同じです。でも、命の炎がつきかけている人にそんな顔で睨まれて『ああ、ここまで嫌われていたんだ』って今更のように思ったりもして」
 私は半田さんから、義母の生年月日を聞いた。
 詳細を書くことはひかえるが、その日干支は「庚子」。
 半田さんと同じだった。
 同じ日干支を持つもの同士は、一つのコミュニティに共存できない。カップルだったらかなり危険な相性になるし、親子であれば衝突は禁じ得ない。
 そういう意味では、半田さんと義母の相性は最悪と言ってもよかった。だが「それにしたって、いくら何でも……」という思いは禁じ得ない。
 しかも、これはまだ序章にすぎなかった。
「四十九日が過ぎてしばらくすると、もう義母はいなくなったのだから、何かと手狭な家にいるより、実家に戻ったほうがいいだろうということになって。私は息子を連れ、かつて数年間だけ暮らした家に引っ越すことになりました」
 喪が明けたら、晴れて入籍をしようと夫からは言われていた。夫の実家で暮らし始めたのは、半年ほど前のことのようだ。
 そして、悪夢は始まった。
「引っ越しをしたときから、何だか変な感じはしていたんです。家の中に、義母の匂いが異常なぐらいしているんですよね」
 半田さんは眉をひそめたという。
 義母が暮らしていた私室はもちろん、家の中のどこにいても、いやな匂いがついてまわった。
 そのことを訴えても、夫はまったくピンと来ない。「長いことここで生活していたんだから、仕方ないんじゃないか」と一笑に付されるばかりだった。
 だが、義母の匂いは半田さんを悩ませた。
 慣れることができなかった。
 半田さんはそんな自分を懸命になだめながら、義母の私物を少しずつ、夫と二人で処分した。
 そんなある日のことだった。
「二階で探しものを終えて、下に降りようとしたんです。階段のステップに足をかけようとすると、後ろから……」
 ――郁美さん。
 半田さんは飛びあがりそうになった。
 自分と息子以外、誰もいないはずの昼下がり。
 しかも、声に聞きおぼえがある。
 忘れられるはずもない声だった。
「私、驚いて振り向こうとしました。そうしたら」
 足をすべらせた。
 バランスをくずしてふりかえる。
 義母がいた。
 痩せこけた、グロテスクな老婆が無表情で半田さんを見ている。
「一階まで転げおちました。首の骨を折らなくてよかったとお医者さんに言われるぐらい、派手な落ちかたでした。頭を強く打って、脳しんとうを起こしました」
 けがの痛みもひどかったが、正直それより、恐怖が勝った。
 どうして義母など見たのだ。
 声も聞いた。
 幻聴と言うには、あまりにリアルな声だった。
「夫にも話したんですけど、ケンカになってしまいました。いい加減にしろよっていう感じで。でも、夫の言うことも分かるんです。自分の言っていることがおかしいという自覚は私にだってあります。でも」
 その日以来、義母の匂いはますます強いものになった。
 家にいると、いつも背後に気配を感じた。もちろん振り返っても、誰もいなどしない。
 しかし匂いは半田さんの肉体に、いや、心にまで、泥のようにまつわりついた。
「やがて、ゾッとするようなことが始まりました。信じられますか。義母の匂いが、息子の身体からするようになったんです」
 半田さんは、あまりのことにパニックになったという。
 陽太くんの日常に、異変はなかった。新しい暮らしにもなじみ、夫との仲も順調そのものだ。
 だが、匂いがした。
 義母の匂いが。
 どうして息子の身体からそんな匂いがするの――ケンカになることを承知で、半田さんはまたしても夫に訴えた。
 夫はさすがにうんざりした様子で、心療内科への通院を提案したと言う。
「誰にも分かってもらえない。生きた心地がしませんでした。私は陽太から目が離せなくなって、食事も喉を通らなくなりました」
 決定的な出来事は、そんなある晩、起きた。
 俗に言う、草木も眠る丑三つ時。
 半田さんたち親子は、八畳の和室に寝ていた。
 奇妙な物音に起こされた。
 半田さんは眉をひそめた。
 どろっと深い闇の底で、陽太くんが笑っている。
「寝ぼけているのかなって思いながら、息子が寝ている布団のほうを見ました。そうしたら――」
 えっ。
 半田さんは、陽太くんが眠る布団を凝視した。
 誰かが一緒に寝ている。
 誰かって誰よ。
 半田さんは布団から飛びおきた。
 義母だった。
 痩せこけた、骨と皮ばかりの義母が陽太くんに添い寝をし、耳元で何かをささやいている。
 一人息子は眠っていた。
 それなのに、義母のささやきに反応し、時折無邪気な笑い声をあげる。
 そんな陽太くんの頭を、いい子いい子とでも言うように、義母は何度もそっと撫でた。
 その顔つきに見おぼえがあった。
 笑っていなかった。
 そこにあるのは何度も半田さんに向けられた、背筋が凍る無表情。
「私は悲鳴をあげました。息子に駆けよりました。寝ていた陽太を抱きかかえ、布団から引きずりだしました」
 あわてて夫が飛びおきた。明かりをつける。
 だが、寝ぼけ眼で「どうしたんだよ」といぶかる夫が見たものは、とまどう陽太くんを抱きしめ、おかしくなったような声をあげる半田さんの異様な姿だけだった。

「そうですか。やっぱり相性最悪なんですね、私と義母。でも、それにしたって」
 鑑定結果を話すと、半田さんからはそんな返事が来た。
 でも、それにしたって――思いはまったく、同じである。人は、ここまで人を忌みきらい、憎み続けることができるものだろうか。
 よかったら、知りあいの祈祷師を紹介しますよと私は言った。
 だがすでに、見かねた夫がお祓いの依頼や引っ越しの準備など、いろいろなことを始めているという。
「先生の本を読んで、算命学だったらどんな結果が出るんだろうと思って聞いただけです。心配してくださって、ありがとうございます」
 半田さんからの最後のメールには、そう書かれていた。
 そのあと半田さんと義母がどうなったのか、もちろん私には、分からない。

(了)

朗読動画(怪読録Vol.77)

【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。

今回の語り手は 怪談社の 小森躅也 さん!

【怪読録Vol.80】しとしと雨音に混じる恐ろしい泣き声――幽木武彦『怪談天中殺 占い師の怖い話』より【怖い話朗読】

商品情報

  • 著者名:幽木武彦
  • 発売日:2021/4/28 ※発売日は地域によって前後する場合があります。
  • 定価:本体680円+税
  • ISBNコード:9784801926295
  • シリーズ:占い師の怖い話

著者紹介

幽木武彦 Takehiko Yuuki

占術家、怪異蒐集家。算命学、九星気学などを使い、広大なネットのあちこちに占い師として出没。朝から夜中まで占い漬けになりつつ、お客様など、怖い話と縁が深そうな語り部を発掘しては奇妙な怪談に耳を傾ける日々を送る。トラウマ的な恐怖体験は23歳の冬。ある朝起きたら難病患者になっており、24時間で全身が麻痺して絶命しそうになったこと。退院までに、怖い病院で一年半を費やすホラーな青春を送る。中の人、結城武彦が運営しているのは「結城武彦/幽木武彦公式サイト(https://www.takehiko-yuuki.com/)」。既著に『算命学怪談 占い師の怖い話』(竹書房)がある。

シリーズ好評既刊 

算命学怪談

占い師の怖い話

古代中国で生まれ、王家秘伝の軍略として伝承されてきた占術、算命学。恐ろしいほどの的中率をもつその占いは、生年月日から導く命式で霊感の有無、時に寿命までわかるという。本書は算命学の占い師が鑑定の中で遭遇した戦慄の実話を纏めたものである。妹に恋人を奪われ自殺した姉と同じ名前の人物が不幸を齎す。命式を見ると…「静子」、全柱異常干支という特異な命式を持つ少女が見る霊の正体とは…「茜ちゃん」、自分は長く生きられないと思う――算命学の奥義である寿命計算を依頼してきた若き女性。彼女の義父と義兄の連続首吊り死と赤い花の関係とは…「彼岸花」――他、驚異の27話!

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