葬儀職を選んだ驚きのきっかけ、そして独特の職業観・死生観とは【下駄華緒さんロングインタビュー前編】
本年1月に行われた、日本で一番恐い怪談を語る人物を決める大会――怪談最恐戦。この日本一の怪談コンテストにおいて2019年度の怪談最恐位に輝いたのが、〈送り人ミュージシャン〉として怪談界に彗星のごとく現れた下駄華緒である。ロックバンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストでありながら、元火葬場・葬儀屋職員という異例の経歴をもつ彼は、雑誌・本当にあった愉快な話のコミック連載「最期の火を灯す者」原作、WEB連載「下駄華緒の弔い人奇譚」、自身のYouTube対談番組「創生」など、2020年に諸処で目覚しい活躍をしている。
今回は、このノリにノッテいる送り人ミュージシャンにロングインタビューを敢行。下駄華緒という人物は何者なのか、怪談や音楽について、そして培った職業観・死生観などについてじっくりと掘り下げる。
聞き手は、下駄華緒と同じ怪談最恐戦2019出場者の卯ちりさん。
目次
松原タニシとバンドメンバーだった
卯ちり(以下、略)―1月のことにはなりますが、怪談最恐戦での怪談最恐位、おめでとうございます! 優勝後の、周りの方からの反応は如何でしたか?
下駄華緒(以下、略) 僕の周りだと、「あの下駄さんが!?」という感じではなくて。仲良くしてもらってる、田中俊行さんや竹内義和さん、三木大雲さんとか、既にチャンピオンになっていますから、「下駄さんもチャンピオンになったんだね〜! おめでとう!」という反応でした。結果に驚いてくれた方もいらっしゃるかもしれませんが。
―怪談を語り始めたのはOKOWAからですよね。
OKOWAが始動する前ですが、元々、僕は松原タニシくんのバンドのメンバーだったんですよ。タニシくんとは同じラーメン屋でバイトしていて、前々から仲良くさせていただいてたんですが、いつの頃からか、タニシくんが「いま、事故物件住んでるんすよ〜」って話をするようになって。
―「恐い間取り」のエピソードを、下駄さんはリアルタイムで全部お聞きしていたんですね。
そうそう。変わったことしてんなぁと思っていたら、おちゅーんで怪談企画をやりたいという話が持ち上がったんです。その時に「そういえば、下駄さんって火葬場職員だったよね?」って聞かれて、火葬場職員の体験をOKOWAで語ったのが始まり。怖い話や都市伝説は元々すごく好きなので、実際に喋ってみたら面白いなあって。
―下駄さんの語る火葬場のお話、とても新鮮です。日常での心霊現象の遭遇や、心霊スポットに訪れた時のエピソード等の、一般的な体験談とは一味違う面白さがあります。
火葬場職員や葬儀屋って、どちらかといえば「隠しがち」な業種なんですよね。映画『おくりびと』でも、好まれていない職業として描かれてしましたし、その仕事に従事していること自体、あまり公言しない。そういう意味では、皆さんが知らないことって、すごく多いんですよ。怖い話だけでなく、その仕事について伝えるのも、僕の中ではひとつの目標です。
「人を焼いた」バンドマンが火葬場職員のきっかけ
―noteでの連載「下駄華緒の弔い人奇譚」を拝読すると、「そうなんだ、知らなかった!」という発見が多いです。火葬場職員というお仕事は、たしかに謎が多いだけに、好奇心をそそられます。世間一般からすればマニアックなお仕事だと思うのですが、どういった経緯で就業されたんですか?
先輩のバンドマンに、めちゃくちゃパンクで怖い人がいたんですよ。すんごい怖い人だからとんでもない噂が立っていて。「あいつ、人を焼いたことあるで」って。僕もその噂が気になってしょうがなくて、恐る恐る聞いたんですよ。「人を焼いたことあるって、マジすか?」と。そしたら先輩が「あるで」って。……その先輩、火葬場職員だったんです。
―噂は本当だったんですね。
火葬場職員って、どうやったらなれるんですかって先輩に聞いたら、「今、求人載ってるで」って。ちょうどその頃は、僕のお祖父ちゃんが亡くなった時期で、その時にお世話になった火葬場職員のおっちゃんが、めちゃくちゃ良い人やったんですよ。いい仕事だなあと感じたのと、身近な人が仕事をやっていたのがきっかけで、やってみようかなと思いましたね。
―やりがいという点では納得です。しかしご遺体を扱うというところに、抵抗感や忌避感を抱くこともありますよね。心身ともにハードな仕事にも思えますが、その辺は大丈夫でしたか?
無理な人は無理ですね。ご遺体も、綺麗な状態とは限りませんから。最近は独居老人の孤独死が多いので、夏場は結構ご遺体の損傷が激しい。それがどうしても無理という人もいますが、逆に僕は、そんなに苦痛ではなかった。その人の性格によるんじゃないかなと思います。
仕事で大変なことといえば、例えば夜中の2時に起こされて病院に出向くとか、ご遺体を運ぶ仕事が多かったりとか、体力的なしんどさです。あとはご遺族の方たちの喧嘩の仲裁とか。ご遺族の皆さん、葬式の時は寝てないですからね。寝不足だからストレスが溜まってしまっている。
深々と頭を下げて「ありがとうございました」と感謝される仕事は他にないなと、やってみて思いますけど、怒られる時は「この人殺し!」って言われます。(笑)
―落差が激しいですね⁉︎
落差は激しいですよ。人殺しって言われた次の日には「神様みたい」と感謝されたりして、忙しい職種ですけど、僕は大丈夫です。
霊や魂は「わからない」けれど「ある」もの?
―下駄さんはお仕事で実際に体験されたエピソードを怪談としてお話しされていますが、霊感はある方ですか?
「霊感」というものに対しては、確証が持てない立場で行こうかなと、僕は思ってるんです。やっぱり、わからないんですよ。僕自身は霊感があるとは全然思っていないけど、働いていると「え?」って思うような、偶然にしても偶然すぎるというか、全然説明つかへん! ってことは、やっぱりあるんですよ。「説明のつかない事柄」と、「自分は霊現象を感じたことがないからわからない」という、ふたつの葛藤はありますね。
―霊感を自覚している人は「(霊的なものを)感じている」ことに意識的だけど、普通に生きていて、意図せず不思議な出来事に遭遇してしまう人もいる、ということでしょうか。
そうでしょうね。僕はどちらかというと、三木大雲さん寄りな考え方。科学的に解明したい気持ちがあります。現象として起こるのであれば、きっと何かがあるんじゃないか。霊魂や魂という存在は、現在は観測できないけれど、実際には「ある」んじゃないかと、僕は考えてます。
葬儀屋って、病院にご遺体を迎えに行くんです。その際に、ストレッチャーという台にご遺体を載せるんですが、ご遺体に触れると、冷たくなっている。でもたまに、手際のいいご遺族の方が、「もうそろそろ死ぬやろうから、葬儀屋呼んでおくか」って場合があって、その時のご遺体は亡くなって間もないせいか、触れると温かいんです。その時に思ったのは、15分前まで生きていたこの人と、今目の前で死んでいるこの人と、一体何が違うのだろう……と。現場でそういったことを感じるのは多々ありますが、その度に、何か「ある」のかなあ、って。
―哲学的な、深い話ですね。
これはほんまに、思ったことを言っているだけです!
――(後編に続く)
話した人:下駄華緒
2018年、バンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストとしてユニバーサルミュージックよりデビュー。前職の火葬場職員、葬儀屋の経験を生かし怪談師としても全国を駆け回る。怪談最恐戦2019怪談最恐位。「下駄華緒の弔い人奇譚」連載中。
聞いた人:卯ちり
実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。ブックレビュワーとしても活躍中。