【日々怪談】2021年2月18日の怖い話~建設現場
建設現場
嫁に屋内禁煙を言い渡され、外で煙草を吸うようになった。
丁度その頃、町内に一戸建ての建築現場があり、工事作業者用の三つ脚の付いた灰皿が設置されていたため、そこを喫煙所にしていた。
夜風を浴びながらの一服はなかなかに心地よく、次第に完成に近付く工事の進捗具合を眺めるのも、楽しかった。
とある日、煙草を咥えて工事現場を見ていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、ヘルメットを被り作業服を着た男が立っていた。
時間は深夜零時を過ぎている。
夜間勤務か。
「あ、どうも」
「……」
勝手に灰皿を使うのがマズかったのかもしれない。
僅かな月明かりだけでは男の表情を窺うこともできない。
「……この……だめだ」
「はい?」
「……痛いから……」
男は何かブツブツ言っているようだが、うまく聞き取れない。
その様子から何か厄介なことに巻き込まれそうな風向きを感じ、この場を退散しようと、まず煙草を灰皿に捨てた。
「おやすみなさい」
一応、別れの挨拶を投げかけ、男に背を向け一歩足を踏み出した。
「だから! だめだって!」
急な叫び声に驚き振り返ると、男は地面に寝そべっていた。
やっぱり、厄介だ。
男の姿を尻目に早足で家に戻ると、嫁に驚かれた。
着ていた白地のTシャツの前面に、いつの間にかマジックで、
〈オニ〉
と書かれていた。
――「建設現場」高田公太『恐怖箱 百聞』より