竹書房怪談文庫 > 怪談NEWS > 新刊情報 > 【書評】怪談最恐戦2019

【書評】怪談最恐戦2019

Pocket

3月28日発売の文庫『怪談最恐戦2019』の書評です。

今回のレビュアーは卯ちりさん!
早速ご覧ください!

書評

怪談最恐戦2019ファイナリストが予選会・決勝戦で語った怪談を中心に、今大会の模様を写真付きで掲載し、怪談最恐戦投稿部門「怪談マンスリーコンテスト」受賞作も併せて収録したのが本書である。

言わずもがな、最恐戦収録作は怪談作家による読み物としての実話怪談ではなく、気鋭の怪談師による語りの技術で表現された怪談が、ほぼそのままの語り口調で文章化されており、「聴く怪談」として完成度の高い話が揃っている。

口語表現として明瞭簡潔に展開される怪談は、実話怪談本を読みなれている読者には少々物足りなさと違和感を感じるかもしれないが、たとえば前年度怪談最恐位ぁみによる怪談二話は、会場で笑いに包まれた語りの印象とは裏腹に、文章で読むとスリリングさが際立ち、下駄華緒「お祖母ちゃんとの思い出」は、郷愁と恐怖が共存する随筆としても一読の価値がある。文章化にあたり、決勝戦での緊迫した語りとは異なる趣に仕上がっていると筆者は思うが、DVDが発売されたら是非読み比べ・聴き比べてほしい。

また、本書は最恐戦を鑑賞済みの怪談ファンだけでなく、これから怪談を語りたい・書きたいと考えている、あるいは技術をブラッシュアップしたいと意気込んでいる挑戦者には、特に目を通して頂きたい。

怪談最恐戦は5分以内(準決勝は7分、決勝戦は15分以内)、マンスリーコンテストはお題に沿った1000文字以内という制約の中で最大限に練られて構成され、審査を勝ち進んだ作品たちである。各々の個性や作家性だけでなく、構成力の巧みさ、話のテンポ、オチの結び方など、発信者の目線で読むと発見も多い(というのが、怪談最恐戦とマンスリーの、両方のコンテストに参加した筆者の正直な感想である)。

最恐戦は声に出して読みたい怪談。マンスリーコンテスト受賞作は、無駄な描写を削ぎ落とし、恐怖描写を追求したソリッドな怪談。

怪談朗読を志す人は最恐戦の怪談を音読練習することで得るものがあるかもしれないし、実話怪談の書き手はコンテストのお題と照らし合わせながら受賞作を読むことで、着想や構成のヒントを得られるかもしれない。

本書掲載の怪談師・怪談作家は総勢18名。応援している怪談師の話を書籍で読みたい人だけでなく、多彩で個性豊かな彼らの怪談は、今後の怪談界の起爆剤になることは、間違いない。

レビュワー

卯ちり  Uchiri

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

この記事が気に入ったら
フォローをお願いいたします。
怪談の最新情報をお届けします。

この記事のシェアはこちらから


関連記事

ページトップ