【日々怪談】2021年4月20日の怖い話~下にまいります
【今日は何の日?】4月20日: 女子大の日
下にまいります
浅川さんは女子大に通っていた。地方出身なので、併設されている女子寮に入寮した。その寮も今は建て替えられてしまったが、古い建物には変な噂も多かったという。
浅川さんの部屋は二階の端の部屋だった。
彼女は心霊関係に敏感な体質で、入寮した当初からおかしいとは感じていた。
ある夜、ふと目覚めると、髪の長い小柄な女の子が、膝を抱えた状態で薄ぼんやりと光りながら宙に浮いていた。離れて眺めると大きな胎児のようにも見えた。声は聞こえないが、口元が小さく動いているので、何かを呟いているらしい。
そのときからひと月に一度くらいの頻度で、その女の子を見るようになった。特に何かする訳ではない。宙に浮いているだけだ。浅川さんは関わるのが嫌で無視し続けた。
半年が過ぎようとする頃、変化に気付いた。女の子は次第に高度を下げていた。一年もすると、下半身が床に沈んでいた。
さらに半年が経った頃には、首から上だけが床から生えているような状態だった。そうなってもまだぶつぶつ呟いているようだった。
寮の下の階の部屋は開かずの間になっていたので、その子の下半身がその部屋でどうなっていたか分からない。
卒業してから十年以上経って、趣味のサークルで知り合った一回り年上の女性が、偶然同じ女子大の卒業生で、同じ寮に住んでいたことが分かった。歳の離れた先輩だ。
寮の話を懐かしく語り合っているとき、ひょんなことから「ゆっくり一年かけて落ちてくる少女」の話が出た。
自分の部屋の女の子のことだと直感し、詳しく話を聞くと、その女性は浅川さんの一つ上の階の部屋に住んでいて、やはり女の子は二年近くかけて、ゆっくり床に沈んでいったのだという。
――「 下にまいります」神沼三平太『恐怖箱 百舌』より