【日々怪談】2021年8月3日の怖い話~はさみうち

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【今日は何の日?】8月3日: はさみの日

はさみうち

 免許を取ったばかりの山下は、霊感のある友人の小池を誘って、深夜山奥の心霊スポットまで車を走らせた。
 実際には誘ったというよりも、途中まで来てからスポットに行くと切り出すという、だまし討ちのような形だった。だが、そうでもしないと小池は心霊スポットに同行してくれないのだ。
 山道を走っていると、目的地に到着する直前に、小池が「うっ」と小さく声を上げた。
「何?」
「いや、何でもない」
 問い詰めてもそれ以上は言わないので、そのまま目的地まで車を走らせた。
「ここが噂なんだよ」
「でも、何にも感じないよ」
「そっか。小池が言うならそうなんだろうな。残念だなぁ」
 ひとしきり回った後に、山下が先程小池が声を上げた理由を訊ねた。
「あのさ、途中に脇道あったの覚えてる?」
「うん。あったね。草ぼうぼうの廃道みたいなのでしょ」
「そうそれ。あそこは俺ヤバいと思うんだよなぁ」
 意外な発言に、山下は「今夜はそこに行こう」と持ちかけたが、小池は首を縦に振らない。
「ならお前が運転しろよ。行けるとこまでで良いからさ。頼むよ」
 山下から小池に運転を交替し、分岐まで戻った。しかしそこでも小池はヤバいと思うと繰り返すばかりで先に進みたがらない。
「分かった分かった。ならさ、バックで行こうぜ。それならアクセル踏めばすぐ逃げられるじゃないか」
 その条件ならと小池は車を切り返し、そろそろとバックで廃道に車を進めた。
 後部座席に陣取った山下が、懐中電灯で車の後方を照らして誘導する。轍のある道を暫く進むと山下の視界の先に赤いものが見えた。
 懐中電灯の光が直接届く距離になった。先程からぼんやり赤く見えていたものは、四歳くらいの女の子だった。三輪車に乗って俯いている。
 日付はとうに越えている。これは何だと思った途端に、女の子はきこきこと音を立てながら三輪車を漕ぎ始めた。表情は分からない。三輪車は次第に車に近付いてくる。
 嫌な汗が吹き出た。
 そのときバックでそろそろと動いていた車が予告なく停まり、そのまま急発進した。
「何だよ!」
「何も喋んな!」
 小池は必死の形相でアクセルを踏み、廃道を抜けてハンドルを切った。暫く走って、やっと路肩に車を寄せた。
「お前もあの三輪車の子見たんだろ? あれ何だったんだろうな」
「三輪車? 俺は見てないよ」
「そんじゃお前、何見たんだ?」
 小池は、今車が入ってきた道を、白い服を着た女性が近付いてきたのだと言った。女性はまっすぐ近付いてくると、そのまま車をすり抜けるようにして通り過ぎた。
「それで怖くなってアクセルを踏んだんだが」
 山下はその女性を見ていなかった。
 小池は三輪車の女の子を見ていなかった。
 四国の山中での話だという。

――「はさみうち」神沼三平太『恐怖箱 百眼』より

#ヒビカイ # はさみの日

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