5月新刊『怪談聖あやしかいわ』（糸柳寿昭）内容紹介・試し読み・朗読動画

交わす言霊より生まれし怪。
聞き手と語り手が紡ぐ密なる実話怪談！

「いま話している間も異変が起きるかもしれません…」

人と人の会話の中に、怪異の正体は隠されている――
取材時の会話を可能な限り再現することで表した体験談は、
行間に零れる息遣いに生々しい恐怖が匂い立つ。
取材を続けて十数年、怪の伝道を続ける聖【ひじり】と呼ぶにふさわしい男が集めた実話怪談集！

「」と「」から始まる怪談、怒涛の55話書き下ろし！

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あらすじ

「ぷかぷか浮いていた」

昭和時代、炭鉱の町の風呂屋街で流れた不気味な噂。当時の生き証人が語る真相とは…

「心霊スポットの帰り」

肝試しで体験した恐怖を取材中、、体験者が気付いていなかった別の怪奇が明らかに…

「しゃべる犬」

うちの犬は寝ている時に寝言のように日本語を話すのだという彼。その内容とは…

「父親の幻覚」

老人ホームに入居する認知症の父親が呟く言葉。彼が風景に見つけた奇妙なものは…

「終わってる会」

終礼の時間、教室が水浸しになっていた事で小言を言う教師。話は思わぬ方向へ…

「オンライン飲み会」

私、憑かれているかもしれないという告白に、飲み会メンバーの一人はある提案を…

「受け継がれる不幸」

不幸の連続だった人生には理由が…因果の呪縛から逃れるために母がとった衝撃の行動

「お祓いの重要性」

力のある僧侶からお祓いを受けた男性。もしあなたがとり憑かれたとき運命を左右するのは…

著者コメント

文章で怪談を楽しむ醍醐味は、脳内再生と行間を読むことにあると思います。
様々な感情が渦巻く、怪しい会話を楽しんで頂けたら嬉しいです。

そしてこれからも「怪談」がもっとスポットライトを浴びるジャンルになるよう頑張っていきます。

試し読み1話

「でてくる」

「もうすぐＹくんは小学生。みんなと学校行きたいでしょ？」
「うん、みんなと、がっこういきたい！　はやく、サクラさくといいなあ」
「そうだね。桜が咲いたら小学生だもんね。でも、しっかりしなきゃダメよ。となりの家のＮちゃんに笑われちゃうよ。お兄ちゃんは小学生なのに赤ちゃんみたいだって。だからね、ご飯も残さずちゃんと食べて。遊んだあとはちゃんとお片付けしてね。ほら、ここにも切った折り紙の紙が。こういうのをちゃんと掃除しないと」
「はーい、ごめんなさーい。でも、おじいちゃんにおりがみ、つくってあげてたの」
「仏壇にね。それはいいけど、ちゃんとお片付けすること。特に粘土。あれはテーブルの上だけって言ったでしょ。パパとママの言うことはちゃんと聞くこと。わかった？」
「わかったー。おじいちゃんのいうことは、きかなくてもいい？」
「お祖父ちゃん？　お祖父ちゃんは仏壇にいるでしょ。ちゃんと手をあわせたり、お花あげたり、折り紙も別にいいけど……」
「ちがうの。おじいちゃん。おじいちゃんのいうことは、きかなくてもいいの？」
「お祖父ちゃんの言うことってなに？　お祖父ちゃんなにも言わないでしょ」
「いうよ、おじいちゃん。よるになったら、へやにくるもん」
「へやってＹくんの部屋のこと？　なに言ってるの。くるわけないでしょ」
「くるよ。よるになったら、ぶつだんのドアあけて。ぼくのへや、くるよ」
「ドア？　ドアって仏壇の扉のこと？」
「うん、こうやって、あたま、したにして。りょうて、まえにだして。でてくるよ」
「ちょっと……お祖父ちゃん亡くなったでしょ。お葬式も一緒にいったじゃない」
「おじいちゃん、いってたよ。おうちかえって、しにたかったって」
「……」
「でも、ママがびょういんからおうちに、かえらせてくれなかったから、びょういんでしんじゃったっていってたよ。なんか、ぼくも、さびしくなった」
「……パパね。Ｙくん、正直に言いなさい。パパから聞いたんでしょ？」
「パパじゃないよ、おじいちゃんがいってたの」
「お祖父ちゃんが言えるワケないでしょ。亡くなってるのよ。嘘ついたらダメよ」
「あとね、となりのＮちゃんがもうすぐ、にゅういんするっていってたよ」
「え？」
「となりのＮちゃんがにゅういん。じこにあうっていってた」
「もう、この子は！　なんてこと言うの！」
「ほんとうだよ、ママ。いってたもん、もうすぐにゅういんするって」
「お祖父ちゃんが仏壇からとかＮちゃんが入院するとか、嘘ばっかり！」
「うそじゃないよッ」
「どっから嘘話のヒント仕入れてきたの？　ユーチューブのせいね。もう禁止ね！」
「おじいちゃんッ、おじいちゃんッ、おじいちゃんッ、おじいちゃんッ！」
「静かにしなさい！」
「あははッ！　ほら、ママ！　ぶつだんみてッ！　でてきたぞおおおッ！」