彼女のこと――「追悼奇譚 禊萩」特別寄稿③

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5年前に逝去した一人の女性が遺した実話怪談を1冊に纏めた文庫「追悼奇譚 禊萩」。
心霊体験の当事者であり、怪異蒐集者でもある彼女は、生前自身のもつ怪談を複数の書き手に委ね、託してきました。
一人の人間がこれだけ多くの怪談を提供することは稀であり、彼女はまさしく実話怪談界〈伝説のネタ元〉でありました。
彼女を偲び、4回連続でお送りするコラム。
第3夜は、ねこや堂さんです。それではどうぞ――

彼女のこと―――ねこや堂

 実は人に語れるほど、彼女と個人的に大変親しかったわけでもない。付き合いで言ったらまあ、そこそこ。ツイッターのタイムライン上やSkypeのグループチャット欄で軽く言葉を交わす程度だ。
 彼女から話を預かることができたのも、少しばかり人よりタイミングが良かっただけのことで。
 彼女の曾祖母という方がかなり霊能的な能力の強い方で、遺伝的なものなのか彼女は所謂「見える」人だったから、タイムラインやSkypeで至極普通の世間話のようにそういう話をぽろぽろと落とす。たまたまその場に居合わせたというだけだ。
 思わず「それください!」と食い付けば、「どうぞどうぞ」と快諾してくれた。人懐こくてとても気さくな人だった。
 話題が豊富で、顔も広く、私はタイムラインやグループチャットの隅でそれを見聞きしているだけで、彼女と親密になれた気がした。(私を知る方々は二度見どころか五度見くらいするかもしれないが、こう見えて実は激しく人見知りなのだ)
 そして、私と彼女には他の執筆陣とは唯一違う接点がある。
 我らは腐った同好の士なのである。
 リアルな友人に恋愛対象が同性という方がいて、彼の恋愛の結果や愚痴を零されるのだと(勿論ネタとして相手方には同意を得た上で)語る彼女の話を聞くのは面白くて、彼女の友人に対する親愛を含めた鋭い観察眼は腐った仲間として大いに尊敬に値した。
 私がその手の滾る想いを文章として形にすることを楽しみにしていると言ってくれていた、その彼女の訃報を聞くなんて。
 身体が決して丈夫ではないというのは知っていたけれど、私よりも大分年下である彼女が先に逝くなどと考えもしなかった。
 きっと本人が一番吃驚しているんじゃなかろうか。
 彼女のことだから「いやあ、こうなっちゃったもんはしょうがないよね」とか言いながら、あちらからこちらを観察していそうな気もするけれど。

★第4回(最終回)、神沼三平太さんにつづく。

試し読み1話はこちらから

https://note.com/takeshobo/n/n0dd9840e4556

追悼奇譚 禊萩

加藤一/編著
神沼三平太、ねこや堂、鈴堂雲雀/共著

複数の書き手に自身の怪談を託してきた一人の女性がいる。
実話怪談の影の主役=体験者
伝説のネタ元と呼ばれた故R氏の形見怪談全35話収録!

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