7/13開催の怪談最恐戦スピンオフLIVE企画「怪談・虎の穴」大事なところを書き起こし!前編【卯ちりイベントレビュー】
怪談最恐戦の動画審査の突破のために始動した怪談・虎の穴。 7月13日、新宿のNaked Loftにて、 その4回目が開催された。締め切り直前のリアルイベントとして開催(ツイキャスでの有料配信もあわせて実施)。MCはオーガナイザーの住倉カオス氏、ゲストに村上ロックさん、響洋平さんを迎えた。生徒役は、宮代あきらさん、佐藤陽介さん、押戸けいさん。
今回はせっかくのイベント。オープニングではロックさんが、短めの怪談を披露していただくことに。
村上ロックさんの怪談
スリラーナイトのお客さんの、同年代の女性から伺った話。
不思議な体験はありますか?と彼女にたずねると「私は幽霊を一切信じていないので、必ず「ない」って答えます。でも、不思議なことが、一度だけある」と言って教えてくれた話。
彼女は廃墟マニア。20年前の20歳の頃、東北を一人旅していて、過疎集落があった。奥まで行くと雑木林の中に一軒朽ち果てた建物がある。
戦前から戦後にかけての平屋の日本家屋。中に足を踏みいれて、内部を見て回りながら、以前住んでいた人がどんな暮らしをしていたかを想像してみた。男と女の兄弟の子供部屋。おばあちゃんの仏間。住んでいたのは5人家族だろう。
茶の間に茶箪笥が1つある。30センチほどのガラスケースに市松人形があって、人形だけは汚れていない。かつて家族の幸せな時間を見続けていたんだなと思うと愛おしさが湧いてきた。
人形に足を延ばすときに、人形が瞬きをした。女性が後ずさりすると世界が回って、一瞬天井が見えた。しかし次の瞬間は普通に立っているが、方向が違う。人形の視点になった。朽ち果てていない部屋にいる。目の前に卓袱台、両親、子供2人とおばあちゃんが、にこやかに会話する風景が見えた。次は親が喧嘩している場面。次は家族全員俯いてる。そして、卓袱台周りで天井見上げたまま死んでいる場面。一家心中で服毒自殺だと思った。
元の室内に戻ったが、自分の後ろ姿が見えた。壁を向いてる自分は頭頂部を壁に押し当てていて、このままだと首が折れると思ったら激痛が走り、壁の前でうずくまっていた。
「私、一切幽霊を信じてないから、あれは白昼夢だと言い聞かせているんです。矛盾してるのはわかるけど。それとあの時、家族がああなった原因は、あの市松人形なんだって、はっきりわかった。人形には、どんないわれがあったんでしょうか」 ――ある市松人形にまつわる出来事
※
住倉:これ、結構複雑な話ですよね。視点が人形に変わり、謎が掘り下げられて一家心中という流れ。でもすごくわかりやすい。
響:提供者の空気感が伝わるのでリアリティがありますね。
住倉:難しい構成をいかにわかりやすく話すか。
村上:話の構成、第一は人に聞かせた時に伝わりやすいかどうか、よりどうやったら面白く伝えられるか、ただ伝えるだけなら順を追えばいいけど、どうドラマチックに持って行くかは常に考えています。
住倉:聞いた話をそのままやっているわけではないですもんね。
村上:より効果的に人に伝える技術ですかね。
響:僕も体験者の熱量を挟んでみたりします。その人独自の言い回しをあえて入れたり。
住倉:要は、話の中で何が一番大事かを理解しているってことですね。
怪談虎の穴スタート(生徒役:宮代あきら/佐藤陽介/押戸けい)
今回はカオスさんがタイムキーパー! 時間制限についても言及します。
語りのルール:自分の名前を言って「よろしくお願いします」の時点からスタート。話が終わって「ありがとうございました」が終わりの合図。時間は怪談最恐戦の一次募集と同じ5分程度。
1番目:宮代あきらさん
これは20年前に友人の江口くんから聞いた話。
都内の同じ駅に住んでいて、よく遊んでいた。僕より年下で20代前半、いけいけでパチンコが大好き。彼と会うたびに、毎回パチンコ屋に連れてかれた。僕は外で待っていて、江口くんは店の中に入るけど、すぐに出てくる、というのが毎回。
ある日、いつものように待ち合わせてパチ屋に行くと、「ごめん、今日打っていい? 絶対出る日だから。後で飯をおごるから家で待ってて」と言われて、正直ムッとしたけど家に帰った。3時間後、江口くんは10万勝った。
「俺、絶対勝てる日がわかるんだよ。お前だから言うけど、座敷童子が店にいる日は、どの台に座っても100パー勝てる。1年前、スロットで負けてトイレに行った。トイレの個室の下の隙間から両手がヌッと出てた。大丈夫ですかと聞いたけど返事がない。店員さんに確認してもらったけど、改めて見ると何もない。見間違えかなと思ってそのままスロットを打ったらめっちゃ勝った。で、また同じことがあった。トイレで両手を見た後に、負けてたけどスロット打ったらめちゃ勝った。あの両手を見たら100パー勝ててるので、トイレの手に座敷童子って名前つけて、お前と待ち合わせた時は毎回パチ屋のトイレに行くんだよ。でも、最初に見えた座敷童子は両手だったけど、今日は片手で指が四本。だんだん減って一本になった時に勝ったら、僕は死んじゃうんじゃないかな」と彼は笑った。
江口くんは今でも生きてる。パチ屋は潰れてた。あの座敷童子はどこに行っちゃったんでしょうね。
講評・アドバイス
住倉:前回生徒さんとして出た時に自分が得たもの、今日に生かそうとしたものはありますか。
宮代:あの時、自分がいかに出来ないかがわかった。ああ、実際に話すとこんな感じになっちゃうのかと実感して、土日でこの話をいっぱい練習した。「えー」「あのー」を絶対言わない気持ちで、今日は来た。
住倉:前回とはかなり変わりましたね。今日は実践編として、実際に僕らが感じたことを、応募締め切り直前なので直接言いたいと思ってます。
響:本当にお上手ですよね。すごく聴きやすくて、緊張すると早口になるということもなく、ゆっくりしっかり話していて、空気を作られていた。悪いとこというよりは、参考までに。最初に友達のやり取りの空気感が伝わるが、この話は後半が見せ場。最初はテンポを上げて、山場となる怪異や不思議な部分のディティールをもう少し工夫するといいのでは。
住倉:この語り、時間はどれくらいだと思います?
宮代:すでに5分以内で応募済みの話だけど、ゆっくり話すことを意識していたので、長くなったかも。
住倉:5:40だった。去年の予選大会のルールでは減点対象にならず、6分超えで減点。でも例えば2人同じ点数の時には、時間が短い方を選出することにしていました。
村上:落ち着いてお話しされている印象です。僕も昔は同じで、「あのー」の口癖を削った結果、「で」が多くなった。「で」を入れてしまうのは、聞いてほしいという心情の表れで、聞き手に向けている感情なんです。でも、「で」を抜いてもお客さんには伝わる。スピードについては、元々の宮代さんはスローで声ともマッチしてる。しかしそれ故に5分尺を生かすなら、部分的に速くする方がいいかも。前半の「僕も慣れたもので」でテンポが速くなった。前半もっと巻いた方がストンと入るのでは。どこで落とすか。「絶対勝てる日があるんだよね」はいいワード。パンチが効いている。それがどういうことか、うまく座敷童子に持っていけば、より効果的に伝わるかも。元々のご自身のテンポが独特で、すごく面白いなあと思う。
住倉:僕はMCという立場ゆえに、怪談を集中して聞いていなくて、制限時間や進行を確認しながらなので、僕は審査していないんです。でも、作業をやりながらでもふわっと話が入ってくる瞬間のある人は勝ち進む。宮代さんは前回より、本当に落ち着いてよくなりました。発声もいい。元々聞き取りやすい声で落ち着いている。しかし、聞いている時に、今のは誰のセリフ? みたいにわからなくなる瞬間がある。落語だと、上下(かみしも)がある。上の方が身分が上、下が身分も低いというルールがある。それをやれというわけじゃないけど、1人で複数の人間を使い分ける時、より分かりやすくさせる工夫が必要。テンポアップは話の緩急に関することだが、状況を説明する際に、誰の声かがわかりにくい。
「仮にAさんとします」という表現。Aさんという表現を何も考えずにやるとAとBで見分けがつきにくい。ロックさんの語は、わかりやすくするポイントをいくつも入れている。登場人物に特徴付けたりするのが大事かも。
宮代:人前で話すのは初めてでした。緊張したけど、結構練習したのは出せた。
住倉:あとはテクニカルな意味の工夫ですね。
――生徒さんの講評(何点かという審査員目線で)
押戸:85点。邪魔にならない効果的な身振り手振り。後半テンポアップするなと思ったがそのまま終わったのでちょっと間延び感が。ちょっと長く感じた。
住倉:トップバッターは70−80点くらいの基準点。プラスで85点なのはかなりいい評価。
佐藤:率直に言うと85点。表情豊かなのは自分でも取り入れやすく、聞き取りやすい。全体として少し単調かも。ピークがわかりづらかったかもしれないが、すごく良かった。どうすれば良かったか。僕のやり方だとあえて遅くしたり、そのあとを早くしたりとメリハリをつける。どこを遅くすればいいか。手が出てくる直前をゆっくりして、どーんと見せたり。
2番目:佐藤陽介さん
影絵草子さんからの提供。仮に井上さんという女性の話。
実家がかなり大きくて、「サマーウォーズ」みたいな家に住んでいた。
外に洗濯物が干してあったのをたたんでたら、庭に男の子がいる。急に現れたのにびっくりした。「お母ちゃんが大変なの」と男の子がいう。井上さんは身支度して男の子についていった。
田舎の集落を抜けた先の、平屋に行く。ここに人が住んでるのか? と思いつつも、案内された。玄関ではなく裏手から、部屋のサッシを開けて入る。サッシを開けた瞬間に線香の匂いがした。部屋に入ると普通で、アルミラックやテレビがあり、布団が1枚敷いてあってモコっと膨らんでいる。お母ちゃんがこの中で眠ってる。
大丈夫ですか? とめくると、苔むした壺が出てきた。男の子が「これ僕の骨壷」という。何を言ってるんだと思いつつも、何度もずっと「これ僕の骨壷」「僕の骨壺」「僕の骨壺」「僕の……」。
突然、「そんなのいるわけないだろが!」と言われて、気がつくと部屋がボロボロになっていた。裸足で部屋から逃げてきた。
講評・アドバイス
宮代:「これ僕の骨壷」の連呼が、意図して同じリズム、同じ高さ強さで言ってる点。それが長く続いたので変化があっても良かったのかな。面白くて80点以上かな。マイナス要素は、盛り上がりで気になった。
押戸:87点。よかったのは、話が元々うまい。すごく練習したというよりも、語る技術の基礎に乗っけてる感じ。効果を見せるため、意図した構成力。最後の盛り上がりですっと終わっていたり、どうやって楽しませるかの視点があった。そういう、場の空気を感じる場でしゃべっている方なんだなと。でも、もっと丁寧な方がいい。僕の好みにはまった。
佐藤:正直今日はあまりうまく話せなかったです。慣れていない場所で、勝手がわからないのもあり。出だしでグズグズな感じで、もう少し遅いテンポで話すつもりだったが、話すと早かった。今日は4分切ってるかな?(3:43だった。)
村上:コメントが難しいですね。本当にお上手だなと。面白いのは宮代さんとは正反対で、声のトーンも高くテンポも早い。佐藤さんの怪談という世界が出来上がっている感じ。僕の好みだけど、どっかでグッと落とす部分があるといい。お話の空気感の厭な感じ、どんよりした感じが出せるはず。僕ならあえて「そんなのいるわけねえだろ」は声を張るんじゃなくてボソッと言うかも。あとは骨壷言い過ぎですね。これは言い方ひとつなので。子供のセリフを工夫すると味が出るかも。声色というか、やりすぎてもダメだけど、変化が欲しい。
佐藤:早いんですか。
村上:速度を落とした時に効果的に伝える部分がある。テンポのバリエーションを増やすのはあり。
響:非常に話が上手。リアルに人の話を聞く感覚で聞けました。その人の味になるような癖は気にならない方です。ネタの選び方がいい。すごくシンプル。体験者と子供、短い尺の怪談としてインパクトのある様子がポンとある。そういう意味では、空気感を出すなら情景の描写を入もっと詰められれば良いかも。細かいところだとサマーウォーズという例えが、どこまで通じるかも気になります。状況によっては違う言葉を選ぶことも大事。
住倉:映画を見た人にはすごくわかりやすい表現だけどね。でも、どれくらいの人が見ているか。その人に想像させるかにあたり、なるべく多くの人に想像できるために、サマーウォーズだけだと乱暴な表現。旧家の家、みたいに言うと見てなくても伝わる。
響:リアリティを出すために、3分半から足していくのがいいですね。
住倉:聞いている間に別世界に行く。自分がそれを体験しているかのように錯覚するのがリアリティで、別世界についれていくための工夫をする。例えば稲川さんがツアーでセットを作るのもそう。BGMとか電気を消すことも、お話の世界にその人を連れて行くのが目的。情景描写の大前提を忘れなければ、全てが一つに繋がります。目的は一つ。うまく話すのではなく、別世界に連れて行くこと。
男の子が出てきた時に「こんなところに」不自然だと言っていたが、その不自然さがわからない。そこに対し、どう違和感があったか、幽霊の違和感を表現しないと伝わらない。佐藤さんの中では整合性が取れていても、聞き手には当たり前じゃない。自分が当たり前だと思い過ぎないこと。
怪談は本来、誰が話しても素晴らしいもの。あくまでコンテストの動画審査のための話ですけどね。
繰り返すことによる効果を狙っているのはわかる。大きい声をワッと出すのを効果的にするには、今の場合は話が流れ過ぎ。全部が行き過ぎていたので、前後の間を開けるとか、いっぺん引いた後で大きい声を出すとか。効果的に出したいポイントの前は引く。ゴムのように伸び縮みするかのように全ては押し引きです。単語ごとに役割があるから、骨壷の前に一拍開けると聞く方が注目する。それでより良くなります。あと、男の子が現代的すぎたかも。今っぽい言葉遣い、フランクさが話にあるが、子供もそのままの口調なので、現代らしさを消すほうがいいのかも?
佐藤:一定のテンポで行くのが自分のスタイルだが、アップダウンや情景描写を入れていくのがいいのかな。
住倉:自分の思ったような効果には至っていない点はありますね。
響:違和感の話については、体験者に聞いたほうが良くて、「違和感があった」ことについて、どんな違和感がなのかを聞くべき。これが創作の場合なら、なくてもいい描写。実話ならヒアリングすべき。こうするといいかな、と工夫したイマジネーションが余計に入ると、リアリティにつながらないかも。僕はシンプルに体験者に聞くように僕はしています。
――後半へ続く!
まとめた人
実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。
アーカイブ
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