【日々怪談】2021年8月22日の怖い話~ 床下
【今日は何の日?】8月22日: ヤバイ夫婦の日
床下
それが始まって暫くのうちは、猫か鼠かと思っていたという。
「昼夜問わず、居間の床下からバタバタと動きまわる音がするんですよ。こりゃ、あいつらが何処ぞから入り込んだな、と」
丸山さん夫婦は数種類の忌避薬を購入し、家の周り、特に通気口の辺りに重点的に撒いた。とはいっても、通気口の細かい網目をどんな動物がくぐることができるだろうか、と首をひねりつつの行いである。幾らそこそこの築年数になるとはいえ、マイホームの何処かに床下へ繋がる穴がぽっかり空いているのだろうかと想像すると、全くぞっとしない。
「三日間ほど家の中に穴がないかを夫婦で探したんですが、それらしきものはなくて」
床下の音も止まない。相変わらず何かが二人の下で走り回っている。
斯くして夫婦は床板の一部を捲ることにした。直すのは業者にでも頼めば良い。
カーペットを畳んだ後、床板の継ぎ目にバールを差し込み、力任せに傾ける。幾度か繰り返すうち、床下を覗き見るのに手頃な大きさの長方形の穴ができた。床高は五十センチ弱といったところで、すぐにも手が届きそうなところに基礎のコンクリが見える。
丸山さんは俯せに寝転がり、まず手を穴に入れ粉末の忌避薬をデタラメにまき散らすと、次にはどれ、と何とはなしに顔を入れた。
そして鼻先に迫る女と目があった。
知った顔の女だった。
女は目を吊り上げ、口を尖らせていた。
ヒッと小さな声を漏らしながら即座に顔を抜き、丸山さんは妻にこう叫んだ。
「床下に、お前がいるぞ!」
妻は、えっ、と返すと黙って俯き、メソメソと泣き始めた。
「家内のその様子を見て、これは何か思い当たる節があるんだなとは思ったんですが、深追いして鬼門に行き着くのも嫌でね」
予定通り、床は業者に修復してもらった。
以降、音はない。
――「床下」高田公太『恐怖箱 百舌』より
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