【日々怪談】2021年2月26日の怖い話~ ヤシの実
【今日は何の日?】2月26日: 包む(ラッピング)の日
ヤシの実
ロニーさんのおばさんはフィリピンに住んでいる。彼女が教えてくれた話である。
用事を済ませるために外出した所、意図せず帰りが遅くなってしまった。
あらいやだわと帰宅を急いでいた。
帰路の途中にヤシの木の並ぶ大通りがあった。街路樹として整備されているのだ。ヤシはビルの四階ほどの高さまで育つ。見上げる高さだ。
その街路樹の一本が目に付いた。てっぺんの葉の付け根が赤く光っていた。
何だろう。木の上で火事かしら。おばさんはその下を急いで通り抜けようとした。
すると遙か上方から、丸くて赤い炎に包まれたものが落ちてきた。
ヤシの実だ。炎に包まれたヤシの実は、石畳に当たって音を立てると、何度か勢いよく跳ねた。そして最後はぷかんと宙に浮かんだ。
何で落ちないのかしらと立ち止まってじっと見ていると、それがくるりと振り返った。
炎の中に目鼻があった。それは炎に包まれてジュウジュウ音を立てている生首だった。
一目散に走って逃げたが、燃える生首は暫くの間、追いかけてきたという。
――「ヤシの実」神沼三平太『 恐怖箱 百眼 』より