【日々怪談】2021年4月1日の怖い話~ 嘘吐き

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【今日は何の日?】4月1日:エイプリルフール

嘘吐き

 堀さんは嘘を吐かない。
 人間なのだから嘘を吐かないようにしていても、方便として、または意図をせずに嘘を吐いてしまうことはあるはずだ。しかし堀さんは、そういうときは黙る。嘘を言わないためには一言も喋らなければいい。だから堀さんは周囲から寡黙な人だと思われている。
 そんな彼女も中学生の頃は口数も多く、冗談や出まかせばかり言っていたという。
 悪気があった訳ではない。まじめに振る舞うのが格好悪く思えただけだ。だから口から出まかせのいい加減なことばかり言って、その場をごまかしてうやむやにして笑い飛ばし、でもそれで誰にも迷惑を掛けてる訳じゃないし、別にいいと思っていた。
 ある日、友達と繁華街でカラオケをして遊んだ後、ビルの裏手でタバコを吸っているところを、見ず知らずの老婆に注意された。
「あんた達、まだ未成年でしょ。タバコとか吸ってどうするの!」
「あたし達、二人とも二十歳越えてますぅ~」
「おばさん、人のこと見かけで判断しないで下さい~」
 からかうような小馬鹿にした口調で、老婆に返事をした。どうせ通りがかりのお節介だ。その場限りの言葉で切り抜けて、すぐ忘れてしまえばいい。
 しかし、その老婆は二人を睨み付けた。
「嘘ばっかり言ってると、あんたらのその目を潰しちまうよ!」
 刺すような視線に堀さんは黙ってタバコをもみ消した。しかし友人は声を荒らげた。
「ねぇ何、本気になっちゃってるの。馬鹿じゃないの。おばさんもう関わらないでよ。余計なお世話だよ。ほら、もう行っていいからさ」
「――あんたの目は必ず潰すよ。覚えときな」
 老婆はそう言い残してその場を去った。
「それ以来、嘘を吐くと、左目の睫毛がどんどん抜け落ちてしまうんです」
 嘘を言った翌朝は、顔中に抜けた睫毛が貼り付いて、何かの病気かと思ったという。
「睫毛の本数って数えたことありますか? 上が百本よりちょっと多いくらい。下が五十本よりは多いかな。それが一晩で全部抜けるんです」
 眼科に行ってみても原因は分からず、特に異常はないと言われた。
「あの友人は、高校のときに急性緑内障で失明してて――本当に呪われたんだと思います」
 もう嘘は吐けません――堀さんはそう言うと、取り出したハンカチで目頭を拭った。

――「 嘘吐き 」神沼三平太『恐怖箱 百舌』より

#ヒビカイ #エイプリルフール

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