【日々怪談】2021年4月11日の怖い話~ ジャンケン
【今日は何の日?】4月11日: ガッツポーズの日
ジャンケン
大塚さんはトイレに行きたくなって目を覚ました。
常夜灯の薄暗い光の中で、何かが動いているのが見えた。蛍光灯を点けてみると、半透明の腕が床から生えており、掌を開けたり閉じたりしていた。
何だこりゃと思ったが、相手もこちらに気付いたらしく、向き直って握った拳を上下に小さく振り始めた。
ははぁ、これはジャンケンしたがっているんだな、と直感した。
「最初はグー! ジャンケンポン!」
相手はチョキ、大塚さんはグー。
相手は出したチョキの形のまま、空気に溶けるようにして消えてしまった。
そうだ、トイレ行きたかったんだ。大塚さんは思い出してトイレに急いだ。
数日後、また腕が現れたので、ジャンケンをした。そのときはまた勝った。腕はその場で消えた。
また数日後、再び腕が現れた。ジャンケンをした。今度は負けた。
腕は消えなかった。ガッツポーズをするように拳を突き上げると、またジャンケンを要求するように、拳を上下に振り始めた。仕方ないので付き合ったが、また負けた。こちらが負けたらまた拳を上下に振り始める。今度は勝った。腕は消えた。
どうやら、ジャンケンに負けるまで居座るものらしいと気が付いた。
それ以来、時々出る。負け続けて十回ほど連続でジャンケンするはめに陥ったこともある。
しかし、無視するのも可哀想だし、別に勝っても負けても特に他に何かが起きる訳でもないので、出る度にジャンケンに付き合っている。
――「 ジャンケン」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より