【日々怪談】2021年7月5日の怖い話~ぶら下がり
【今日は何の日?】7月5日:名護の日
ぶら下がり
同級生に島原という男がいる。
沖縄から九州に越境入学してきた奴で、学校の寮に入っていた。
寮は鉄筋コンクリート製の五階建て。島原の部屋は五階にあった。
遊びに行くと、部屋の中央辺りの天井が「どかーん」と鳴った。
「なんだ、なんだ。上の階の奴か?」
「ここァ、五階サー」
「誰か屋上で騒いでんのかな」
「忘れたか? 屋上は立ち入り禁止ンなって、針金でドアんとこ固めてある」
あ、そうか……と返したところではたと気付いた。
「誰かの悪戯サー。俺、怖がりなんだから、これ以上言わすなや」
島原の部屋にはカーテンがない。いや、あるのだが閉まらない。
「隣の島袋のバカが、ぶら下がって壊したんサ」
カーテンレールが潰れてしまってからは、カーテンは開けっ放しになっている。
島原は窓を背にして座った。
「あんまり窓見たくないんサ」
なんで、と訊くと島原は声を顰めた。
「あの、この窓な。窓の上から逆さにぶら下がって、この部屋を覗きこむ奴がおるんサ」
しかし、気が付くといなくなっている。
「窓からって……誰かが屋上から……そうか。そうだっけな」
「言うなや。俺は卒業までこの部屋に住まなくちゃならないんだヨ」
再び天井が「どかーん」と鳴った。
二人は天井を見あげて首をすくめると、窓に背を向け並んで座った。
――「ぶら下がり」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より