【日々怪談】2021年7月12日の怖い話~テープ

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【今日は何の日?】7月12日:ラジオ本放送の日

テープ

 シリコンプレーヤー全盛の今日この頃だが、パソコンで音楽聴いたりiPodにMP3ファイルをぶち込むようになる遙か前は、カセットテープが主流だった。
 その頃のこと。
 浜田は下校途中の道ばたで新品のテープを拾った。
 マクセルの一二〇分テープだ。
 見たところ汚れもないし、テープが切れているということもなさそうだ。
〈ラッキー♪〉
 浜田は、テープをエアチェック用に使おうと持ち帰った。
 深夜ラジオのエアチェックをするような人間には、テープは何本あっても足りない。浜田もそのクチで、あれこれ録音したテープを百巻以上は溜め込んでいた。
 そのテープにはラベルはなかった。
 が、録音に使う前に、一応何か録音されていないかどうか確かめてみることにした。
 もし、まだ聴いていない歌手の曲でも入っていたら儲けもんだ。
 ラジカセのデッキにテープを入れ、再生ボタンを押した。
『……本日、お忙しい中を西尾家の告別式にお集まりいただき……』
 テープには葬式の様子が録音されていた。
 最初は、ラジオドラマか何かなのかと思った。
 早送りしてみる。
 弔問客の挨拶、すすり泣いて言葉が出てこない女、坊さんの読経。
 途中にナレーションはない。CMに入るジングルもない。
 最後に涙をこらえて挨拶する喪主らしき声が流れた。
〈これは本物だ……〉
 浜田は、巻き戻しもせずにテープを取りだした。
 こんなもん、持ってるだけで薄気味悪い。
 窓を開け、家の裏を流れるドブ川に向かってテープを投げ捨てた。
 コンクリートの護岸に当たる固い音と水に落ちる湿った音が、暗い川底から響いた。

 その翌日のこと。
 前日の晩、別の自前のテープでエアチェックしたラジオ番組を聴くため、ラジカセのデッキにテープを入れた。
 再生ボタンを押したとき、浜田は心臓が潰れるほど驚いた。
『……本日、お忙しい中を西尾家の告別式にお集まりいただき……』
 浜田は窓を開けた。
 取りだしたテープは、ドブ川に向かってぶん投げた。

――「テープ」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より

#ヒビカイ #ラジオ本放送の日

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