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ご当地怪談フェア付録の謎のしおりに書かれた「フーフダ」と「ビタン」の正体とは? 〈琉球奇譚〉の小原猛が徹底解説!

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2月25日より全国の対象書店にて開催されているご当地怪談フェア。

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フェア対象商品を購入すると手に入る付録のひとつに「フーフダ」という栞があります。裏面には「ビタン」なる、魚のようであり牛のようでもある謎の妖怪も。

これらはいったい何者なのでしょうか。〈琉球奇譚〉シリーズでお馴染み、沖縄在住の小原猛さんに詳しく解説していただきました。

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沖縄の”結界を張る”風習

 世界中にはその場所を守るために結界を張るという行為が存在するが、沖縄にもそのような事例が沢山ある。まず有名なのは、サンゲーンと呼ばれるものである。

 これは一本のススキをくくって、それを手に持って魔よけとするのである。夜道を歩く時に、昔の琉球の人々はこれをよく持って歩いていたと文献には書かれている。またサンがススキ一本であるのに対して、ススキ三本を束ねて同じようにくくったものがゲーンと呼ばれるものである。これはやはり一本より三本ということで力が強く、夜道のお守りというよりも、屋敷を守るために使用される。これを玄関の門扉などに差しておくと、魔物が室内に入り込まなくなるといわれている。

 またシマクサラシ(シマフサラシ、シマカンカーともいう)という魔よけの結界を張る方法もある。これは集落の入口の上部に、縄で牛または豚の骨付き肉を吊るしておく行為のことである。集落をヒジャイナー(左縄)で囲うところもあり、その場合は縄に血をべったりとつけて悪疫が集落に入ってこないようにする。

↑小原さんの著書にはシマクサラシについての怪談もあります

かくいう筆者も三十年以上昔に宮古島で実際に見たことがある。沖縄の集落はたいてい本道からそれた一本道の先にあるので、その道の上にシマクサラシを吊るすと、外から入ってくるものの目に必ず留まるようになっていた。

 近年ではシマクサラシを行う集落はがくんと減り、理由はいろいろあるだろうが、衛生的によくないというのが最近の理由の一つではないだろうか。確かに骨付きの肉を三日も吊るしておくと、恐ろしいほどのハエがたかり、逆に伝染病が広がるのではないか、などと現代の我々は考えてしまう。

フーフダも結界の一種

 ところで、サンやゲーン、シマクサラシなどのほかに、沖縄には現在も根強い人気を誇る結界を張る方法が存在している。それがフーフダと呼ばれるものだ。

 筆者は先日、とあるお寺にお邪魔をして、フーフダをいただく機会に預かった。フーフダとは木簡に呪文を書き、家の門扉や四隅に張って、外界からヤナカジ(嫌な風=悪霊)などが入ってこないようにするための護符である。

門扉の張られたフーフダ
家の中に張られたフーフダ

筆者がお邪魔したお寺の住職によると、その寺のフーフダはもともとシマクサラシに応えるものとして広まったという。もともと集落ではマジムン(魔物)を遠ざけるものとして集落でシマクサラシを行っていたのだが、やはり衛生面でもよくないと思われたので、先代の住職が木簡に呪文を書き、それが次第に広まっていったという。

 フーフダは沖縄県内ではよく見られる護符であり、その言葉も様々なヴァリエーションがある。書いてくれるのはだいたいにおいて寺が挙げられるが、その他にもユタなどの霊能者が書く場合もあり、また紙に書かれたフーフダも存在する。これは室内の東西南北に張るようになっている。このフーフダは戦後爆発的に沖縄県内に広まったとされている。

住職からいただいたフーフダ

ビタンは沖縄版アマビエ

 ところで昨年からコロナの影響で、アマビエという妖怪が日本中でブームになったが、沖縄にもディテールは違うものの、よく似た存在がいることをご存知だろうか。

その名をビタンという。

 天保三年(1832年)に書かれた『琉球奇譚』という書誌がある。これは、現在の中国・蘇州の米山子という人物が、当時の琉球諸島に旅をして見聞したことをまとめたものである。この米山子については詳しいことはよくわからない。その本の中に載っている話である。

 昔、天孫子という神々の一族がいた。天孫子は琉球の創世神なのだが、それに仕えるビンタラという女性がいた。その女性が海に入ったところ、なぜか姿が変化し、ビタンという妖怪神になってしまったという。

 ビタンの顔は龍のような二本の角と髭があり、身体は魚のようにうろこでびっしり覆われ、尻尾はなぜか二股にわかれている。体つきはスマートというよりも、少しでっぷりと太っていて、ぱっと見ると牛に似ていなくもない。おそらく魚として海を泳いでいるのだろうが、かなりの大きさだと思われる。

 このビタンは常日頃何をしているかというとそのような記述は一切なく、ただ一つ書かれていることがある。

 それは頭痛がするものは、このビタンの姿を書き写して張っておくと、痛みがたちどころに治まるということである。このビタンのおかげで竹富島の人々には頭痛が少ないとも書かれているが、果してどうだったのだろうか?

この『琉球奇譚』は、原本はジャーナリストのフランク・W・ホーレー氏がハワイ大学に寄贈した資料の中に入っていて、ネットで検索しても実物が確認できる。復刻版は昭和51年に『翁問答・保辰琉聘録・琉球奇譚・神道記=集成《解釈》』沖縄郷土文化研究会(南島文化資料研究室刊)として出版されているので、古書店を当たってみるのも面白いかもしれない。

―了―

著者紹介

小原 猛 Takeshi Kohara

沖縄県在住。沖縄に語り継がれる怪談や民話、伝承の蒐集などをフィールドワークとして活動。
著作に『琉球奇譚 キリキザワイの怪』『琉球奇譚 シマクサラシの夜』『琉球奇譚 ベーベークーの呪い』『琉球奇譚 マブイグミの呪文』『琉球妖怪大図鑑』『琉球怪談作家、マジムン・パラダイスを行く』『いまでもグスクで踊っている』『コミック版琉球怪談〈ゴーヤーの巻〉〈マブイグミの巻〉〈キジムナーの巻〉』(画・太田基之)』「沖縄の怖い話」シリーズなど。
共著に「瞬殺怪談」シリーズ、『怪談四十九夜 鎮魂』『男たちの怪談百物語』『恐怖通信/鳥肌ゾーン』など。DVD『怪談新耳袋殴り込み・沖縄編』『琉球奇譚』『北野誠のおまえら行くな。沖縄最恐めんそ~れSP』など。

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