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【書評】「厭」のエッセンスを感じよ…「実話怪談傑作選 厭ノ蔵」つくね乱蔵【卯ちりブックレビュー】

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5月28日発売の文庫『実話怪談傑作選 厭ノ蔵』の書評です。

今回のレビュアーは卯ちりさん!

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書評

怪談作家のベストアルバムとも言える傑作選。今回は厭な怪談のエキスパート、つくね乱蔵による「厭ノ蔵」である。看板に偽り無しの題名で、既刊の単著6冊から選ばれた30篇と書き下ろし3篇で構成される本書を読めば、著者が長年にわたり書き溜めた「厭」のエッセンスを存分に感じることができる。

ところで、「厭」とはどういうものか。何を「厭」と感じるか。怖さと厭さは、どう違うのか。

「厭」の定義は人それぞれに違いないが、つくね乱蔵の描き出す怪談33篇を一望してみると、話の展開や登場人物、モチーフには幾つかの傾向があるように思える。

 まずは、忌まれる土地や家、呪いや曰く付きの物品が登場する話。「虚ろの城」「条件更新」等の曰く付きな住処、禁忌を破る「唇と爪先」、禁断の秘蔵品「紙般若」などは「触らぬ神に祟りなし」というべきか。体験者に降りかかる不幸の不条理さが恐怖を掻き立て、関わってはいけないものに対して「厭」を感じる怪談群である。

 次は、「そばにいるよ」「仏の退職」など、話の展開が一変するもの、「由起恵さんと家」のように最後の一言でゾッとする話。これらは信じていたものが裏切られるオチが後味悪い。或いは「他人様の子」のように、体験者側から滲み出る拒絶心と云う悪意の類も、語り手に裏切られる感覚があり、さりげなくも(寧ろやんわりと描かれる方が)存分に「厭」である。

 そして、人間の持つ「厭」な側面――つくね乱蔵の怪談で最も濃厚に描かれているのは、人間の恨み辛み、敵対心や憎悪によって捲き起こる怪異だが、怪奇現象が怖いのか、それとも怪を引き起こす元凶の人間が怖いのか。人間関係のえぐみを、情感ある筆致ではなく凶暴な怪奇現象で殴りかかるように炙り出す話が彼の真骨頂であり、本書では「指折り数えて」を始め嫁姑の確執にまつわる怪談が5篇ほど収録されているのも、「人間の厭な面」に焦点を当てた故だろう。

 これからも、様々な人間の抱く「厭」へのアンテナを張り巡らし、つくね乱蔵は多くの厭な怪談を集めていくに違いないが、最後に、本書最恐の一遍「オリンピックの年に」について一言。予言の的中がこんなにも厭なものとは思わなかったし、この話が今このような形で再発表された計らい(という悪意)に唸ってしまった。ぜひ今のうちに、この話に目を通すべし。

レビュワー

卯ちり

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

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