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8/23怪談最恐戦2020東京予選!激アツ現場レポート後編【卯ちりイベントレビュー】

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8月23日、怪談最恐戦の東京予選会が開催されました。

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前週16日に開催された大阪予選会に続き、白熱の怪談バトルが繰り広げられた今大会は、21名の出場、3名×7ブロックというボリューム。 当記事では、各ブロックでの出場者たちの接戦の攻防に触れつつ、勝因は何か? 勝ち負けの基準はどこにあったのか?を考察し、イベント全体をレポートします!

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Dブロック

現在、地上波のTV番組でも大活躍中のシークエンスはやともさんが勝ち抜きとなりました。ご自身の特異な心霊体験談というネタの独自性もさることながら、5分という制限時間でいかに聞き手を惹きつけられるか、という最恐戦の醍醐味を体現する語りだと思います。

シークエンスはやともさん

はやともさんは、最初に掴みとなるエピソードを軽く話した後に本題の怪談に入るスタイルですが、掴みだけでもオチがつき、お客さんにウケるトークができるのは、TV番組のフィールドで活躍されているキャリアゆえかと思います。5分間だけでなく、1分や3分の短い怪談でも、その時々の状況に応じて使い分けられるのだなと感じさせられます。怪談の語り手の持ちネタは5分以上のものが大半ですが、掴みや小ネタのフリートークという観点で、はやともさんのトーク力は参考になるのではないでしょうか。

一方、二次審査より勝ち進んだ南条さんは、勢いと臨場感のある語りで、最後まで目と耳が離せない吸引力がありました。会場審査では票が二分しており、ライブとして観る限りでは、決して劣らぬ戦いだったと思います。

南条さん
押戸けいさん

「怪談・虎の穴」では生徒さんとして参加し、一次審査突破で初出場となった押戸けいさんは、前者2名に押され会場票こそ獲得できなかったものの、話のディティールに個性を感じます。押戸さんは虎の穴での学びを踏まえてスキルアップしてきたことも考えれば、意欲作だったのではないでしょうか。

Eブロック

小林審査員曰く、「キャラ枠」と評されたEブロック。三種三様の怪談で、投票するにあたり、誰を選ぶか多少なりとも悩まされたのではないのでしょうか。その状況で、会場・ネットの観客審査の両方で票を集めたのは青柳マコトさん。「あなたの守護霊になりたいな」というフレーズと、心霊ホストという肩書が強烈なキャラクターで見事に押し切った、という印象を受けました。

心霊ホスト・青柳マコトさん

次点となった松本エムザさんは、竹書房怪談文庫にて、先月新刊を発表されています。怪談作家として、話芸よりもご自身のネタで勝負かと思いきや、心地の良い語り口に引き込まれました。まるで枕元で絵本を読んでもらっているような、怪談の読み聞かせを聴いているようでした。怪談語りはしばし緊迫感を伴うものですが、この予選会の中で最も、怖さと両立する「心地よさ」を感じる語りだったと思います。

チビル松村さんは、昨年に引き続き出場。日常の隙間から、知らず知らずのうちにどんどん不穏なフェーズに突入していく怪談を持ち味とするイメージがありますが、今回は人怖の要素も孕む怪談でした。

松本エムザさん
チビル松村さん

講評の際、青柳さんの決め台詞は採点対象にすべきか、という言及がありましたが、同時に「オーバーアクションに振り切れているので、キャラクターとして成立している」との評価もあり、青柳さんの怪談スタイルの強度が、そのまま評価されたといって良いでしょう。キャラクター性を出しすぎると、どうしても観客の好き嫌いが分かれてしまう、オーバーアクションな語りはウケないという傾向を考えると、青柳さんの「攻め方」は賞レースの勝敗という点においてはリスキーだったかもしれません。しかしながら、「投票する際に思い返してみて、やっぱり印象に残るのは青柳さんだった」という結果だったのではないでしょうか。今回はドライバー時代のエピソードを披露されていますが、決勝ではホストとしての体験談を持ってくるのか、それとも別の怪談を語られるのか、気になるところです。

Fブロック

門澤審査員は、「仕上がっている系」という表現でいつでも丑三つ時さんと怪談女子高生あみさんの語りを評していましたが、このお二人も、青柳さん同様に「キャラクター」ありきの語り手。たまたま同じブロックで並んだがために、年齢性別が対照的で怪談の世界観もかけ離れている印象があり、正直なところ、この2人のどちらかを選ぶのは好みでしかないな、と感じる対戦カードでした。

そこで3番手の宮代あきらさん。「2人の強烈なキャラの後でホッとした」という講評もありましたが、実話怪談としての身近な恐怖を打ち出す語りが良い意味で対比となったブロックです。審査投票をするにあたり、「娯楽としてのキャラクターか、実話のリアリティか」という二者択一があったように思います。結果として、宮代さんが選出されることとなりましたが、青柳さんが通過したEブロックとは異なる審査結果で、興味深いです。

宮代あきらさん

とはいえ、宮代あきらさんは「怪談・虎の穴」のオンライン講座とイベント登壇、一次審査と二次審査、今大会すべてのフィルターを通り抜けてきたといっても過言でない新人の猛者。宮代さんは「怪談・虎の穴」での語りが初めてで、当初は言葉に詰まり、語りの難しさを痛感したとも仰っていました。しかしそれをバネに短期間で語りを仕上げていき、激戦の動画投票を勝ち抜くというタフさと瞬発力を備えているため、今回のFブロック1位も不思議ではありません。過去2回の怪談最恐戦においては、怪談の活躍実績がない新人が決勝進出するというケースはありませんでした。筆者も昨年の最恐戦予選会で初めて怪談を語った身ですが、決勝進出という壁は大きく、ビギナーズラックが通用するものではありませんでした。宮代さんは最恐戦第3回目にして、ルーキーの初勝利を打ち立てたという事実と意義は、賞レースにおいてはこれ以上なく面白い展開です。

女子高生怪談師・あみさん

あみさんは、女子高生設定と服装、「ドスドス!」の台詞で始まる怪談は、完全にキャラクターとしてパフォーマンスする語りでした。可愛らしいキャラを評価するか否かという点で票が割れたものと思いますが、「仕上がっている」語りのスキルが高いとも感じます。もしも、あみさんが女子高生キャラではなく、ご本人として怪談を語った際は、どういった印象のお話が聴けるのかと考えると、それも見てみたいです。キャラを作らない語りで攻めていたら、審査結果もまた違っていたのでは?

いつでも丑三つ時さん

そして、いつでも丑三つ時さんは会場票を獲得。昨年の最恐戦で初めて怪談を語った際に強烈な印象を残した語り手であり、蛇足ながら筆者が昨年に出場した際に同じブロックで当たったため、その強い個性に慄きつつも上手いなあ、と感じた人でもあります。丑三つ時さん本人は、「心霊ホスト」の青柳さんや「女子高生」あみさんのような、語り手自身のキャラクター設定がありませんが(とはいえ喪黒福造を思わせる佇まいですが)、怪談に登場する人物を演じ分ける語りのため、演技派の印象が強い語り手です。

Gブロック

個性で殴り合うE、Fのブロックを観て、「キャラ立ちって何だろう?」「舞台映えする技巧や創作性の強さをどう評価するか」を考えた観客も多いと思いますが、筆者が最も三種三様の個性を感じたのは、最後のGブロック。

ピンポインツ!がお馴染みのガンジー横須賀さんは言わずもがな、配信勢として見参し、二次審査では圧倒的な支持を得て出場となった山本洋介さんと、第一回最恐戦に出場したクリエイター、おおぐろてんさん。

山本さんは二次審査動画同様、ハンチング帽とサングラスのいで立ちで(マスクをした状態で待機している姿は中々強烈ですが)、身なりを一番作り込んでいる出演者では?と思いつつ、興味深いのは山本さんがサングラスを装着していること。会場でのパフォーマンスを意識する演者、前述の「仕上がってる系」タイプの演者は目の表情込みで語りを作り込むため、サングラスで視線を隠す発想はまず出てこないかと思います。画面越しの視覚と音声で勝負する、配信のバックグラウンドを持つ山本さんならではの攻めたアイデアで、実際に動画の二次審査を高得点で突破しているため有効なスタイルとも言えますが、会場票の獲得という観点では、やや不利な要素かもしれません。

山本洋介さん

また、おおぐろさんは抑えた口調ながらも、得体のしれない怖さをしっかりと打ち出している怪談です。怪談の持つニッチな魅力と気味の悪い世界観を崩さない、ご自身のスタイルがあります。第一回目の出場の際も、他の出演者よりマニアックな雰囲気、刺さる人には刺さる話をする語り手という印象があり、今回もこのブロックで個性の殴り合いをされた印象です。

おおぐろてんさん

山本さんとおおぐろさんは、演者としてのパフォーマンスそのものより、ご自身のオカルト観や怪談へのスタンスがそれぞれ際立つ語り手で、語りの技巧的な特徴よりも、怪談に対する偏愛がどう伝わるかが肝だなあ、と感じていたところで、ガンジー横須賀さんの自由すぎる語りで場の空気が異変をきたし、そのままの流れで勝利!という流れがあまりにも予想外なブロックでした。

ピンポインツ!は既にお馴染みの常連出場者で、ガンジー横須賀さんは最恐戦のマスコットキャラクターくらいの認識が、観客にはあったかと思います。本気で怖がらせるのではなく笑わせるスタンスゆえ、勝ち抜きが難しいタイプと目されていたものの、出場3回目にして悲願の決勝進出!「まさかの決勝進出」「順番がガンジーさんに味方した」とコメントする観客も多く、良い意味で意外性のある、大いに沸いた勝敗だったと思います。

ガンジー横須賀さん

しかしながら、ガンジー横須賀さんは第一回目の予選会でも、語りの順番ではトリを務めていました。今回、トリだったから笑えるオチでも勝てた、というわけではなく、今までの出場経験で、ガンジーさんの個性が観客に認識され愛されているという前提があり、かつ「笑えるけど怖い話」に評価がなされたからではないでしょうか。

よくよく考えると、火葬場職員経験があり、自身の実体験の怪談を語るという点で、ガンジーさんの怪談は昨年の怪談最恐戦で優勝した下駄華緒さんと共通しています。ちょっとした体験談も思わず耳をそばだてて聴き入ってしまう伝達力がある下駄さんに対し、「当人は怖かったけど、なぜか笑い話にしか聞こえない」というシュールさで攻めていたのがガンジーさん。近しい類の体験談を持っていても、語り手によって怪談の印象は随分と違います。

「語りを競う」とはどういうことか、何を基準に優劣を決めるのか、怪談の賞レースがお馴染みになりつつも、皆が評価と批評に悩むトピックだと思います。また、出場者のクオリティが年々高まってきていて、コンテストの応募人数も増えているという嬉しい盛り上がりの中で、「5分の制約」というギリギリを攻めねばならないのが、怪談最恐戦です。

まとめ

東京の予選会は、第一回目は活躍している怪談師を中心に、また第二回目はお祭りのように数多くの出演者を集めたイベントとなっていました。筆者は昨年の東京予選会に出場しましたが、あの時はひたすらたくさんの怪談を聴く趣向となっており、面白くも長丁場で、目まぐるしいイベントでもありました。

そして今回の3回目で、イベントのボリュームはありつつも講評を行い、審査の内訳も公表するという点で、勝敗の基準がより明瞭なものになりました。また虎の穴で新人の育成にも着手・言及し、二次審査や敗者復活戦というチャンスを増やすことで新人発掘の側面も満たす……という、3回目にしてイベントの在り方が明確になってきました。

東京予選を勝ち抜いたファイナリスト達

それは観客サイド、怪談ファンも同様で、「賞レースで優劣を決めるのはおかしい」「好き嫌いは人それぞれ」という見識から、怪談語りを自分なりに評価・批評するという視点が生まれてきているように感じますし、応援したい怪談師を「推す」という流れも、今後増えていくかと思います。

決勝戦は11月となりますが、その前に敗者復活戦が9月20日に決定しました。惜しくも一度敗退した出場者は、おそらく更にブラッシュアップをかけて勝負に挑まれると思います。今回から、「2回目の勝負」が観られる楽しみを喜びつつ、勝敗の行方を見守っていきましょう!

――(了)

まとめた人

卯ちり

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。ブックレビュワー、イベントレビュワーとしても活躍中。

アーカイブ

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