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【連載日記】怪談記者・高田公太のデイリーホラー通信【#19】3.11に思うこと/怪談作家は聞き手スキルが肝要/百万部売れろ、青森怪談

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新聞記者として日夜ニュースを追いながら怪異を追究する怪談作家・高田公太が、徒然なるままに怪談・怪異や日々の雑感を書き殴るオカルト風味オールラウンド雑記帳。だいたい2~5日前の世相を切ったり切らなかったりします。毎週月曜日と木曜日に更新!

2021年3月11日(木)

 その日、私は実家の一階にある広間で昼寝をしていた。

 広間には絨毯が敷かれた八畳ほどのスペースと、畳が敷かれた六畳のスペースがあり、普段は畳の方に布団を敷いているのだが、その日はどういうわけか絨毯の方に布団を敷いていた。

 強い揺れを感じ、目を覚ました。

 大きな揺れだったが、いつかは収まるだろうと布団から出ずにいた。

 寝起きのぼんやりとした意識の中、布団からあまり離れていない壁沿いに置かれたアップライトピアノが倒れたら、恐らく自分の下半身が潰れるだろうと思った。

 だが、そのように危機を予測しつつも何も行動せず、ただ布団の中にいた。

 揺れが収まった後、台所に向かった。

 母が停電していることと、夕飯は簡易コンロで作れるから心配しなくともよいという旨を私に告げた。

 停電はそれから数時間後に復旧した。

 実家の近くには大きな病院、消防署、市役所などがあるので優先的に復旧されたのだろうと母と話した。

 二階のテレビを見て、事の重大さが分かった。

 そこから先、なるべくテレビを見ないようにした。

 誰かの悲しみが頭の中に入る。だが、私はその悲しみをどうすることもできない。

 話題にもしたくなかった。

 今も、あまり話題にしたいとは思わない。

 悲しみに向き合うのは辛いことだ。

 とにかく、自分には何もできないのだ。

 薄っぺらい言葉は罪だ。くだらない自意識で混濁した善意など持ちたくもない。

 ならば、逃げるしかないのだ。

 私は逃げて逃げて、この世の果てまで逃げた先にある、真の悲しみにだけ声を掛けるのだ。

「大丈夫かい」

「いいや、大丈夫じゃあないよ」

「そうかい」

「ああ」

 望むなら、傍にいよう。

 望むなら。寄り添おう。

 望むなら、懸命におどける。

 望むなら、共に涙しよう。

 去れと言われたら、心だけ置いてそこを去ろう。

 私が置いた心から何かが芽吹けばいいのですが、きっと風が吹けば飛んでいってしまいます。

 いっそ私が逃げている様を見て、誰かが思い出せばいいのです。

 いずれにせよ、私は見ず知らずのあなたを感じている。

 容易にできる。

 それは私にもできることだ。

#十年

2021年3月12日(金)

 結婚の馴れ初めを書いた日記を妻にプレゼンするも反応が薄かった。

 この辺りの何とも言えない感じが妻の魅力の一つである。

 ほんのりとやる気スイッチが入ったのか、色々と整理。といっても、あくまで予定を確かめる程度。

 想像していたよりも諸々の締め切りが先と知り、ホッとした。

 怪談好きは、ずーっと怪談を話す傾向にある。

 アニメ好き、音楽好き、と様々な「◯◯好き」が存在するが、怪談好きの「それしか話題ないんかい」感は異常だ。

 怪談作家を看板に掲げているせいか、みんな隙あらば私に怪談を聞かせてくれる。

 基本的に嬉しいことなのだが、下手すると数時間以上が怪談で埋め尽くされることがあり、メンタル的にきついこともままある。

 これは長年怪談を聞き過ぎた私の問題なのだが、どうしても怪談話というものには類話、傾向があり、怪談に長く触れ数を知っている人ほど「聞いたことある話だな」と思ってしまいがちなのだ。

 かといって、もし「どっかで聞いた話だと、聞いた後に書いて売ることができないので止めてください」と言い出したら、恐らくこの実話怪談作家はもう誰からも話を聞けなくなるだろう。

 なので、聞く一択。

 となるかと言えば、そうでもない。

 気心知れた人ならば「今、怪談聞きたくない」とも口に出すし、しこたま酔っている時などは「今話されても多分忘れるから今度にしてください」。

 頭の調子が悪い時に、とんでもなく興味深い話が始まった時は「それ、今度ゆっくり聞きたいです」と一度制し、別日に取材することもある。

 怪談とは「語り手」と「聞き手」で成り立つ。

 これら二つの立場に上下関係があるべきではないので、色々な対応があっていいはずだ。

 しかし、「聞いて書いて売って」をしている実話怪談作家は、結局ちょっと下に入ってしまう。

 どうしても、聞かせていただいている、という態度を崩すわけにはいかない。

 民俗学のフィールドワークでも、話し手の機嫌を取り口の滑りをよくするのが肝要なのだ。

 こうやって並べると、まさしく私の胆力の無さが問題なのであろう。

 それでも今までやれてるんだから、まあいいか。

 お手柔らかにお願いしますね。

#実話怪談作家 #メンタル

2021年3月13日(土) 

 スタバで仕事。

 向かいの席に小学校からの幼馴染が座っていた。

 そして、

「おう、久しぶり。本出たから買ってよ」

「ええ。また出たの?」

「うん」

「全国発売?」

「全国発売って。いや、何なら全国発売でしか本出したことないよ」

「え! マジ! すごいね!」

 という会話になった。

 なった……。

 なりました……。

 いやいや。

 この幼馴染、付き合いは三十年以上に及びこれまで何度も私は「作家をしている」と話している。

 なんなら彼は以前、私が書いた文庫本も買ったことがあるのだ。

 じゃあなんで、自費出版だと思うんだよ。

 ということで深く彼に突っ込んで見たところ、「買った文庫本も自費出版だと思っていた」「自称作家だと思っていた」「そもそも興味なかった」らしきことが会話から露呈し、中々に虚しかったです。

「おめえ、もっと他人に興味を持った方がいいよ……」

 と捨て台詞を吐いておきました。

 誰か俺を天狗にさせてくれ。

 調子に乗るはずみをくれ。

 何かの間違いで爆発的に売れてくれないだろうか。

 百万部売れろ。

 お願いします。

#自称作家

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書いた人

高田公太(たかだ・こうた)

青森県弘前市出身、在住。O型。実話怪談「恐怖箱」シリーズの執筆メンバーで、本業は新聞記者。主な著作に『恐怖箱 青森乃怪』『恐怖箱 怪談恐山』、『東北巡礼 怪の細道』(共著/高野真)、加藤一、神沼三平太、ねこや堂との共著で100話の怪を綴る「恐怖箱 百式」シリーズがある。Twitterアカウント @kotatakada 新刊『青森怪談 弘前乃怪』発売中!

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