彼女のこと――「追悼奇譚 禊萩」特別寄稿②

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5年前に逝去した一人の女性が遺した実話怪談を1冊に纏めた文庫「追悼奇譚 禊萩」。
心霊体験の当事者であり、怪異蒐集者でもある彼女は、生前自身のもつ怪談を複数の書き手に委ね、託してきました。
一人の人間がこれだけ多くの怪談を提供することは稀であり、彼女はまさしく実話怪談界〈伝説のネタ元〉でありました。
彼女を偲び、4回連続でお送りするコラム。
第2夜は、鈴堂雲雀さんです。それではどうぞ――

りょんりょんさんという女性について―――鈴堂雲雀

 彼女と知り合ったのは、電子書籍出版グループ『竹の子書房』であった。
 悪ノリが好きな集団であったので、やる気のある人間が声を上げると、「じゃあ、それで」とメンバーが追随していく。
 りょんりょんさん自体はメインとなる企画には、表立つことはなかったように思う。
 それでもやりとりをするSkypeチャットの場では、仲間を気遣いながらも意見を纏めたり、ここぞというときにはハッキリと自分の意見を述べていたことを覚えている。
 所謂、姉御肌という印象を持つ人が多かっただろう。

 さて、私の個人的な印象で言うと、兎に角、気遣いと配慮の人であったと覚えている。
 また、怪談に対しての造詣が深いというところだろうか。
 この辺について少しお話をさせてください。
 実話怪談作家の端くれとして話させて頂くと、まずは取材ということがメインになる。
 これは運による部分が大きく、体験を持っている人に出会えないと文字通りお話にならない。
 その点で言うとりょんりょんさんは彼女自身の体験談も豊富で、また幅広い人脈から預かった話の数も多く、常時新しい話が舞い込んでいるようであった。
 先に話したSkypeチャットの場には、多くの怪談作家がいたが、結構な話数を提供していたのは間違いない。
 実際に今回の一冊は、りょんりょんさんが蒐集したものだけで作られてはいるのだが、何しろ数が多すぎるので、掲載し切れなかったというのが現状である。
 私自身も預かっているお話があるのだが、それはまた何かの機会にでも御紹介させて頂きたいと思っている。

 りょんりょんさんの怪談に対する姿勢という点でも説明をさせて頂く。
 彼女の中では善悪というものがハッキリとあった。
 怪談でよく言われる『因果応報』ということについては、「罰当たりの者に罰が当たるのは仕方がない」というスタンスでありながらも、どこかに慈悲がある。
 一つの話の中でも、ここは善、この面は悪という線引きが絶妙に上手かったと思えるのだ。
 『因縁』というものも怪談には付きものなのだが、作家が話に手を付けるタイミングまで考慮し、累が及ばないようにと慎重に提供する。
 確かに怪談というのは不幸な話が多いのかもしれない。
 ただ、それを世に出すことで『教訓』であったり、『隠された思い』や『優しさ』を伝えたかったのではなかろうか。
 その一端を担いたかったのではなかろうか。
 彼女からは体験者の想いを疎かにしてはいけない、という気概のようなものを感じていた。

 さて、今回の一冊はできれば彼女がこの世にいるうちに出したかった。
 それは参加メンバーや関係者全員の想いであったことは間違いない。
「こんな凄い人がいるんだよ」
 そう声を大にして言いたかった。
 それが叶わなかったことは残念無念。
 いや、そんな言葉じゃ表現できない悔しさがある。

 そして、今回私の分として掲載されたお話は変則的なものである。
 これは彼女が約束を守ったお話。
 そして、彼女の優しさが溢れる話である。
 そんな彼女であるから、生前から今も尚、関わりのあった人々に愛され続けているのだと思う。

 この度、出版されることとなった『禊萩』ですが、これは彼女が生きた証です。
 その蒐集された数々のお話に大いに震え、時に考え、そして根底の想いに気付いてください。
 そして知人の方にも是非御紹介してください。
 少しでも多くの人にりょんりょんさんという存在を知って頂きたい。
 我々関係者の想いは、これに尽きるのです。

 最後になりますが、私の体調が悪いときには本気で心配してくれましたよね。
 ネットラジオ放送のときには大いに盛り上げ、みんなを楽しませてくれましたよね。
 とある怪談の考察のときには、土着由来のしきたりなどを教えてくれましたよね。
 本当に有難う御座いました。
 貴女との数々の想い出は一生忘れません。
 そして、りょんりょんさんという存在を、これからも一生忘れてあげません。
 だから見守っていてください。
 本当に大好きでした。
 ――愛に溢れる貴女のことが。

★第3回、ねこや堂さんにつづく。

試し読み1話はこちらから

https://note.com/takeshobo/n/n0dd9840e4556

追悼奇譚 禊萩

加藤一/編著
神沼三平太、ねこや堂、鈴堂雲雀/共著

複数の書き手に自身の怪談を託してきた一人の女性がいる。
実話怪談の影の主役=体験者
伝説のネタ元と呼ばれた故R氏の形見怪談全35話収録!

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