【日々怪談】2021年3月19日の怖い話~ CDラジカセ
【今日は何の日?】3月19日:ミュージックの日
CDラジカセ
カセットテープにCDから音楽をダビングするのが、まだ当たり前だった時代のこと。
笠原さんは音楽が大好きだが、自分用のCDプレーヤーを持っていなかった。実家暮らしの頃は、レンタルショップでCDを借りてきては、家族のコンポでダビングをしていた。
しかし進学で一人暮らしを始めてからは、再生専用の携帯型カセットプレーヤーだけしか持っていない。従って新しい音楽ライブラリは増えていない。
ある週末のことである。近所のお寺の青空市で、型はちょっと古いがまだまだ使えるCDラジカセが売られていた。値札を見ると驚くほど安い。
「こんなに安くて良いんですか?」
「ええ、引っ越すんで、もう全部処分するつもりなんです。この値段で良いですよ」
いい買い物だった。これでばんばんCDからダビングできる。
すぐにレンタルショップに行って会員登録をし、その場でCDを何枚か借りた。同時にカセットテープも何本か纏めて買った。
心を躍らせながら家に戻り、CDラジカセで再生しながらダビングを開始した。
激しい曲調で人気の、男性ハードロックグループのアルバムだ。
アルバムの終了と同時にカセットデッキのボタンが上がり、ダビングが終了した。
今度は同じ曲をカセットテープから再生を開始する。きちんと録音できているかを確認するためだ。
何故か再生された音楽に重なって般若心経が流れていた。しかも音楽に合わせたリズムで唱えている。激しい曲だとやけにテンポが速い。曲が変わるとその曲に合わせた速度に変わる。考えても仕掛けが分からない。
最初はラジオか何かが録音されたのかもしれないと考え、次のCDのダビングを開始した。今度は女性のバラード系のアルバムだ。
ダビングされたカセットテープを再生すると、やはり般若心経が流れた。しっとりとした曲調にしっとりとした般若心経が重なる。
古田さんは複雑な気持ちで暫くの間そのラジカセを使っていた。しかし、ある日壊れてしまって粗大ゴミとして捨てたという。
――「CDラジカセ」神沼三平太『恐怖箱 百眼』より