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3月新刊『鬼怪談 現代実話異録』内容紹介・著者コメント・試し読み・朗読動画

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人気作家から期待の新人まで、「鬼」をテーマに集められた異形の実話怪談アンソロジー!

鬼は実在する――。

先祖が鬼だという資産家一族の子孫に掛けられた呪い。
その恐ろしき元凶とは…「受け継ぐ」より   

鬼を見た人の証言、29話!

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あらすじ

古来より語り継がれし異形のモノ、鬼。
実在か、はたまたお伽噺の産物か、或いは別のものを鬼と言い換えたのかその説は様々だが、いずれにせよ現代には縁遠いものと思われがちである。
だが、鬼に出会った者は今でも実在する。
本書は彼らの証言、体験談を聞き集めた実話の鬼怪談である。
・どこからかついてきてしまった幼い鬼に情をかけた女。やがて鬼は成長し恐ろしいことが…「鬼の子」
・先祖が鬼だという資産家一族に掛けられた呪い。そのおぞましきルーツとは…「受け継ぐ」
・押し入れに鬼が棲む一家。節分の夜に鬼の声を聴いて吉凶が占うというのだが…「鬼が嗤う」
――他、霊よりも怖い鬼の実話怪談29篇!

編著者コメント

鬼テーマはありふれていそうでいて案外難題でした。日頃から「日常的に聞き貯めてあって、これから書く未執筆体験談のストック」を作っているんですが、そこを捜しても「絶対に鬼の仕業、鬼の所業」と言い切れるものは数えるほどしかなく。著者各位にも奮闘いただきましたが、蓋を開けてみたら何ともバリエーションに富んだ鬼怪談が集まりました。

著者コメント(「本望」)

鬼が存在する理由は一つではありません。それを見極めずに取り扱うとどうなるか。そんな話です。

編著者推薦・試し読み1話

本望

 篠原さんには、晴雄という叔父がいた。
 民俗学の研究を趣味とする晴雄は、フィールドワークと称して日本全国を旅していた。
 専門的な知識を学んだ訳ではない。ネットに転がっている情報を元に行き先を決めるだ
けだ。
 要するに、先人の跡を追うだけの観光旅行である。
 自分でもそれは分かっているせいか、晴雄は時折、突拍子もない場所を目的地に選んだ。
 特に好んだのは、地元の人間が禁忌とする場所だ。
 暮らしの中の正の部分は祭りにあり、負の部分は禁忌にある。
 会社での出世はとうに諦め、日々の楽しみもない。生涯独身の自分にとって、人間の負
の部分は何よりの御馳走だ。
 そう言って晴雄は笑うのであった。
 その晴雄が、昨年の初め、自宅で死んでいるのが発見された。
 これは、その少し前に篠原さんが晴雄から聞いた話である。

 何年か前の秋のことだ。晴雄は例によって旅行に出た。SNSで知り合った同好の士か
らの情報だ。
 目指すは北陸地方の山間部にある村。その村の近くの洞窟に、鬼の像が祀られてある。
 洞窟の入り口に注連縄が張られていたため、何かあるのではないかと推測したらしい。
 鬼の像は一つや二つではない。優に五十は超える。石や木など材質は異なるが、いずれ
も手彫りである。
 明らかに素人の手によるものだ。美術品としての価値はないのだが、何とも言えない迫
力があった。
 立ち入り禁止と思われる洞窟に無断で入ったため、残念ながら由来の聞き取り調査はで
きなかったという。
 注連縄で閉ざされた洞窟に、溢れんばかりの鬼の像。聞いただけで胸が躍る。
 是非とも実物を拝んでみたい。晴雄は可能な限り、人目に立たぬよう行動した。
 その甲斐があり、洞窟に到着するまで誰とも顔を合わせることはなかった。
 一見したところ、何の変哲もない洞窟である。
 聞いた話の通り、入り口には注連縄が何本も張られており、足を踏み入れるのが躊
躇われる佇まいであった。
 注連縄を切らないように注意を払って中に入る。ひんやりとした空間に誘われる。
 見かけに寄らず深い洞窟のようだ。懐中電灯で辺りを照らしながら、奥へと進んでいく。
 暫く進むと、少し開けた場所に出た。
 そこが鬼の間であった。辺り一面、鬼の像で埋め尽くされている。すぐ側の一体を手に取った。
 彫りは粗いが、確かに鬼だ。恐ろしげな顔つきである。何とも素晴らしい造形だ。
 晴雄は時間が許す限り、鬼の像を調べて回った。
 途中、ふと気付いた。作りや材質は違っているが、全ての像が同じ方向を向いている。
 この空間の奥にある一点に向かって据え付けられているのだ。
 近づいていくにつれ、空気がどんよりと重くなっていく気がする。
 懐中電灯で照らした先には、一際大きな像が置いてあった。
 妙な像である。人の形なのだが、顔は彫られていない。まるで、つるんとした玉子である。
 手も足も胴体も、つやつやと濡れたように滑らかだ。
 晴雄は、この像を見た途端、全身が震えてきた。辺りにある鬼の像などとは、比べ物にならない程恐ろしい。
 直感的に、人が見てはならない物だと分かった。
 晴雄は後ろも振り返らず、一目散にその場から逃げ出した。
 無事、自宅に到着してもなお、手足の震えは止まらなかった。
 その日からずっと、あのつやつやの像が夢に現れる。玉子の顔なのに、怒っているのが分かる。
 激しい顔の痒みで目が覚める日々が続いている。病院では何も異常が見つからない。
 洞窟のことを教えてくれた人とは連絡が付かなくなっている。
 話し終えた晴雄は、深い溜息を吐いた。
「あの鬼達はあれに捧げる供物なんだろうな。しまったなぁ、一つだけなら良いだろうって思ったんだけどな」
 晴雄は旅の土産とばかりに、手に取った鬼の像を一つだけリュックサックにしまい込んだのである。
 返したほうが良いのではと篠原さんは忠告したのだが、晴雄はきっぱりと断った。
「大好きな民俗学で死ねるなら本望だよ」
 数週間後、晴雄は死体で発見された。顔面を掻きむしったらしく、皮膚が剥けて酷い有様だったという。
 最後の言葉通り、本望を果たした訳である。
 部屋は整理されたが、鬼の像は見つかっていない。

(完)

朗読動画(怪読録Vol.73)

【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。

今回の語り手は 上間月貴さん!

【怪読録Vol.73】気づくと真横に男が…幼い頃の不気味な思い出―加藤一編著『鬼怪談 現代実話異録』より【怖い話朗読】

商品情報

編著者紹介

加藤一  Hajime Kato

1967年静岡県生まれ。O型。獅子座。人気実話怪談シリーズ『「超」怖い話』四代目編著者として、冬版を担当。また新人発掘を目的とした実話怪談コンテスト「超-1」を企画主宰、そこから生まれた新レーベル『恐怖箱』シリーズの箱詰め職人(編者)としても活躍中。主な著作に『「忌」怖い話』、『「超」怖い話』、『「極」怖い話』各シリーズ、『「弩」怖い話ベストセレクション 薄葬』(竹書房)、『怪異伝説ダレカラキイタ』シリーズ(あかね書房)など。

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