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4月新刊『凶鳴怪談 呪憶』(岩井志麻子×徳光正行)内容紹介・試し読み・朗読動画

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最凶の怪談デュエット再び!

最凶最高の怪談二人羽織がまたも降臨!! by 平山夢明

メディアで活躍中の岩井志麻子と徳光正行による禍々しさ満載の実話怪談第二弾!
二人が共鳴し合う阿鼻叫喚の恐怖、どこまで振り切れていくのか!

巻末にはホラーの鬼才・平山夢明を迎えての最恐鼎談を掲載!

無料で読める怪談話や怪談イベント情報を更新しています

あらすじ

「父の話」(岩井志麻子)

十歳の頃、父が突然別人にしか思えなくなる…違和感の奥底に隠された真実のおぞましさ

「奇妙な記憶」(岩井志麻子)

地元に帰省したとき駅で待っていた同級生。彼と居酒屋に入ったものの、その夜、信じがたい話を耳にする

「トイレ」(岩井志麻子)

コンビニの向こうは、ふしぎの国でした… 

コンビニのトイレに駆け込んだ先にあった景色とは。奇妙な異世界奇譚!

「呪憶」(岩井志麻子)

夜のキャンプ場で… 参加者全員の記憶が食い違う奇妙さ。不気味すぎる著者自身の記憶に関する実体験

「ピシャッ」(徳光正行)

都心で見つけた激安物件。外から見ると、何処からも行けない階が…。謎に満ちた建物に住んだ男の話

「誘い物件」(徳光正行)

事故物件に好んで住む男が語る、過去に住んだ一番ヤバイ最恐部屋の実体験。そこで何が起きたのか!?

「未知との遭遇」(徳光正行)

小児病棟に入院していた男の子のようすがある日おかしくなった。曰く、宇宙人に会ったというが……

おまけ鼎談(岩井志麻子×徳光正行×平山夢明)

凶鳴怪談のコンビがホラ―の鬼才・平山夢明を交えて記憶の奇妙さ、怖さについて語る!おまけ怪談3本も収録!

著者自薦・試し読み1話×1話

「別々の」岩井志麻子

息子の友達のケイくんが、生まれて初めて幽霊に遭ったと、興奮しながら話してくれた。

夜、彼は自分の部屋で寝ていて、ふっと目が覚めると枕元に誰かの気配を感じ、瞬時に妙だなとも気づいた。彼は頭をほぼ壁にくっつけて寝ていて、つまり頭と壁の間に人が座れる隙間はないのだ。なのにそいつは、ケイくんをのぞき込むようにしている。

このような場合のお約束として、彼は金縛りに遭っていた。身動きが取れないままもがいていたら、今度は何かが腹の上にいるのを感じた。足を広げ、彼をまたいで座っている。

さすが幽霊、といっていいのか、重量を感じさせない。

ちなみに電気も消していて、ケイくんも目をつぶっていて、二重の闇の中にいた。だからその怪しい頭上の上半身も、腹の上の下半身もまったく見えないのに。

「なんでか、同一人物だとわかったんです。男だ、というのも」

普通は頭の上と腹の上とで別々に存在できないが、そこは幽霊だ。物の怪だ。人ではない。だから、そういう真似ができたのだろう。

「これまた、ふっといつの間にかどちらも消えていて、ぼくは寝てしまっていました」

朝の光の中で目覚め、あれはなんだったんだ、嫌な夢を見たなぁ、と夢で片づけておくことにし、いつものように最寄り駅のホームに立ったら。

「人身事故、発生。ぼくは見なかったけど、数メートル先で男が飛び込んだんです」

そのときもケイくんは金縛りに遭ったかのように、悲鳴と騒ぎの中に固まって立っていた。誰かが、真っ二つだって、などといっていた。

別の路線の電車に乗り換えた彼は、さっきの事故を検索した。いろんな情報が錯綜していたが、飛び込んだ男が胴体で真っ二つになっていた、というのは本当のようだった。

「あれっ、昨日の夜中にやってきたのは、頭のところと腹のところに分かれていたけど、同じ人だったな。もしかして、さっき死んだ人なのかな」

しかし、辻褄が合わない。幽霊にあまり辻褄という言葉や考えは相応しくないかもしれないが、ともあれ昨夜の何者かとさっき死んだ人が同一人物ならば、自殺する前、死ぬ前にケイくんの元へ現れていたことになる。

「なんといっても不思議なのは、ぼくは何の関係もないんですよ。同じ駅を使っていたくらいで、顔見知りですらない。あの人にだって家族や好きな人はいたでしょう。なぜそこに行かず、無関係なぼくの元に現れたんでしょう。しかも、まだ死んでないときに」

その後、ケイくんはその人の幽霊には遭ってないという。亡くなった人は、今度こそ因縁や想いのある人の元に現れているだろうか。

「合わせ鏡」徳光正行

正田さんは小学生の頃、近所の寄合所の一室で英会話を習っていた。

「まあ、英会話といっても今の子供達が通っている教室のように本格的なものじゃなくて、お遊びの延長みたいなものだったし、何よりアメリカ人の先生というのが珍しかったのと、若々しくとても美人だったのでその先生に会いに行くというか、見に行ってたようなもんでしたね」

確かに……。今でこそ外国人の方々を街で見かけることは当たり前になっているが、およそ四十年前くらいだと外国人の姿は珍しく、大都市以外だとお目にかかる機会はほぼなかったように思う。

正田さんの話に戻ろう。

その寄合所というのがオンボロな木造平屋建てで、英会話教室に用いていた部屋も黄ばんだ畳に薄っぺらい座布団、蛍光灯の薄明かりといった感じで、小学生ながら「こんなところにアメリカ人を招いて英語なんて教えてもらってもいいのか?」と思っていたそうだ。

幸いにもそのアメリカ人女性、仮にメアリー先生としておこう。

メアリー先生は嫌な顔ひとつせず、むしろいつも笑顔で寄合所の関係者や子供たちに接してくれていた。

正田さんが寄合所に行くようになって数ヶ月した頃、便所に鏡が設置された。

もちろんオンボロ平屋建てなので、男女で別れているわけもない。共同便所で、扉がついた和式便所が三つと、両端に洗面台が向かい合わせになっているという造りであった。

その洗面台のところには「~寄贈」と書かれた、四隅が剥げて水垢で濁ってしまっている清潔感皆無の鏡が設置された。お気づきの方もおられると思うが、両端の洗面台の設置された鏡――合わせ鏡になっていたのだ。

「なあなあ、合わせ鏡の十三番目に映った顔って自分の死顔って知ってるか?」

鏡が設置されてすぐに怪談好きの佐竹が正田さんの耳元で囁いた。

「なんだよ、それ? やめろよ」佐竹さんが顔を硬らせていると

「えっ、十三番目には何も映らないって聞いたよ」

千晶ちゃんが異論を唱えた。

「ソコノサンニン、ナニハナシテルノ?」

こそこそ話をしていた三人にメアリー先生が声をあげた。

「すみません」

三人は頭を下げ、授業は続き帰りの時間になった。

帰り支度をしていると、

「ギャーーーーー」

便所の方から女の叫び声が聞こえた。

部屋にメアリー先生の姿がない。

どうやら叫び声の主はメアリー先生のようだ。

三人を含む生徒たちは一斉に便所に向かった。

するとそこには鏡に向かって髪を振り乱して、聞いたことのないような英語を用いて喚きたてるメアリー先生の姿があった。

そして次の瞬間、先生は大声で笑い出したかと思うと白目を剥き、口から泡を噴いて卒倒してしまった。

「子供たちはもう帰りなさい!」

その様子を見て唖然としていた寄合所の所長が、慌てたように正田さんたちに帰宅を促した。

追い出される形となった正田さんの耳には、救急車を呼ぶ事務員の慌てふためいた声がしっかりと刻まれた。

翌週以降、英会話教室が催されることはなかった。理由は「メアリー先生の体調不良」ということだった。

そしておよそ二ヶ月が過ぎた頃、英会話教室を主催していた寄合所の所長から各家庭に

「メアリー先生は英会話教室を出来なくなりました。でも、せめて子供たちとお別れをしたい」という旨の連絡があった。

そこで、寄合所ではなく駅前の喫茶店で「お別れ会」が開かれることになった。

正田さんをはじめとした子供たち、そして保護者たちが揃うと、少し顔を強張らせた寄合所の所長がメアリー先生を招き入れた。

「えっ」

子供たちも保護者たちも言葉を失った。

そろりそろりと歩を進め皆の前に姿を現したのは、艶のないバサバサの髪に痩せこけた化粧っ気のない初老のアメリカ人女性。あの美しく、笑顔が可愛かったメアリー先生と同一人物とは思えなかった。

わずか二ヶ月ですっかり老いさらばえてしまったメアリー先生は、子供たちへの感謝の意を日本語と英語でそれぞれ述べると、一人一人としっかり目を合わせてハグをし、涙を浮かべてその場から去っていった。

「いや、本当にメアリー先生? と疑うくらいの変貌だったのですが、ハグをされた時に鼻腔に馴染んでいたメアリー先生の香水の匂いがして、やっぱり本人なんだと思いましたよ」

正田さんは懐かしそうに目を細めた。

その後、正田さんは英会話教室の仲間とは疎遠になってしまった。中学校へ進学し、そんなことはすっかり忘れてしまっていた頃、偶然に隣駅の商店街で佐竹に会った。

「久しぶり」

挨拶もそこそこに、佐竹はニヤッと口角を上げながら話し始めた。

「メアリー先生、お別れ会の時にアメリカに帰るって言ってただろ? でも帰国できなかったんだよ。なんでだと思う? お別れ会の数日後に、自分の家の鏡の前で首吊り自殺しちゃったらしくてさぁ」

驚きはしたがその佐竹のものの言い方に嫌気がさし、その場を後にしたのだが、モヤモヤもしたので帰宅後に母親に聞いてみると、

「なんであんた、そのこと知ってるの?」

その様子から、メアリー先生が自殺したことは本当であったということがわかった。

さらに母親は「そのことは子供たちには話さないようにする」という取り決めを保護者たちの間でしているから「あんたも人に言わないのよ」と念を押された。

「メアリー先生は、あの合わせ鏡の中に何を見てしまったんだろうって、今でも時々思ったりするんですよね」

正田さんはなんとも複雑な表情を浮かべ、空虚を見つめた後、こう続けた。

「寄合所なんですけど、自分が高校生の時に大型ダンプが突っ込んで大破したんですよ。だけどなぜかそれからしばらく廃墟のままになっていていたので、興味本位で覗いてみたことがあったんです。そうしたら柱や壁、便器なんかはボロボロに壊れていたんですけど、鏡だけはまったくそのままの状態でかかってたんですよね。それでまた数年後に行ったら今度は鏡がなくなってたんですけど、誰かが盗んだんですかね?」

その鏡は今でもどこかに存在しているのだろうか?

くれぐれも合わせ鏡にならないように使用していて欲しいものだ。

(了)

朗読動画(怪読録Vol.79)

【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。

今回の語り手は 怪談社の糸柳寿昭 さん!

【怪読録Vol.79】来訪する不気味な女が手渡してきた物とは――岩井志麻子×徳光正行『凶鳴怪談 呪憶』より【怖い話朗読】

商品情報

著者紹介

岩井志麻子 Shimako Iwai

岡山県生まれ。1999年、短編「ぼっけえ、きょうてえ」で第6回日本ホラー小説大賞を受賞。同作を収録した短篇集『ぼっけえ、きょうてえ』で第13回山本周五郎賞を受賞。怪談実話集としての著書に「現代百物語」シリーズ、『忌まわ昔』など。共著に『凶鳴怪談』『女之怪談 実話系ホラーアンソロジー』『怪談五色 死相』など。

徳光正行 Masayuki Tokumitsu

神奈川県茅ケ崎市生まれ。テレビ、ラジオ、イベントの司会などで活躍しながら二世タレントとしての地位を築く。大の実話怪談好き。著書に『伝説になった男~三沢光晴という人』、「怪談手帖」シリーズ、『冥界恐怖譚 鳥肌』他、共著に『凶鳴怪談』『FKB怪談幽戯』など。

シリーズ好評既刊 

凶鳴怪談

ホラー界の女豹・岩井志麻子と怪の追究者・徳光正行によるふたり怪談!
某国で出会った男の凄惨な末路「腰痛」、おかしな隣人に隠された奇妙な過去「安アパートで」、彼氏のスマホにあった身の毛がよだつ動画とは「三つめのスマホ」など岩井志麻子が綴る人の業と因縁話の数々。
とある一族が担う恐ろしくも哀しい宿命「代々」、肉親が次々におかしくなっていく部屋「離婚部屋」など日常に仕掛けられた罠のような恐怖譚を披露する徳光正行。
巻末おまけとして岩井×徳光の最恐対談も収録! 怪異に魅入られたふたりの共鳴が禍々しく幕を開ける。

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