5月新刊『「忌」怖い話 大祥忌』(加藤一)内容紹介・試し読み・朗読動画
不吉な連鎖、死の足音。闇深き実話怪談!
「偶然って何度までだ?」
常連客が次々と死んでいく練馬区のバーで何が…(「バーにて」より)
不思議で恐ろしい出来事を体験した人々から聞き集めた実話怪談集。
「超」怖い話四代目編著者が年に一度孤独に向き合い、執筆する「忌」まわしきシリーズ、最新刊!
あらすじ
「教室の盛り塩」
放課後コックリさんをした翌日、教師が教室の四隅に施した盛り塩。凶事はそこから…
「箸を」
上杉神社でいただいたお護符の箸。使わずにとっておいたら、ある日奇妙なことが…
「トモダチの続報」
再婚予定の男性に懐かない娘。聞けば、男の横にいつも首のない少女がいるのが怖いと…
「今際の彼」
生家に棲みつく青年の霊。上京とともに憑いてきた彼は何かを探しているようなのだが…
「バーにて」
練馬区のあるバーで常連客が次々と死んでいく怪事。死因は様々、共通点は店だけで…
「物件探し」
兄の部屋探しに付き合った霊感のある妹。紹介される部屋はことごとく何かがいて…
「八甲田山のコンバース」
八甲田山をドライブ中、森から飛び出してきた青のコンバース。やがて靴から足が…
「彼女について」
難病を患うある女性の、怪に満ちた半生記。あの世へ誘う叔父の魂、屋敷を守る蛇とは…
著者コメント
大祥忌で「忌」怖い話通巻六巻目になりました。
そして、昨年もそんなこと書いてた気がしますが、今年で実話怪談生活30年になりました。
子供の頃、川口浩探検隊が駄目で、あなたの知らない世界が駄目で、オーメンの予告編をチラ見するのも駄目で、座頭市の最終回で市が滅多切りにされる白日夢を見るラストシーンも駄目で、夜寝るときには豆球を決して消せない子供だったあの頃の自分はどこ行ったのかと日々思い返しています。
でも未だに怖い話を聞くのが苦手で、やべえ話を聞いてしまった日は手早くメモだけ作って、家に着く前に一杯引っかけて、それから取材メモや音声データをしまい込んで早々に寝てしまうようにしています。怖いのです。こうしてみると未だ、暗がりが怖かった子供時代と大差ないような気もします。
今作では、とあるお二方から伺ったお話がみっちり詰め込まれています。『鬼怪談』に収載の「栞」というお話に登場した方々ですが、あの「栞」の話も今思えば別の大きなエピソード群の一部だったんじゃないか、というふうに思えてなりません。
始まりが見えず、終わりも見えない話は怖いのです。今正に渦中。
この先、渦から顔を出して逃げ切ることができるや否や。もう暫しお付き合い下さい。
試し読み1話
「レジ客」
その日は夜勤明けだったので、坂口さんは比較的早い時間に職場を出ることができた。
とはいえ、このところ出勤続きでまともに買い物もできていない。冷蔵庫の中は恐らくすっからかんであろうと思われたので、自宅に向かう道すがらにあるスーパーマーケットに寄ることにした。
マヨネーズはまだある。マーガリンはぼちぼちないはず。
レトルトのカレーの買い置きは少し足しておきたい。
最近、新鮮な野菜を食べてない気がする。患者と向き合う仕事をしている自分が、こんな不摂生ではいけないと思うのだが、多忙という言い訳が理想の暮らしを覆い隠す。
なけなしの罪悪感からトマトのひとつも籠に入れて、レジの列に並んだ。
丁度、夕飯の支度を始める人々で混み始めるタイミングだったらしい。列には近所の奥様方やら、学生さんやらがレジ籠をぶら下げて列を成している。
坂口さんの並んだ列の幾つか前に、それはいた。
一言で言うならそれは異形である。
人のようでいて、人ではない。
人の形を取っているようでいて、人の本来の形とはどこか違って歪である。
自分がもう既に死んでいることに気付かないまま、生前の習慣を繰り返す霊というのはたまに見かけることがある。夜の墓地やら夜の踏切やらの、如何にもな場所ではなく、日常的な生活圏をうろうろする輩である。
だが、どうもそれとも違う。
なぜなら、その異形はスーパーのレジ籠をぶら提げていたのである。
籠の中身は、カレールーやらキッチンペーパーやら新発売のスナック菓子やら。
つまりは、坂口さんを始めとする買い物客のそれと大差ない。異形がぶら提げている、という認識がなければ、意識もせずに見過ごす程度のありふれたものだ。
異形はレジ籠をぶら下げたまま、のそのそと隣のレジに入っていった。
一体、どうするつもりなのか、と固唾を呑んで見守った。
店員は、
「いらっしゃいませ」
と型通りの挨拶をして籠の中身をチェックする。
「全部で千二百三円になります」
異形は財布らしきものを取り出して、現金を出した。
――おお。現金派か。
「ポイントカードお持ちですか?」
異形は続いてポイントカードを渡し、釣り銭を受け取った。
「レジ袋ご入り用ですか?」
異形はエコバッグは持っていないようだった。
店員は異形に頭を下げた。
「ありがとうございました。次のお客様どうぞ」
店員も、レジに並ぶその他の客も、誰一人として騒ぎ立てなかったところを見ると、あの異形は〈ヒト〉の形を取って、そこに確かに存在していたのだろう。誰の目からも人にしか見えない外見と立ち振る舞いをしていたのだろう。
だが、坂口さんの目には、それは「人ではない何か」に見えていた。
具体的な比喩、似通った何かが何一つ思いつかないので異形としか呼びようがないのだが、しかし絶対に生きた人でも生前に人だった何かでもなかったことだけは間違いないのだという。
つまり、それらは何食わぬ顔で我々の暮らしの中に紛れている、ということになる。
そして異形はレジ袋をぶら提げて店を出ていった。
坂口さんは、ただただ異形を見送るしかできなかった。あの異形が、いったいどこに帰っていくのかは、考えたくもなかった。
(了)
朗読動画(怪読録Vol.83)
【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。
今回の語り手は 怪談社の 糸柳寿昭 さん!
【怪読録Vol.83】線路に佇む、居るはずのないナニカ…加藤一『「忌」怖い話 大祥忌』より【怖い話朗読】
商品情報
- 書名:「忌」怖い話 大祥忌
- 著者名:加藤一
- 発売日:2021/5/28 ※発売日は地域によって前後する場合があります。
- 定価:本体680円+税
- ISBNコード:9784801926622
- シリーズ:「忌」怖い話
著者紹介
加藤一 Hajime Kato
1967年静岡県生まれ。O型。獅子座。人気実話怪談シリーズ『「超」怖い話』4代目編著者として、冬版を担当。また新人発掘を目的とした実話怪談コンテスト「超-1」を企画主宰、そこから生まれた新レーベル『恐怖箱』シリーズの箱詰め職人(編者)としても活躍中。主な著作に『「弩」怖い話ベストセレクション 薄葬』、『「忌」怖い話』、『「超」怖い話』、『「極」怖い話』の各シリーズ(以上、竹書房)、『怪異伝説ダレカラキイタ』シリーズ(あかね書房)など。
シリーズ好評既刊
「忌」怖い話
怪に魅せられ、聞き集め、それを綴ること25年。伝説の実話怪談「超」怖い話の誕生から怪談とともに生きてきた著者が、いまだに恐れ慄く話がこの世にはある。たいていの話ならば似たような話を聞いたことがある、過去にはもっと怖い話があったとなりそうなものであるが、そうではないのだ。まだ、あった。怪談を山ほど知る著者が本気で怖いというのだから、我々がそれを聞いたら……。あなたに捧ぐ「未知の恐怖」!
「忌」怖い話 香典怪談
伝説の実話怪談シリーズ「超」怖い話の最古参執筆メンバーにして、現在も四代目編著者として冬の「超」怖い話を牽引する加藤一が手掛けるソロワーク、「忌」怖い話。「超」怖い話とはまた違う抽斗から驚愕の怪が繰り出された。\ペットの死に際に見た不思議な怪現象「時計回り」、パソコンの電源を入れるたびに体を這うものとは…「ぞわつく部屋」、出征する息子に持たせたお守りに纏わる戦慄の連鎖怪談「八咫烏」他、空恐ろしくも滋味深い28話を収録。\ただ怖いだけが怪談ではない。恐怖を超えた何かがここにある……。ぜひご堪能いただきたい。
「忌」怖い話 回向怪談
「超」怖い話シリーズの最古参メンバーにして、現・四代目編著者。そして、恐怖箱アンソロジーの箱詰め職人(編者)として活躍する加藤一が年に一度、孤独に書き下ろす実話怪談――それが「忌」怖い話である。体験者から託された曰くつきの話や、長きにわたって追いかけている怪奇事件、妖怪や不思議系の話など、この世で目撃されたありとあらゆる異分子が恐怖とともに詰め込まれている。\\満月の晩にだけやってくる少女の怪「満月の夕べ」、水をあげ続けねばならない人形の恐怖「命の水」、新興宗教のアジトに遺されていた意外なものとは…「祈り篤き所に神は宿る」ほか、状況証拠も生々しい戦慄の実話怪談を収録!
「忌」怖い話 卒哭怪談
<お前は鬼から隠れたり追われたりする遊びをしてはいけない>家族からきつく戒められていた少女が、ある時神社の境内でかくれんぼをしてしまい…「もう、いいかい」、結婚式で招待客の首にマフラーのごとく巻き付いていた炎。やがてそれは蛇のように新婦の手首に移ってきて…「人を呪わば」、ある日突然、左目の視界に黒い点が現れ、徐々に視力が奪われていく。それは祟られた一族の宿命であり、因果は戦国時代に遡ると言うのだが…「代々二人」他、負の念が呪となり禍をなす戦慄の43篇。\\伝説の実話怪談シリーズ「超」怖い話の最古参メンバーにして、現4代目編著者が手掛ける渾身の一冊!
「忌」怖い話 小祥忌
「超」怖い話4代目編著者、恐怖箱アンソロジーの編者としてもお馴染みの加藤一が1冊丸ごと書き下ろす年に一度のひとり怪談。昭和40年代、高島平の板橋清掃工場脇の団地で起きた住民の連続死。病気、事故と死因は様々であったがその忌まわしき連鎖には因縁が…「団地」、ホタテ漁の漁師の家に夜突然上がり込んできた見知らぬ男。同じ漁師のようだが、海に落ちてからの記憶がないと言う…「漁師の家」、絶対にやってはいけない禁術のトランプ占い。従兄弟の頼みで占ってしまった少女は…「占いと猫」他、恐怖から不思議まで万華鏡の如く魅せる珠玉の全33話!
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