【書評】南の鬼談 九州四県怪奇巡霊
3月28日発売の文庫『南の鬼談 九州四県怪奇巡霊』の書評です。
今回のレビュアーは卯ちりさん!
早速ご覧ください!
目次
書評
「超」怖い話」シリーズや、恐怖箱アンソロジー等でお馴染みの、久田樹生の新刊は南九州が舞台の怪談集である。
実話怪談本において、特定の地域で取材・蒐集された「ご当地怪談」の書籍は多く、特に九州の怪談となると人口の多い福岡県は怪談が豊富な印象を受けるが、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県の南九州4県のみという体裁は珍しいかもしれない。
ご当地怪談には2種類ある。風土や地域文化に根ざした、その土地ならではの話と、土地に因果のない怪談――偶々そこで起きただけで、日本全国どの場所で起きてもおかしくない話。当然ながら、怪談のローカルな魅力を求めるのであれば前者の怪談が望ましいが、後者の「全国どこにでもありそうな怪談」すらも、その土地の匂いで満たし旅情を誘う怪談に昇華されているのが、この「南の鬼談」である。
例えば、熊本県「人気のアパート」のメールの文面。標準語の会話の中に、一言だけ差し込まれた熊本弁のフレーズが強く印象に残るが故に、気味悪さが倍増する。宮崎県「目を疑う」には、ニシタチの歓楽街で交流した女性の切ないドラマがある。どの話にも、土地の磁場を感じさせる要素があり、心霊スポットやパワースポットといった特別な場所のみが、ローカルな怪談を形作っているわけではない。
それでいて、ご当地全開な怪談は、河童や未確認飛行物体の目撃談、神仏、禁足地、古い駅舎等、読者の期待と好奇心を心得つつも、容赦なく忌まわしさを突きつけてくる。
なかでも宮崎県の「山間に沿う」は厭な話である。一見すると普通に見えるが、町民から異様に忌避される上米良家。噂話を信じ一家を蔑む町民、事あるごとに上米良家を覗きに行く、体験者の趣味の悪い好奇心。たとえ怪異が起きなくても、充分に恐ろしい田舎の話だが、その土地の人々には「理由なく悪いことをするものは、何かに取り憑かれているのだ」という考え方を受け入れていた(故に、非人間的な存在として悪人を突き放せるし、悪びれもなく忌避できる)点が興味深い。「よっついちょった」(寄り憑いていた)上米良家の謎と疑念は残る話だが、「神々の郷」らしい、神様の存在を身近に感じる怪談である。神様といえば、特定の神仏を拝まねば災いが起きる、鹿児島県の「遠い親戚」と大分県の「決まりごと」の2編も、その災いの大きさと衰えぬ効力に驚く。
それにしても、大根やぐらの並ぶ田野と鰐塚山の景色に現れる飛翔体には、オカルト好きはロマンを感じざるを得ないだろう。
九州旅行の際には、河童とUFOに一度お目にかかってみたいものである。
レビュアー
卯ちり
実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。