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【連載日記】怪談記者・高田公太のデイリーホラー通信【#11】怪トーク出演/ラバーガール好き/オールリターン行きましょう

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新聞記者として日夜ニュースを追いながら怪異を追究する怪談作家・高田公太が、徒然なるままに怪談・怪異や日々の雑感を書き殴るオカルト風味オールラウンド雑記帳。だいたい4~7日前の世相を切ります。毎週月曜日と木曜日に更新!

2021年2月8日(月)

 春が待ち遠しい。

 弘前の一年はとても視覚的だ。

 春は桜、夏と秋は岩木山の緑と紅葉、冬は雪。

 暦よりも景色が季節を決める。

 今は冬を少しずつ春が押し出している。

 やっと見えてきたアスファルトにまた雪が覆い被さる。

 でも、数日もすればまたアスファルトが覗く。

 会社の帰り道で一生懸命に排雪溝へ雪を捨てている人を見かけた。

 近づいてみると黒木あるじさんの母上で、ご挨拶をしました。

 私は人とコミュニケーションを取るのが好きだ。

 町で知人に会うと、まず間違いなく声を掛ける。

 ほとんど誰かに会うのを期待して過ごしていると言ってもいい。

 そんなスタンスでいるせいか、ちょくちょく知人に似た別人にも声を掛けてしまう。

 だがその反面、突然途轍もない人疲れを感じることもある。

 それまで楽しく話をしていたのだが、ふと何も面白味を感じられなくなり、その場からふらりと居なくなりたくなってしまう。

 こちらとしては面白くないので帰る、という至極真っ当な理由があるのだが、その場に居る者は面食らうようでよく引き留められる。

 これは昔からそうだ。

 場が悪いのではなく、自分の感性が急に鈍ったせいなので、誰が悪いということもない。

 一言でいうと、私の躁鬱の類である。

 夜に怪談家ぁみちゃんのニコ生配信「怪トーク」に出演。どうせ高田はふざけるのだろう、という空気を感じたので、裏切ってかなり真面目にやった。楽しかった。

 ぁみちゃんとの付き合いは初対面から数えたら5年くらいだろうか。普段から密な交流をしているわけではないのだが、ぁみちゃんはLINEがしやすいし、余り気を遣わずに話せるので良い感じだ。積極的に交流を持ちたいタイプです。

 基本、怪談関係者で特に嫌いな人はいない。

 そもそも私の活動の主は怪談作家なので、「この人、嫌いだな」と思うほど近しい交流を持つことがない。

 語りを主とする皆様の人間関係は、とても興味深い。

 目が離せない。

#弘前 #黒木あるじ #躁鬱 #ぁみ #ゴシップ

2021年2月9日(火)

 映画「フォードVSフェラーリ」を視聴。

 面白かった面白かった。

 これも「竜二」映画だ。

 こういう映画を観ると都度、ああ、俺も負けないようにするぞ、と決意を新たにする。終盤のルマンは、勿論解釈は人それぞれだが、主人公のスケールの大きさが資本主義に勝利したようにも見ることができる。

 プライドを持ちつつも、ふっとそのプライドの価値に思いを馳せ、新たなプライドを手に入れる。

 敗北のようにも見えるが、実際はこれはこれで格好が良い。

 不器用が一周して器用になる。

 器用さが不器用に裏打ちされているというこの奥深さには涙を禁じ得なかった。

 私は「生き方」というものを本当に大事にしている。

 なんとなく生きたくはない。なんとなく生きていては、沢山の面白いことを取りこぼす。死ぬまでの間をなるべく面白いことで埋めたい。

 学生時代はお笑い芸人かミュージシャンになりたかった。

 が、結果は食えてはいないまでも作家になった。

 作家になりたいと思ったことは一度もなかったのだが。

 お笑い芸人とミュージシャンの知人友人は比較的多い。 ラバーガールの大水さんにこの日記のことを伝えたら読んでくれたようで「お体気をつけてください」とメール頂いた。

 ラバーガールは凄く面白いので大好きです。

 クラブハウスは野良オタクや、編集者、漫画家など喋ることが主な活動ではない専門職の方々がルームを立てる傾向があり楽しい。このままこういう方向に行くなら、ツイキャスやYouTubelive、ニコ生と違った「専門職の自主ラジオ」として期待できる。

 ここ数日、寒さのせいかあまりメンタルヘルスが芳しくない。

 どうしたものかと思っているが、家族とは楽しく交流できているので、あまり気にしないようにする。    

 ぼちぼち次の仕事に手を付ける。

#フォードVSフェラーリ #竜二 #ラバーガール #うつ

2021年2月10日(水)

 日記を書き始めてから一週間が早く感じる。

 なぜなのだろう。日記にも締め切りがあるせいだろうか。

 文様作家のApsu Shusei(アプスー・シューセイ)くんと朝にLINE。

 互いに音楽のオススメをし合う仲だ。

 アプスーくんは早起きなので、出勤前にLINEをしてもすぐに返事がくる。

 だいたいそんな時、私は自室でコーヒーとタバコを決めている。

 アプスーくんとのやり取りは通り一遍ではなく刺激的だ。何気ない交流でも、よし私も頑張ろうと思わせてくれる。面白い人が好きです。

 躁鬱と繰り返すごと冴返る

 積年の思ひも流れ春立ちぬ

 いってきますただいまおかえり草青む

                      公太

 弘前れんが倉庫美術館で現在開催中の企画展「小沢剛 オールリターンー百年たったら帰っておいで 百年たてばその意味わかる」はとんでもなく凄い。何から何まで盤石の展示。脱領域を体現したアートでした。

 「オールリターン」ざっと言うと小沢さんの「帰ってきた」シリーズ総括+「帰ってきたS・T」という展示なのだが、これはあくまでざっと言った話で、もっと複雑。S・T=寺山修司とイランとの関わりでインスタレーションが立ち、それにまとわりつくようにジョン・レノン、岡倉天心ら過去に「帰ってきた」人たちの展示が紹介される。

 さらにれんが倉庫という場も絡みサイト・スペシフィックな様相が繰り広げられると、もうその情報量たるや。

 寺山修司マニアはマスクと手洗いうがいでどうぞ弘前へ。

 弘前れんが倉庫美術館は黒壁の展示室(ブラック・キューブ)がある点で、希少価値が高い。ここでしか味わえない感覚がある。

 ブラック・キューブに入ると、なぜかジントニックかコーヒーを飲みたくなるのはバーやクラブを彷彿とさせるからだろうか。

 弘前の生活は性に合っている。

 石坂洋次郎をはじめとする偉大な先達の足取りを感じながら、山を見て桜を見て、旧知の人と笑い合う。

 家族で温泉に行くのも楽しい。

 たったそれだけ(とNetflix)で良い。

 たったそれだけ(とNetflix)で幸せなのだ。

 アーチー・シェップをヘビロテ。

#ApsuShusei #弘前れんが倉庫美術館 #小沢剛 #人生

2021年2月11日(木)

 住倉カオスとクラブハウスで「怪談作家がNetflixでオススメ番組を語り合うからどなたでも参加してのテスト」というルームを立てる。

 すごくホラー映画に詳しい方とすごく犯罪ドキュメンタリーに詳しい方とApsu Shuseiくんがルームに入り、とても盛り上がった。マイリストが充実。

 住倉は公の場に出ると、急に私に対して塩対応になる。

 恐らく、関係をバレたくないのだろう。

 しかし、そんな風に扱われても、私の気持ちは止まらないのだ。

 出先で作家業の仕事を打診される。

 タイミング的なものなのだろうが、明らかにうつで心療内科に行って以降、作家の仕事が増えている。何の力が働いているんだろうか。ちょっと怖い。

 作家、作家と自称しているが、いつも「そんなには作家ではないんだけどな」という思いがある。

 作家とはもっと、四六時中何かを書いていて、書くことに躊躇がなく、文章のなんたるかを知っている存在だというイメージが私にはある。

 一方私は基本的に書くのは面倒だと思っている。

 ならば辞めますか、と言われると「いや稿料が」と狼狽する程度の小さな存在だ。

 だいたい東野圭吾さんが「作家」で、私も「作家」であるわけがないだろう。どちらかが「作家」ならば、どちらかが「作家ではない」にならないと話に整合性がないのではないか。

 とはいえ、私もいくらかは作家である。作家であることから逃げられない。私は作家ではない、と言い出したらそれは責任逃れだ。

 本屋に入り平積みになったベストセラーを見遣り、ああ私の書いた文章はこれと戦ってるんだな、と思う。

 いや、戦ってるんですよね?

 戦っていないんですかね?

#クラブハウス #ApsuShusei #作家

2021年2月12日(金)

 私は人と人とのコミュニケーションを遠くから眺めるのが好きだ。

 悪趣味と思われるかもしれないが、特に揉め事が好きである。

 揉め事にはドラマがある。

 登場人物には固有の属性があり、揉め事には伏線もある。

 遠くから眺望しないと見えない線があるのだが、当事者は分からない。

 揉め事はだいたいとても空虚な結末を迎える。

 その空虚さに感動する。

 私には理解できない善意や悪意が錯綜し、そこに人の狂気がまぶされる。

 そして揉め事の最中にいる者は誰もが一生懸命だ。

 揉め事には嘘がない。

 誰もが感情を剥き出しだ。

 もし感情を偽れるものがいるなら、揉め事など起こらないのだ。

 最後に勝つのは誰だろうか、と固唾を呑んで見守っていると、だいたいは一番の馬鹿が勝つ。

 馬鹿には「敗北」という概念がない。

 これが強さの秘訣だ。

 善悪を超越し、最後にへらへらと笑っているのは常に馬鹿だ。

 この馬鹿は生きている間、次から次へと残酷な物語を生み出すので、ついつい期待してしまう。

 この醜悪な映画の監督は神だ。

 カメラはあなたに向いている。

 青森はやっと本格的な雪解けのフェーズに入る。

 妻と玄関先でタバコ吸いながら「ああーこの感じって春っぽいね」と、喜びを分かち合った。

#人生 #弘前 #愛妻家

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書いた人

高田公太(たかだ・こうた)

青森県弘前市出身、在住。O型。実話怪談「恐怖箱」シリーズの執筆メンバーで、本業は新聞記者。主な著作に『恐怖箱 青森乃怪』『恐怖箱 怪談恐山』、『東北巡礼 怪の細道』(共著/高野真)、加藤一、神沼三平太、ねこや堂との共著で100話の怪を綴る「恐怖箱 百式」シリーズがある。Twitterアカウント @kotatakada 新刊『青森怪談 弘前乃怪』2/27発売!

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