新黄泉がたり黄泉つぎ

「学生寮」高田公太

その学生寮にはどんなに部屋が埋まっていても希望者を入居させない、開かずの部屋が一つある。

なぜ誰も入居させないのか。

その理由は歴然としている。
そこでかつて自殺した学生がいるからだ。
古い造りではあるが、利便の良い場所に位置するため以前より人気の寮である。
入ってくる学生たちが、その部屋のことを先輩から後輩へと連綿と語り継いでいくため、いつまでたっても事故物件扱いせざるをえないのだ。
何かあったら、困る。
そんな大家の考えがあるのだろう。
その寮にかつて住んでいた小谷くんから聞いた話によると、どうも実際に〈何かある〉とのことで……。

寮には門がある。
まず鉄製の門を開けて、ちょっとした庭を抜けると玄関に行き着く。
ちょうど門から見上げて二階の左側にある窓が開かずの間の窓だ。
夜間に寮へ戻ると、時折、開かずの間の照明がついていることがある。
白いカーテンが室内の光で煌々と照らされているのだ。
もちろん開かずの間の鍵は閉まっているため、寮に入って室内を確認することはできない。
どうなっているんだろう、と寮内外をウロウロしている間に照明は消えてしまうので、探るのはまったくの不毛だ。
中に人がいる気配を感じる、と口にする者もいるが、中に入れないので確かめようもない。

不思議と「部屋の中から物音がする」といった類の噂が一つもない。

同じ寮に住んでいた後輩が、開かずの間の窓が開いているのを外から見た、という。
室内は暗くてよく見えなかったが、少しだけ本棚が見えた、とのことだった。

年末が近づくと寮の大掃除が行われる。
その日は、大家の手により、いとも簡単に開かずの間のドアが開かれる。
その折に小谷くんが室内を覗くと、中には何ひとつ置かれておらず、照明すらぶら下がっていなかった。
窓もドアも開け放したまま、大家が畳に掃除機をかける様を見ると、開かずの間もへったくれもないな、と拍子抜けする

とはいっても、やはり夜間にその部屋の明かりがついていることは、ままあったのだそうだ。

★次回は川奈まり子さんです。どうぞお楽しみに!

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