新黄泉がたり黄泉つぎ

「異臭」営業のK

 これは知人から聞いた話。
 彼女が高校生の頃にあった出来事である。

 その頃、彼女の家の固定電話に妙な電話がかかってくるようになったそうだ。
 時間帯こそバラバラではあったが、毎日必ず二~三回、ちょうど家族が揃っている朝や夕飯時にかかってくる。
 しかし、いざ電話に出ても相手は何も喋らない。こちらが何度、
「もしもし……どちら様ですか?」
 と問いかけても、一向に返事がなかった。
 ただ不思議なことに、その電話に出るときまって受話器から果実が腐ったような甘い匂いがしたのだという。
 あまりに頻繁にかかってくる電話に、父親は電話機を相手の電話番号が表示される機種に買い替えた。

 買い替えてしばらく。
 満を持してかかってきた電話番号を見ると、それは彼女の兄が住むアパートの電話番号だった。
 その頃、彼女の兄は大学へ通うために、東京のアパートで独り暮らしをしていた。
 相変わらず電話に出ても無言で、いったん切ってから兄に電話をするが、今度は何度かけても電話には出ない。
 嫌な予感がした父親は、仕事の出張を利用して兄のアパートに寄った。
 盆暮れには帰省してくるので、こちらから東京に赴くことはなかったが、どうにも胸騒ぎがしたらしい。
 呼び鈴を鳴らす。返事が無い。
 父親は大家さんに頼んで、兄が帰るまで部屋の中で待たせてもらうことにした。

 大家さんが部屋のドアを開けた時、父親ははっとした。
 いつも、あの電話から香ってくる匂い。
 甘い果実が腐ったような匂いが鼻をついた。

 慌てて救急車を呼んだが、兄は既に死亡していたという。
 自殺だった。

 悲しみの中、葬儀が執り行われたそうだが、その後二度とあの電話がかかってくることはなかったそうだ。
 どうして電話の受話器を通して、兄の遺体の腐乱臭が匂ってきたのか……。
 それは今でも分からないのだという。

★次回は小田イ輔さんです。どうぞお楽しみに!

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