新黄泉がたり黄泉つぎ

「カズヒト君の家」斉木京

 N君は接客業をしているので年末年始は休みが取れない。だからいつも他人よりも少し遅れて帰省する。

 その年も一月の中旬頃にやっと帰れた。

 ただ旧友達はすでに仕事が始まっているのでなかなか会えない。実家では特にやる事もなく、酒を飲みながらテレビを何となく見るだけだ。
 夜中、缶ビールが切れたので近くのコンビニに買いに出た。
 歩道をとぼとぼと歩き、ある家の前まで来た時ふと立ち止まった。そこは中学校まで友人だったカズヒト君(仮名)の家だった。懐かしい記憶がよみがえる。昔よく遊びに来た。かつては一緒にゲームに興じたものだった。
 ただ、カズヒト君は中学二年の時にいじめに遭って不登校になった。N君は心配だったので、何度かここを訪ねた。その度に窶れたお母さんが出てきたが結局彼には会えずじまいだった。
 N君はその後、県外の高校に進学したので彼の事は久しく忘れていた。今、どうしているだろうか。N君は彼の部屋がある二階を見上げた。窓にカーテンは掛かっておらず、街灯に照らされている。
 しばらく見ていると窓の隅に妙なものがある事に気がついた。白くてすべすべした質感の何か。やがてN君はそれが何であるか悟って息を飲んだ。
 上半身裸の男性だった。身体と顔を少しだけ覗かせて外を見ている。
 一瞬で酔いが醒めて、N君は自宅へと逃げ帰った。

 翌日の昼間にN君は再びカズヒト君の家の近くまで行った。冬の陽に照らされた二階の窓を見上げると、あの男性の姿は跡形もなかった。
 昨晩は酔っていたし見間違いかも知れない。
 家に帰ると母にあの家について、それとなく聞いた。

「カズヒト君はね、あんたが就職した後に亡くなったんだよ。部屋で首を吊ってたって」

 N君はショックを受けた。
 ただ、それならば自分が昨夜見たのは何だったのか。

「それからカズヒト君のお母さん、精神的におかしくなっちゃってね、何だか分からないけど裸のマネキンをカズヒト君の部屋の窓際に立たせて、夜な夜な動かすようになったんだよ」

 なるほど、昨晩見た物の正体は判明した。痛ましい事だが、精神を病んだ母親が息子に見立てたマネキンを窓際に立たせるという奇行を繰り返していたというのだ。

「あ、でもね、去年の夏頃にお母さんも亡くなったから今は空き家になってるよ」

 N君は絶句した。

 数年経った今も、あの夜に見たものが何だったのかは不明だ。
 カズヒト君の家は現在は取り壊され、売地になっているという。

★次回は吉田悠軌さんです。どうぞお楽しみに!

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