新黄泉がたり黄泉つぎ

「購買部の閉鎖」小田イ輔

 現在三十八歳のAさんが小学生だった頃の話。

 彼女の通っていた小学校には購買部があった。
「ノートとか鉛筆、消しゴム、あとは名札や紅白帽、他にも学校生活で必要なものを色々と扱っていたな。え? ああ、食品なんかは置いてないの、そうそう、文具中心で」
 それは六年生各クラスから選出された数人の生徒からなる購買委員会によって運営されており、商品やお金の管理も生徒たち自身で行っていたとのこと。
「もちろん毎回その日の売り上げや在庫の数を報告する義務はあったよ。仕入れも先生に相談した上でだったけど、実際に店先に立って販売を担当するのは生徒だったから、本格的なお店屋さんごっこみたいで楽しいんだよね」
 購買部専用に作られた小部屋、毎日昼休みにだけ開かれるその店は、低学年から高学年まで様々な生徒が利用した、しかし――。
「小学校の購買だし、生徒しか利用しないわけだから、私たちもそのつもりで運営していたんだけど……」
 ある日、見知らぬ大人が店先に立った。
「それがね、どんな人なのか記憶にないんだ。ただ妙に言葉が通じ難くて、どうしたらいいのかわからなくなって……」
 何か察したのか、Aさんと二人で販売を担当していた女生徒が「先生呼んで来る」と駆けだすのを尻目に、彼女は一人、その大人と対峙した。
「あの時、なにがあったんだろう、なにか喋ったような気もするんだけど……」
 やがて先生がやって来たが、Aさんは状況を上手く説明できなかった。
「いつの間にか大人の人はいなくなっていて……それで……先生を呼んで来た娘が変なことを言って……」
 女生徒はAさんの言い分に首を傾げ、自分はAさんの様子が明らかにおかしかったために職員室へ走ったのだと語った。
「そしたら先生が『もう出ないかと思ってたんだけど悪かったな』って、私に謝ったの。お金の管理とかすごく厳しくて怖い先生だったから、小学生の私に頭まで下げたのが意外で……それはよく覚えてる」
 それからほどなくして、購買は閉鎖された。
「何故なのか理由は分からないんだけれど……ただ中学に上がって、何の気なしにその話をした際に、同じ小学校出身で購買部だった先輩が、先生に強く言いつけられていたって言うのね『大人が来たらすぐに先生に知らせること』って……私の時にはそんな申し送りなかったのに……」
 すると、Aさんが体験する以前から「大人」が購買部にやってくることがあったということだろうか? 
「私にもわからないよ、先生に訊いてもハッキリしたところは教えてくれなかったから……ただ『もう出ないかと思ってた』って言いぐさは今も気になるんだよね『来る』じゃなくて『出る』って何だよって……それに……」
 閉鎖された購買部の小部屋には、それからAさんが卒業するまでの間、神社から貰ってきたらしき大きなお札が掲げられていたという。

★次回は加藤一さんです。どうぞお楽しみに!

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