新黄泉がたり黄泉つぎ

「訪問者」営業のK

 これは知人女性から聞いた話。

 これは知人女性から聞いた話。
 彼女は金沢市郊外の一戸建ての家に住んでいるが、それまでも玄関のチャイムを押して逃げていくという古典的な悪戯が横行していたようだ。
 だから、玄関のインターホンが壊れた時に、新しく取り付けるならば、モニター付きのインターホンにしようと思ったらしい。
 インターネットで色々と調べてみると、自分でも簡単に取り付けができるようなものが売られていた。値段もそれほど高くない。
 彼女は迷うことなくネットショッピングで一番安価なモニター付きインターホンを注文した。

 ほどなくして商品が届き、早速取り付けにかかる。
 たしかにネットの謳い文句通り、素人でも楽々取り付けることができた。
 彼女が購入したのはもっとも低価格なタイプだったが、それでも自動録画機能や訪問者と直接会話できる機能もついており、機能としては十分だった。

 それから数日間使用してみたが、これがなかなか楽しい。
 彼女は昼間は正社員として働いており、家には誰もいないのだが、帰宅してモニターをチェックすると、インターホンを押した訪問者の顔が自動で録画されていた。
 それは、近所の人だったり、友達だったり、セールスだったりと様々だったが、自分が不在の時にどんな人たちが家を訪れているのかが良く分かり、とても役に立ったという。

 しかし、どうやら録画されるのは、普通の人間だけではなかったらしい。

 その時も、突然、玄関のチャイムが鳴らされたという。
 急いで監視モニターを見ると、確かに誰かが玄関の前に立っている。
 ただ、黒い影のようになっていて、いつものようにははっきりと顔が見えない。
「どちら様ですか?」
 インターホンごしに問いかけてみたが、返事もない。
 彼女は玄関まで行って、もう一度ドア越しに声を掛けた。
 が、やはり何の反応も無かった。
(おかしいな……)
 今度は恐る恐る玄関の鍵を開け、ドアを細く開けてみる。
 しかし、やっぱりそこには誰の姿もなかったという。

 彼女は首をかしげながら再びドアを閉めて鍵をかけた。
 そのままリビングに戻ろうとした時、足元にある不可思議な存在に気が付いた。
 
 見たことも無い靴が、玄関にぴちっと揃えて置いてある。
 まるでそう……来客でも来ているかのように。

 誰の物かもわからない、全く見覚えのない革靴が玄関に置かれているのを見て、彼女は最初、夫が自分で買ってきたものかもしれない、と思ったそうだ。
 しかし、夫は、穴が開いたり破れたりしていても平気でそのまま同じ靴を履き続けるタイプの人間だ。何よりその革靴というのは高級そうではあったが、どこかデ古くさいデザインで、おまけにかなり使い古されているように見えたという。
 なんとなく嫌な予感がした彼女は、急いで夫に電話すると、何とか都合をつけて帰ってきてほしいと頼み、そのまま玄関の外で夫の帰りを待つことにした。

 数十分後、夫が仕事の途中で自宅に戻ってきてくれたのを待って、二人で一緒に玄関へと入った。
 だが、その時には既に、あの革靴はなくなっていたという。

 寝ぼけてたんじゃないの? という夫に、彼女はそこまでボーっとしていないと反論した。現に革靴が置かれているのを何度も確認しており、決して見間違いなどではないと確信をもって言える。

 ちょうどその日の夜、彼女の叔父が亡くなったという訃報が届いた。
(もしかして……叔父が?)
 そう思って何度も録画された画像を確認したが、どう見ても叔父の顔には見えなかったそうだ。

 ちなみにその後、件の画像を気持ち悪く思った彼女が何度もその画像を消去しようとしたが、何故かその画像だけはどうやっても消去できないままなのだという。

★次回は春南灯さんです。どうぞお楽しみに!

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