山形県高畠町には「おっかな橋」という奇妙な名前の橋があります。
この橋には、以下のような怪しくも悲しい謂れが残っているのです。
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その昔、弥三郎という男が妻子と母を残して武者修業へ出かけた。
ところが妻子は弥三郎の留守中に悪病で死去。残された母は悲しみのあまり鬼女に変化してしまう。
それから数年後、弥三郎が武者修業を終えて郷里へ戻る道すがら、橋のたもとで狼の群れに襲われた。
見れば、狼たちを操っているのは白髪を振り乱した鬼女である。
すかさず弥三郎が鬼女へ一太刀浴びせると、狼の群れはちりぢりに逃げ、鬼女も右腕を残し姿を消してしまった。
驚きつつも、弥三郎は鬼女の腕を抱えて我が家への道を急いだ。
ところが帰宅してみると、我が家はひどく荒れ果てており、奥の部屋からは唸り声が聞こえているではないか。
襖を開けた先では母が臥せっており、妻子の死を泣きながら告げてきた。
弥三郎も涙を流して長らくの不在を詫び、いましがたの出来事を知らせて右腕を見せた。
すると次の瞬間、母はたちまち鬼女と化し、右腕を奪うと天高く飛び去ってしまったのである。
寂しさに耐えきれず、乱心のすえ鬼になってしまうとは──母を哀れんだ弥三郎は、屋敷内に堂を作って供養した。
堂に祀られた鬼女は、のちに「妙多羅天」と呼ばれるようになり、堂も「妙多羅天堂」と呼ばれるようになった。
現在、妙多羅天は悪霊退散や疫病除け、縁結びなどの神として崇敬を集めている。
また、弥三郎が襲われた橋はいつしか「おっかな橋」と呼ばれるようになった。
恐ろしい目に遭ったので「おっかな」の名がついたとの説や「追いかねた」ことが由来との説がある。
弥三郎の母は新潟の弥彦山に逃げたのち、己の罪を悔いて善行をなしたという。
そのため、弥彦山では現在も妙多羅天が広く人々に崇められているそうだ……。
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悲しくも恐ろしい妙多羅天。その姿を刷った厄除けのお札を今回ご用意いたしました。
こちらは、お堂を昭和16年から管理している同地区の明学院さんよりお譲りいただいたものです。
戦前にお堂を管理していた寺に妙多羅天の版木が残っており、それを新たに刷ったのだそうです。
悪霊を追いはらい、疫病を退ける鬼女。ぜひご自宅に貼って、一年の安寧を祈願してください。
このお札が〈怪しく楽しい山形〉を知るよすがとなれば、とても嬉しく思います。