マンスリーコンテスト 2018年6月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2018年6月結果発表

最恐賞
殉職者舘松 妙
佳作
「とりかえ長男」閼伽井尻
「焼失」ツカサ
「水神の社」」籠 三蔵

「殉職者」舘松 妙

 明治時代、京都の某巨大水利事業、仮にB事業は日本人のみで完成されたことで意義深い近代化遺産だが、それゆえに払った犠牲、特に人的なものは大きかった。
 中でも完成当時日本最長であった第1トンネルは、竪坑(シャフト)を使って掘削されたトンネルとしては、鉱山を除けば日本初であったが、想像を絶する難工事であった。過酷な重労働、出水事故などにより工事は難航した。さらにポンプ主任の自殺を発端として事故などで殉職者が多発した。病死者や下請けを含めない人数で17人を数えた。現在××舟溜と呼ばれる施設横の公園に、B事業殉職者のための慰霊碑が建てられている。
 知人に城山さんという壮年の男性がいた。若かりし頃はラグビーで鍛えたという仔牛のようなビジュアルだが、見た目からは想像できないほど繊細かつ心優しい教養人だった。
 その城山さんが愛してやまぬ史跡こそがB事業であった。碩学は他にいてもこれほど「愛」を注いでいたという意味では城山さん以上の人は滅多にいないと思う。
 3年前、城山さん引率の史跡ウォークに私も参加した。××舟溜で明治の技術力に感嘆する私達に、城山さんは「皆さんにはこうした史跡以上にもっと知っていただきたい場所があります」と告げ、すぐ近くの公園に移動した。そこには慰霊碑と、質素な雨凌ぎの屋根だけの堂に置かれた石仏があった。城山さんは涙を浮かべながら竪坑工事の難儀を語り、皆に合掌を促した。無論、皆に否はない。各々頭を垂れ合掌した。最後に石仏の前に進み出た城山さんは誰より深く長く 垂れている。感無量で見ていたその時である。石仏から城山さんに向かって無数の手が伸びていた。恐怖で硬直した。しかしどうやら私の気のせいらしく、皆はお喋りに興じている。少しでも石仏から離れたくて裏側に回った。すると今度は無数の顔面がボコボコ石肌から沸いているように見えた。吐き気を覚えた。しかし、それよりも城山さんをここから引き剥がしたい一心で、「さあさあ次どこでしたっけ」と無礼にも声を掛けた。すると城山さんは私をチラッと見たが「もう少し待ってて」と拝み続けた。
 後で特に怪異は起きていない。
 ただ事実としてその日私は体調を崩してしまい夜から寝込んだ。そして2か月後に城山さんに突然進行性の癌が見つかり、手術と治療の甲斐なく1年足らずで亡くなられた。

総評コメント

第3回のお題は、「京都」に纏わる怖い話。ご当地もの怪談は地元に方のみならず、他県に住んでいる者にとっても興味深いものであります。中でも京都は修学旅行等で訪れたことがあるという方も多いでしょうし、馴染みある場所ではないでしょうか。伏見稲荷大社、平安神宮、羅城門跡、貴船神社、D大学学生寮、御霊神社、清滝トンネル、渡月橋…等々、様々な有名スポットでの怪奇現象・恐怖体験が集まりました。全体としては神仏の不思議な力を感じさせる話が多く、まさに「恐れ」より「畏れ」の怪談。最恐賞はその中にあって比較的恐怖色が強く、印象が際立ちました。佳作の三作はそれぞれ怪異だけではなく、体験者に肉薄して恐怖を描き出していた点が良かったと思います。やはり恐怖や畏敬を感じるのは人の心ですので、人間を生々しく描いてこそ怪異も真に迫ってくるものになるのではないでしょうか。ただ、怖い怪談と不思議な怪談、どちらがよいということはありません。今後も心に残る実話怪談をお待ちしております。

現在募集中のコンテスト

【第78回・募集概要】
お題:信仰に纏わる怖い話

締切 2024年12月31日24時
結果発表 2025年01月20日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp

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お題:信仰に纏わる怖い話

締切 2024年12月31日24時
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優秀賞 3名
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フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

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