竹書房怪談文庫TOPマンスリーコンテスト2018年8月結果発表
マンスリーコンテスト 2018年8月結果発表
怪談マンスリーコンテスト
ー 怪談最恐戦投稿部門 ー
2018年8月結果発表
- 最恐賞
- 「愛恨」ツカサ
- 佳作
-
「ねこじい」春南 灯
「猫靴」閼伽井尻
「湖畔にて」T・K
「愛恨」ツカサ
今から数年前、香織さんは家族を日本に残し中国に単身赴任していた。
香織さんは四十代半ばだが、華奢で可憐な彼女は実年齢より随分若く見える。そのせいか、中国では多くの男性からアプローチを受けた。
「旦那に不満があったとかじゃないんだけど」
既婚者であることを隠し、何人かの男性と関係を持ってしまった。
浮気がバレて軟禁されたり、香織さんを巡り男性同士が流血沙汰の喧嘩をしたりといったトラブルもあったが、香織さんいわく、彼らとは「ライトな関係」だったそうだ。
そんな風に毎日を軽やかに過ごしていたある日。
自宅マンションのリビングで仕事をしていた香織さんがふと顔を上げると、外に女がいるのに気が付いた。
女は大の字のように手足を大きく広げ窓にべったりと貼り付き、何かを探すように目だけをギョロギョロと動かしている。
そして目が合った瞬間、女はその体勢のままずるずると下がって行った。
香織さんの部屋は八階。ベランダや足場になるような物はない。恐る恐る窓を開けて外を見たが、女の姿はどこにもなかった。
翌日、そのことを職場で話したところ、同僚から思いがけないことを言われた。
それは猫鬼のせいだ、と。
猫鬼とは猫の霊を使って憎い相手に呪いをかける、古代中国の呪術だ。
数匹の猫を狭い檻に閉じ込め殺し合いをさせ、生き残った一匹を猫鬼として使役するという方法が広く知られている。現代ではかなり簡略化されていて、猫を殺すなどという残酷なことをせずとも、呪いをかけられるという。
猫鬼に憑かれた人は猫のような顔になるそうだ。実は、香織さんの顔が時々猫に見えると職場で噂になっていた。
同僚は香織さんの部屋に現れた女の話を聞き、全ては猫鬼の仕業だと確信したようだ。猫鬼を使って部屋の中を覗いていたのだ、と。
「心当たりならたくさん……でも何となく彼だろうなって」
交際相手の一人に猫好きの男性がいた。激しく束縛する人で、香織さんを独占したいという気持ちの表れなのか、飼い猫にカオリと名付けていた。彼ならやりかねない。
だが、帰国すれば彼からも呪いからも解放されるだろうと軽く考えていた。
やがて任期を終えた香織さんは彼と連絡を絶ち、逃げるように日本へ戻った。
帰国した香織さんを待っていたのはご主人とお子さん、それから、一匹の猫だった。香織さん不在の寂しさを埋めるためにご主人が貰ってきたそうだ。
猫の名前はカオリ。
「ねぇ、私を恨んでるの、どっちだと思う?」
総評コメント
第5回のお題は「猫」に纏わる怖い話。猫に祟られる話、猫に助けられる話など様々な猫怪談が寄せられましたが、中でも猫を殺したことが発端となる祟り話が多く見受けられました。具体的な怪異現象においても似ている話が散見され、こうした類話の多さは実話の観点からすると非常に興味深いことでもあります。最恐賞は、蠱毒のような猫を媒体とした呪いの話。因果関係こそはっきりしませんが、色々な想像の余地を残すことで複雑な恐怖へと繋げている作品でした。やはり人間の心の闇が絡む怪談は恐ろしい。佳作の「ねこじい」は臨終の祖父が飼い猫の身体を借りて命を繋ぐ話、「猫靴」はお気に入りの靴からなぜか猫の泣き声がする話、「湖畔にて」は猫が人の姿に化けていた話で、いずれも不思議系の話となりました。祟り系、恩返し系が多いなかで、一風変わった話が光っていたように思います。
今回、気になったのは因果関係を主観で断定してしまうケースです。「過去に猫を殺した事」と「現在、不幸に見舞われている事」を書き手が安易に「恐怖、猫の祟り!」と言い切ってしまうと、実話怪談としては逆に白けてしまいます。断定でなく、推測を書く分にはよいのですが、むしろ前後の事実のみを淡々と書き、あとは読者の想像と判断に委ねるほうが実話としての恐怖感は増すのではないでしょうか。
さて、次回は「骨董品に纏わる怖い話」。古い物に宿る怪、遺品なども絡んでくるでしょうか。皆さまのご投稿、お待ちしております。
現在募集中のコンテスト
【第78回・募集概要】
お題:信仰に纏わる怖い話
締切 | 2024年12月31日24時 | |
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結果発表 | 2025年01月20日 | |
最恐賞 | 1名 Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス |
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優秀賞 | 3名 竹書房怪談文庫新刊3冊セット |
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応募方法 | 下記「応募フォーム」にて受け付けます。 フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム | お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp |