マンスリーコンテスト 2018年10月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2018年10月結果発表

最恐賞
ふうらい牡丹
佳作
「登山の思い出」鈴木 捧
「前世」舘松 妙
「何かが山から」松本エムザ

「骨」ふうらい牡丹

 子供の頃、夏休みに田舎の祖父母の家に帰省するのが待ち遠しかった。
 一人っ子の私にとって、同年代の従弟や親戚の子供たちと過ごせる日々が楽しみだったのである。中でも皆で近くの川に遊びに行くのが好きだった。そこは水が透明で魚も多く、一日中過ごしても飽きない場所だった。

 小学五年生の夏のことである。その日も昼から川遊びをしていた。河原で遊ぶ皆から離れ、対岸の淀みを一人で泳いでいたとき、川底で何かの動物の骨を見つけた。鈍く白く光っているようなその骨は、猪だか犬だかの頭の骨だったと思う。とにかく大きく見えた。
 潜れない深さではない。ただ、初めて目にするその白い頭骨の存在に畏れを抱き、潜って近寄ることはせずに表層から暫く見入っていた。水面から出た自分の背に強い陽射しを感じてふと顔を上げると、対岸の河原で遊ぶ子供らの姿が遠く見え、すぐに皆のもとへ泳いで向かった。
 骨のことは誰にも言わなかった。
 その日の夜は、あの骨の動物はいつどこで死んで、骨になったのだろうという思いが頭に浮かび続けて、中々寝つけなかった。

 翌年の夏、川に着いてすぐその骨のあった淀みへ泳いだ。記憶と同じ場所に変わらずその骨は沈んでいた。しかしあのとき目についた白さはなくなり、苔に覆われ、周りの石との境も曖昧になっていた。昨年の記憶がなければそこに骨があると認識できなかっただろう。
 では、昨年見たときはまだ死んで間もなかったのか――。
 泳ぎながらそんなことを思い、ふと今度は川底まで潜ってその頭骨に指先で触れた。一瞬だったが川底の石よりも触り心地は良かったように思う。

 この次の年、中学生になってからは、夏に祖父母の家に行くこともなくなり、そこで遊んだ親戚の子たちと会う機会もなくなってしまった。が、最近久々にそこで遊んでいた従弟と会う機会があり、なんとなしにその骨の話をすると、「あの猪の骨かあ」と言う。
 なぜ知ってるのかと尋ねた私を訝しみ、彼は話を続けた。
 曰く、最初の夏、対岸から青ざめた表情で泳いできた私から骨の話を聞いた彼はすぐにそれを拾いに行き、河原で得意げに皆に見せたらしい。もちろん私にも。
「そんでさ、なんでこのこと覚えてるかって、その次の年にお前があの淀みで溺れかけてさ、それ見て、ああ、こうやってあの去年の骨みたいになるんだなって思ったからなんだよね」
 冗談っぽく話す彼の顔を見ながら、溺れたことも覚えていない自分の記憶が、朽ちていくように感じた。

総評コメント

 10月のお題は「山・川」に纏わる怖い話。投稿数は山のほうが多かったですが、どちらも勝るとも劣らず良作が出揃いました。最恐賞は川に纏わる奇譚「骨」。瑞々しい表現と、ノスタルジックな夏の思い出からうっすらと漂う不気味さが強い印象を残しました。佳作は山の展望台の望遠鏡から見えたある怪奇「登山の思い出」、夢に出てくる山の城跡に纏わる奇譚「前世」、課外授業の山登りを引率する拝み屋さんの話「何かが山から」の3作。いずれも文章力とネタの面白さ両方が揃っており、完成度が高かったと思います。話(怪異)は面白いのだけれど、それを伝える文章力、表現力があと一歩という作品が多く、もったいない!と思うことが多々あります。出来事を羅列するのではなく、どう見せたら(聞かせたら)より恐さが伝わるか、それが怪談書きの腕の見せ所です。一文が長すぎる人は特に注意してみてください。
 さて、次回は「夢に纏わる怖い話」。11/24の怪談冬フェスでの表彰(怪談最恐戦2018~投稿部門)は、今回までの大賞作から選ばれますが、次回以降の大賞作は来年のイベント表彰の対象となります。2019年の最恐王者を目指し、まずは月の王から挑戦していっていただければ幸いです。今後も皆様の投稿を心よりお待ちしております!

現在募集中のコンテスト

【第76回・募集概要】
お題:運動会・体育祭に纏わる怖い話

締切 2024年10月31日24時
結果発表 2024年11月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

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