マンスリーコンテスト 2019年3月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2019年3月結果発表

最恐賞
血の契り音隣宗二
佳作
「オムカエ」春南灯
「飛蚊症」ふうらい牡丹
「途切れないオンナ」松本エムザ

「血の契り」音隣宗二

 Sさんの手のひらには、一文字の傷がある。
 中学生ころ、SさんにはRとTという親友がいた。河川敷でひたすら話したり、廃墟に潜り込んで、家からくすねた酒や、タバコをやっていた。悪ぶりたい年頃だったのだ。ある日、Sさんはテレビ放送のマフィア映画で「血の契り」という描写を見た。義兄弟になるべく、手のひらにナイフで傷を入れ握手をして互いの血を交換する――というものだった。
「カッコイイ」悪ぶっていたSさんはそう思った。
 次の日、RとTに映画の話をすると二人も見たらしく、やってみようという話になった。
 放課後、よく潜り込んでいる廃墟に集合した。調達したナイフで、Sさんは手のひらに傷を入れる。思ったより血が出て驚いたが、後には引けない。RとTもそれに倣い、それぞれが二人としっかり握手をした。出来たての傷がジンジンと痛んだが、「これで俺たちは義兄弟だ!」と盛り上がったらしい。
 しかし、中学を卒業後は皆が違う高校に進学し、三人で会える機会は減っていった。大学の頃にはすっかり疎遠となり、痕は残ったが傷はすっかり塞がっていた。

 それから数年後、Sさんは社会人となり忙しい日々を送っていた。その日、打ち合わせからの帰りに喫茶店で休憩していると、持っていたマグカップに血がべったり付いていることに気がついた。手のひらを見ると、あの時の傷が大きく開いている。
「十年以上前の傷なのに……」
 その矢先、実家の母から着信があった。Rが交通事故で重傷を負い病院に運ばれたという連絡だった。

 数日後、Sさんは地元に戻り、Rさんの葬式に出席していた。
「Sか?」
 声をかけられて振り向くと立っていたのはTだった。懐かしさがこみ上げ近づくと、彼の手には包帯が巻かれていた。TもSさんの手の包帯に気づいたようだった。まさかとは思いつつ確かめると、Tの傷から出血したのもSさんと同時刻。それは丁度、Rが救命に運ばれ、治療をうけていた時だった。
 精進落としの時、Rの仕事の後輩から「先輩は酔うとよく楽しそうに中学の頃の親友二人の話をしてました。」と教えられた。

 傷は今でも時々開く。だが、月命日とかでは無いらしく。
「不思議なことに、落ち込んだり、参ったりするときに急に開くんですよ。Tもそうみたいです。Rは発破かけてるつもりかもしれませんけど、服とか物が汚れて、良い迷惑ですよ」
 口ではそう言いつつも、Sさんは笑顔だった。

総評コメント

今回のお題は「傷」に纏わる怖い話。この世ならざるものから悪意のもとにつけられた傷、霊が自らの存在の証として残していった痕など、生々しくも痛み走る怪談が数多く寄せられました。今月の最恐賞はその中では異色とも言える「血の契り」。怪異ではありますが、恐怖より不思議、あたたかみのある読後感が深く印象に残りました。佳作は、震災に纏わる様々な意味での傷痕を思わせる「オムカエ」、子供の頃の過ちと解放を描いた「飛蚊症」、血を使った呪い話「途切れないオンナ」が選ばれました。いずれも怪異に対するストレートな恐怖以上に、人間の心の複雑さ、物心両面からの傷(痛み)を描いている点、実話としてのリアル度、怪談としての新鮮さが一歩抜けていたと思います。その他、最終候補に残った中にも「見えなかった傷」「矢傷」といった力作があり、非常にレベルの高い回となりました。
 次回4月は入学式の春ということで、「学校」がテーマ。小中高から大学・専門学校まで様々な学び舎で起きた怪奇事件、恐ろしい体験談を募集いたします。怪談の王道ともいえるテーマで逆に難しいのではと思いますが、意外な話を聞かせていただけることに期待します。

現在募集中のコンテスト

【第29回・募集概要】
お題:病院に纏わる怖い話

原稿 1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切 2020年09月20日24時
結果発表 2020年09月29日
☆最恐賞 1名
Amazonギフト3000円を贈呈。
※後日、文庫化のチャンスあり。
佳作 3名
ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。
応募方法 下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。 応募フォーム
メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト9月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。 kowabana@takeshobo.co.jp