竹書房怪談文庫TOPマンスリーコンテスト2019年11月結果発表
マンスリーコンテスト 2019年11月結果発表
怪談マンスリーコンテスト
ー 怪談最恐戦投稿部門 ー
2019年11月結果発表
- 最恐賞
- 「ワンピースとおじさん」舘松 妙
- 佳作
-
「裃」アスカ
「風が運んできたもの。」音隣宗二
「渦巻き」井川林檎
「ワンピースとおじさん」舘松 妙
Y子さんが高校に入学したときのこと。
式用のワンピースを街一番の老舗デパートで奮発して買ってもらった。細かなガンクラブチェックの、生地もデザインも一目で上等と判る服。
当日うきうきと式に出たY子さんだが、式後のクラス分けで指定された教室にてどん底の気分を味わうことになる。
なんと自分のものと全く同じワンピースを着用した女子がいたのだ。
Y子さんより背が高く、色白でおとなしそうな女の子。
やがて教室の新クラスメイトたちも「おや?」と気づき始めた。忍び笑いを漏らす者やあからさまに指摘してくる者。Y子さんは「ファッションかぶり」が恥ずかしく腹立たしくてたまらなかったが、対する同じワンピの彼女は平気そうだった。
結局お揃いのワンピースで記念のクラス写真に納まった二人は真逆の表情で写っていた。彼女はニッコリ、Y子さんは……。
「サイアク」
出来上がった写真を一瞥しただけでY子さんはそれをしまい込んだ。
月日は流れ、卒業式の日。その後はクラスが離れていたお揃いの彼女と、ふと目が合った。彼女が駆け寄ってきて言った。
「お互い卒業おめでとう。私たち入学式のワンピースが同じだったこと覚えてる?」
「もちろん! むちゃくちゃ恥ずかしかったわよ。でも貴女は平気そうだったよね」
そうY子さんが返すと、彼女は笑って言った。
「まあそりゃ恥ずかしかったよ。ところで、あのクラス写真の端っこに背中を向けたおじさんが写りこんでいたのに気づいてた?」
「ううん、全然」
「あるときね、そのおじさんが校内で話しかけてきたの。『あなた、入学式でチェックの素敵なワンピースを着ていた子だね。わたしはあのお洋服が好きでねえ。お嬢さんに見とれていたんだよ』って。あのぉ同じ服着た子が同じクラスにいたんですけど、て言ったら『その子は何だか不貞腐れてたから、私はお嬢さんを気に入ったんだよ』て言われたの。羨ましくない?」
「うん、おじさんだったらいいや」
そう笑いあってバイバイした。
数年後、高校の同級生宅を訪れていたY子さんは昔の写真を見せてもらう中で、あの写真を見つけた。しかし、おじさんなど写っていない。件の話を同級生にすると、彼女は表情を曇らせて言った。
「あの子、今行方不明になってるの。いなくなる前に『入学式の服のせいでおじさんに付きまとわれて怖い』って意味不明なことを言ってたらしいわ」
Y子さんは、実家のどこかにあるあの写真を今後も見るまいと思った。
総評コメント
11月のお題は「服に纏わる怖い話」。少し限定されて難しいテーマかと思いましたが、予想以上にたくさんの作品が集まり、また力作ぞろいでした。最恐賞は高校の入学式に着たワンピースに纏わる怪談「ワンピースとおじさん」。昨今、私服の学校が増えていますが、制服だと当たり前の「皆同じ」が私服では複雑な感情を引き起こすこともあり、そこから意外な怪奇へと繋がっていく展開が面白くも不気味であったと思います。佳作には、「裃」「風が運んできたもの。」「渦巻き」の3作を選出。「裃」は曰くつきの品を身に纏った子供に霊が憑依し、ある言葉を発するという話。オチが大変印象的でよく纏まった作品でした。「風が運んできたもの。」は不思議系の目撃談。怖さを追求した話ではありませんが、日常にふと現れる怪の描写が秀逸で、実話怪談らしさが評価されました。「渦巻き」はなぜか妙に惹かれて買ってきたスカートの柄に纏わる怪談。終始不穏な空気が漂う話で、展開的には予想がつくもののしっかりと怖さが出ていました。
今回は良い作品が多く、大変選考に悩みました。最終選考には、「兄」閼伽井尻、「仕付け」春南 灯、「ティーラウンジ」ふうらい牡丹、「ブラックフォーマル」鬼志 仁、「振袖のたもとに」菊池菊千代、「半額スーツ」かご さんぞう、「ケンシロウ」ツカサ、「義母の形見」雪鳴月彦、「黒いコート」想夏、「赤い服を着た同僚」相沢泉見の10作が残りました。
今月の傾向として、霊的なものとは一味違う、奇妙で不気味な話が比較的多く集まりました。説明のつかない居心地の悪さ、答えの得られぬ不安感が、薄ら寒さを誘う怪談。これもまた実話ならではと思います。体験者の方も霊が出てこないし、因果関係がはっきりしないから怪談ではないと思っている場合も多いと思いますが、よくよく話を聞いてみると「それ、怪談だから!」ということもよくある話。「なんか怖い話ない?」以外の切り口から思わぬネタが拾えることもあります。これから忘年会、同窓会など人の集う機会が増えてくるかと思いますので、ぜひ色々なアプローチで取材をしてみてください。
さて、次回はいよいよ令和元年最後の募集になります。テーマは「墓」。年末はお墓詣りに行くという方も多いと思いますが、1年の最後、人生の「終い」に入る場所に纏わる怪奇譚、恐怖譚をお待ちしております。
現在募集中のコンテスト
【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話
締切 | 2024年11月30日24時 | |
---|---|---|
結果発表 | 2024年12月16日 | |
最恐賞 | 1名 Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス |
|
優秀賞 | 3名 竹書房怪談文庫新刊3冊セット |
|
応募方法 | 下記「応募フォーム」にて受け付けます。 フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム | お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp |
現在募集中のコンテスト
【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話
締切 | 2024年11月30日24時 | |
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結果発表 | 2024年12月16日 | |
最恐賞 | 1名 Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス |
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優秀賞 | 3名 竹書房怪談文庫新刊3冊セット |
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応募方法 | 下記「応募フォーム」にて受け付けます。 フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム | お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp |