マンスリーコンテスト 2019年12月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2019年12月結果発表

最恐賞
行き着く井川林檎
佳作
「見知らぬ墓」鬼志仁
「家の中の墓」かごさんぞう
「誰もいない」緒方あきら

「行き着く」井川林檎

 この分譲地はもとは田んぼだった。どんなに晴れた日でも、常にじめついているのはそのせいだ。
 団地はそろそろ空き家が目立つようになった。あちこちで「売家」の看板が立っている。うちの隣も長い間空き家だったが、半年前に「売家」の札が立った。
 
 ある日帰宅すると、妻が、ついに隣に人が越して来たわよと言った。
 新たな住人は中年男性の一人暮らしらしい。職業もよく分からないが、変な時間に出て行って、適当にふらっと戻ってくると妻は言った。
「これ、その人が置いて行ったのよ」
 テーブルの上には白いタオルが置いてあった。引っ越しの挨拶に来たようだ。

 数日後、たまたま仕事が休みで、天気も良かったので、そのへんを散策していると、チューリップハットをかぶった中肉中背の男が歩いてくるのと出くわした。もしかしたらと思ったら、向こうから挨拶してきたので、この人が越してきた隣人だと判った。
 
 先日はわざわざすいませんと言うと、いえいえよろしくどうぞと頭を下げられる。
 立ち話をした後、なんとなく並んで一緒に散歩をした。

「越してきて五日目ですがね、毎日のようにウォーキングしているのですが、どういうわけか、必ず道に迷って、墓地に行きついてしまうんです」
 と、K氏は言った。
 墓地なんかこのへんにあったかなとわたしは思ったが、K氏がにこにこと喋るので、こちらも愛想よく頷いた。
 その日の晩、妻にこのへんに墓地はあったかと聞いたら、変な顔をされた。やあね、墓地なんかないわよ何年ここに住んでるのよと妻は言った。

 K氏は、ほぼ毎日散歩していたが、いつからか姿を見なくなった。夜になっても、K氏宅には明かりがつかない。
 半年ほど過ぎたある日、また隣家に「売家」の札が立った。
 
 隣家は古いが手ごろな平屋建てである。仲介業者に連れられて、三日に一度くらいは人が見にきているようだった。
 そして昨日、妻から、どうやらまた隣家に新しく人が越してくるらしいと聞かされた。

「どうなっているのかしら」
 と、食事を温めてくれながら妻は、なにげなく言った。
 わたしは何故か、K氏から聞いた、散歩中にどうしても行きついてしまうという墓地のことが気になってしょうがない。

総評コメント

 令和元年最後のコンテストに今年一番の応募数をいただきました。初参戦の方も多く、大変嬉しく思います。ご投稿ありがとうございました。
さて、今回のテーマは「墓」に纏わる怖い話。死者が眠る場所とあって心霊系の怖い話ばかりかと思いきや、人間の怖さ、サイコな恐怖に迫る意欲作も多く寄せられ、改めて実話怪談の幅の広さを感じました。
 最恐賞は、謎の墓地に導かれてしまう隣人の話「行き着く」井川林檎、佳作は、間違えてお参りしてしまった墓に隠された因果「見知らぬ墓」鬼志仁、都内にある奇妙な住宅の話「家の中にある墓」かごさんぞう、酔った友人の不思議な呟きの意味「誰もいない」緒方あきら、の3作が選ばれました。今回の入選作はネタのレア度が高く、いずれも劣らぬ良作でした。最恐賞「行き着く」は隣家に人が居つかない理由を不気味に暗示するとともに、そうした不可思議で不穏な状況を認識しながらも、恐らくは日常の中で流されていくだろう恐怖感が短い中によく表現されていたと思います。佳作「見知らぬ墓」はもっとも謎が多く、読み手としては気になって仕方ない結びですが、それこそが現実という納得感もあり、実話怪談としてよい終わり方の作品でした。「家の中にある墓」は可能な限り具体的な場所や状況を明示している作品で、まさに実話怪談マニアが求める要素が詰まった内容、確かなリアリティを感じさせてくれる逸話です。「誰もいない」はそもそもなぜそうなったのかという謎は残りますが、ひとつしっくり行くオチがついていて、読み応えと全体の構成のバランス感に秀でていました。
 その他最終候補作に、鈴木捧「獣」、星野戦慄「石崎家」、アスカ「プロメッサ」、雪鳴月彦「墓地で見た空」、泡「かくれんぼ」、雨水秀水「名前は何処」、菊池菊千代「知らない骨壺」の7作。かなりの数に及ぶ応募作をすべて読み終えた後、もう一度タイトルを見ただけでどのような話であったかすぐ思い出せるか否かもひとつポイントになったかと思います。つまり、タイトルの付け方もその作品をあらわすものですから十分な配慮が必要ということです。同じテーマの作品群の中で、どれだけ強い印象を残せるか。もっとも奇抜なタイトルをつければ印象に残るというわけでもありません。作品の内容に合っていて、かつ最後まで読んで腑に落ちるようなタイトルが望ましいと思います。
 さて、次回は令和2年最初のマンスリー。正月明けということで、お題は「帰省」です。故郷の怖い話、一族の怖い話、ふと思い出す子供の頃の奇妙な記憶……。新しい年も心躍る怪と不思議に出会えることを期待しております。
 それでは皆様、どうぞよいお年を!

現在募集中のコンテスト

【第30回・募集概要】
お題:樹海に纏わる怖い話

原稿 1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切 2020年10月20日24時
結果発表 2020年10月29日
☆最恐賞 1名
Amazonギフト3000円を贈呈。
※後日、文庫化のチャンスあり。
佳作 3名
ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。
応募方法 下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。 応募フォーム
メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト10月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。 kowabana@takeshobo.co.jp