マンスリーコンテスト 2020年4月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2020年4月結果発表

最恐賞
影絵草子
佳作
「花壇を覗く者」天堂朱雀
「残り香」ミケとーちゃん
「桜と南天」獅子九朗

「指」影絵草子

 大分昔になるが、高科さんという高齢の女性からこんな話を聞いた。

「私が養子に貰われた家の話なんですけど。指をね、こう種みたいに埋めるんですよ」

 は? と私が言うと、説明が足りなかったと申し訳なさそうに一から話す。

 その家では、死ぬとなぜか故人の指、それも親指を切る。
 切って埋める。
 埋めるのは庭にある祠の決まった場所。
 庭といっても敷地は広大であった。

「金持ちだったんですね。平たく言うと」

「だった」という言い方に少し疑念を抱えつつ話の続きを聞いた。

 曾祖父が亡くなり、日を置かず今度は曾祖母が逝った。
 死因は老衰。
 苦しまず死ねたのが何よりと親族は喜んだが、やっぱり指を切る。
 切られた指はしばらくホルマリンに浸けて保存される。
 それから29夜寝かせて30日目の朝に親族一同集めて埋める。
 子供の彼女は黙ってそれを後ろから見ている。
 父母は大切な行事だからと言うが気味が悪い。
 花でも咲くのかな、と子供心に思ったという。

 しかしその後。
 頭巾を被った女と子供、二人の人物が家に泊まりにきた。
 なぜか家族は彼女らに敬語を使い、崇めるような扱いをする。

 よく来てくれました。
 今年も助かります。

 彼女たちは一つの部屋に籠ったきり出てこない。
 何をしているのかもわからない。

 ただ、手を繋ぐように組まれた女と子供の手は、親指を覗いて真っ黒だった。

 どれくらい経ったのか。
 二人のいる部屋に夕餉を運ぶ家政婦が、「終わりました」と集まった親族一同に伝えた。
 その瞬間、皆がホッとした顔をしていたのを覚えている。

 そして女と子供は帰るのだが、来た時とは打って変わって誰も見送りはせず、人知れず静かに二人は帰って行く。
 流石にあとはつけなかったというが、その日は丁度30日目の朝だった。

 そしてまた親族が亡くなるたびに、指を埋める行事が執り行われる。
 しかし、ある年に亡くなった親族の指は、親指だけが真っ黒に染まっていた。
 祖父は、
「これでは使えん。今年は不作だな。皆、覚悟しとけよ」
 そう意味ありげなことを言って、その年は指を埋めなかった。
 死人が出ることもなかったが、祖父が言うように不作が続き、やがて戦後すぐにその家は没落してしまったという。

 指を埋めるという行為からして、何らかの意味ある祭事だろうと思うのだが、何となく花の種を埋める姿を連想させ、私は面白く聞いた。
 が、未だ知らぬその家の闇がある気がして、それに安易に触れることは某かの禁を犯すことに同意だと思った次第である。

総評コメント

 
 2020年度、最初のお題となったのは「植物」。過去に、第9回のお題で「木」がありましたが、今回はより広く「植物」といたしました。
 結果的には、「草花・樹木」を扱った作品が中心ながらも、より自由に解釈を広げ、歌詞に花が出てくる歌、花柄の服や、葉っぱをモチーフとした物、花の匂い、葉擦れの音など、予想以上にバラエティ豊かな怪談が集まりました。お題の元にネタを持ち寄るだけでなく、ネタにお題を引き寄せるアグレッシブな投稿に逞しさを感じた回でもありました。
 最恐賞「指」(影絵草子)は、そうした傾向の作品群の中でもかなり王道からそれた、いわば辺境にある作品で、賛否両論あるかとは思いますが、怪談として引き込まれるもの、強烈な印象を残した点を評価し、選出いたしました。
 佳作は、かくれんぼの最中、紫陽花の花壇で目撃された不吉なヒトの話…「花壇を覗く者」(天堂朱雀)、古戦場のあった土地に立つビジネスホテルの夜、草をかき分ける音が…「残り香」(ミケとーちゃん)、庭に桜を植えてから家族を襲う不幸の連鎖…「桜と南天」(獅子九朗)の3作を選出。それぞれ、全体のまとまり、怪異の描写力、人物が生き生きしている点を評価いたしました。
 その他最終選考には、「竹藪の敷地」(卯ちり)、「紫陽花」(ふうらい牡丹)、「供養梅」(緒方あきら)、「ねつく。」(音隣宗二)、「ヒマワリ隠し」(鳥谷綾斗)、「サボテン禍」(綾乃灯伽)、「花瓶を置く」(井川林檎)の7作が残りました。
今月は基本的な文章力に問題がないか、実話としての信憑性を疑う明らかな矛盾がないか、お題の範疇にあるか、という3点を9割がたの作品がクリアし、一次選考の通過率がこれまででいちばん高い回となりました。そこから先の選考に残っていけるかどうかは、やはり怪異のレア度、表現・描写力が重要で、最終的にはどれだけ心(印象、記憶)に残るかということに尽きると思います。ではどうすれば印象に残すことができるのかと言いますと、ひとつは絵として読み手の脳に焼き付けるということがあると思います。怪異の起きた瞬間であったり、現場であったり、話の舞台が映像として頭に浮かぶものは、脳に残りやすい傾向があります。1000字ですから、あまり細かい描写に字数はさけませんが、情景を画にする最低限の情報は入れていただきたいと思います。今回、名前が判明していない花木、ひょっとすると存在しえない植物、魔草・妖花とでも言うような植物が出てくる作品が多かったのですが、そういう得体の知れないものこそ、どんな見た目だったのか描写が欲しいところです。取材であれば、当然そこは突っ込んで聞くべきところですから、それがないと作品自体の信憑性も揺らぎます。不思議な話ほど、リアリティを追究する姿勢を忘れないでいただきたいと思います。
実際に存在する植物に限りますと、これまた面白いデータが浮かび上がりましたので紹介させていただきます。投稿作品に出てきた植物、第1位は「桜」で16作、第2位が「菊」で11作、第3位が「ひまわり」と「紫陽花」でともに8作という結果でした。「竹」「南天」なども複数の投稿がありました。いかがでしたか? 予想通りでしょうか?
 さて、来月のお題は「土地に纏わる怖い話」。これまた範囲の広いお題となりますが、怪談らしい怪談が集まるのではと今から楽しみにしております。次回もふるってご参加のほどよろしくお願い申し上げます!

現在募集中のコンテスト

【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話

締切 2024年11月30日24時
結果発表 2024年12月16日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

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