マンスリーコンテスト 2021年2月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2021年2月結果発表

最恐賞
あとから、ひとり丸太町小川
佳作
「卵」ふうらい牡丹
「隠し念仏」菊池菊千代
「石を抱く」松本エムザ

「あとから、ひとり」丸太町小川

あとから、ひとり

 大分県には横穴墓群という遺跡が点在している。7世紀頃の墓穴群で、およそ70センチ四方の穴が数十基、丘陵の崖に掘られているものだ。

 これは、今は大学生のA君が、ある横穴墓群で体験した奇妙な思い出話(ばなし)だ。

 当時、A君を含む4人の幼馴染み仲間は、いつも徒党を組んで遊んでいた。
 小学5年生のある日、近所の横穴墓群に行ってみることにした。ここで遊ぶのは普段から禁じられている。遺跡の保全のためや、崖地で危険だからという理由だろう。
 子ども達の間では、穴はあの世に繋がっていて、入ると二度と戻れないなど、陳腐な怪談が語られており、あまり近づく者はいなかった。

 A君ら4人は、そんな怪談が事実なのか確かめようと考えたのだ。

 4人が各々別の穴に入り、10分間耐える。10分経ったら集合地点に集まり、怪しい事があったかどうか、互いに報告するという遊びだ。
 A君も適当な穴に入り、さらさらと乾いた砂の上に屈んで座った。
放課後すぐの明るい時間帯で、あまり恐怖感はない。

「10分経ったぞ」

 腕時計を持っているB君の声で集合地点に集まる。
「どうよ?」「やばいって!」などと興奮して語り合うが、ふと全員が、そこにいるのが5人であることに気がついた。

 しっかり者のB君、お調子者のC君、大人しいD君、そして俊足のE君……。

 自分も含めて5人全員が、ずっと仲良しでいつも一緒にいたメンバーだ。そして今日もそのメンバーでここに来た。

 だが――。

 ここには確かに4人で来たはずだ。そして何より、自分たちは昔から4人組だった。それは間違いない。

「あれ?」

 みなが狐につままれたような面持ちで顔を見合わせる。
 4人で来たはずなのに今は5人。でも、あとから加わった者はいないはずだ。
 4人で徒党を組んできたのに今は5人。でも、この全員と昔から一緒にいた記憶がある。

 何が起こったのかわからぬまま、ともかくその日は解散し、みな首を傾げながら帰宅した。

 翌日からは、その5人で今まで通り一緒に遊ぶようになった。周囲の者も特に気にしてはいないようだ。あの日から加わったひとりが誰なのか。そもそも誰かが加わったなどということがあったのか。誰にもわからない。
 わからないまま、彼らの友情は続いた。

 今はそれぞれ進学する者、就職する者、他県に出る者など様々だが、帰省の際などには頻繁に集まっている。
 5人全員が「あの日まで俺たち、4人組だったよなあ」という記憶を持ちながら。

総評コメント

 青森、信州、大阪と、ご当地怪談が3冊同時発売になるのに合わせ、2月のお題は「都道府県の怖い話」。日本各地から現在その地域にお住まいの方の恐怖体験、かつて住んでいた頃に見聞きした怖い話、そこに住むお知り合いから聞いた話など、興味深い怪談が続々と寄せられました。最恐賞には丸太町小川の「あとから、ひとり」(大分県)。佳作にはふうらい牡丹「卵」(大阪府)、菊池菊千代「隠し念仏」(岩手県)、松本エムザ「石を抱く」(栃木県)がそれぞれ選出されました。
 最恐賞「あとから、ひとり」は、体験者全員が存命で当事者らは「不思議な体験」と捉えているものの、よくよく考えると実に不気味で、後を引く怪談です。佳作「卵」は体験した少年の心情が生き生きと描かれ、怪異の生々しさも卵の生身感によくマッチしていたと思います。「隠し念仏」は怪談マニアならご存じの方も多い題材ですが、土地の風土・因習というご当地怪談ならではの味わいが存分にいかされていた作品。「石を抱く」は硬質な語り口で綴りながらも、じわじわと狂気じみていく展開に引き込まれました。
 ご当地怪談の魅力のひとつは、土地に精通している方ならではの情報に、実話としてのリアリティを一層強く感じること。地元の方ならば共感できる楽しさがありますし、他県の方は知らない世界を覗く面白さがあります。また、土地の景色、風土、空気感が伝わる描写や方言などがあると、まるでその土地へ行ったかのような気分になれるのも面白いところです。逆に言えば、そうした要素が弱いと、普通の怪談と変わらなくなってしまうので、意識して色を出してほしいなと思います。今回は方言を使った作品は少なかったですが、体験者や登場人物の名前がその土地に多い苗字が使われていたり、土地の食べ物がさりげなく出ていたりする話は多く、そうしたところにもご当地色を感じてよかったと思います。
 今回、5作品以上の投稿があった都道府県は上から順に、以下の通り。
1 東京 15作
2 茨城 14作
3 千葉 12作
4 徳島 10作
5 大阪、福岡、福島、静岡 6作
6 香川、埼玉、和歌山 5作
 関東勢が圧倒する結果でしたが、徳島、香川の四国2県も多数ご投稿いただきました。
 内容的にも地元ならではの風習や、具体的な心霊スポットなど大変興味深く、作品数も充実していることから、上記の都道府県のご当地怪談アンソロジーの書籍化を今後検討してまいりたいと思います。
もっとも今回ご応募作いただいた作品数だけではまだまだ足りませんので、さらなる作品、書き手を今後も引き続き募集してまいります。四国に関しましては、愛媛、高知の怖い話をお持ちの方を大募集です。今回応募くださった方も、これからの方も、まだまだこの県ならネタがあるぞ!という方はkowabana@takeshobo.co.jpまでご一報ください。お待ちしております。

 さて、次回募集は「事故物件に纏わる怖い話」。「瑕疵物件」ももちろんOKです。一軒家、マンション、アパート、家屋に纏わる不穏な話、不気味な現象、因果関係が見えてしまうような恐ろしい話、恐怖の物件怪談をお待ちしております。
 受賞作、ならびに優秀作は5月発売予定の「実録怪談 最恐事故物件(仮題)」へ作品が収録されます(献本・印税あり)。ご自身の体験でも、人から聞いた話でも構いませんが、必ず実話であるというお約束を守ってください。書籍デビューのチャンス、ふるってご応募ください!
 発表は3月30日のYouTube「井戸端怪談」内にて、作品朗読をもって発表させていただきます。こちらのチャンネル登録もぜひよろしくお願い申し上げます。

◎YouTube「井戸端怪談」➡チャンネル登録

現在募集中のコンテスト

【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話

締切 2024年11月30日24時
結果発表 2024年12月16日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

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