マンスリーコンテスト 2021年8月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2021年8月結果発表

最恐賞
「応援のチカラ」菊池菊千代
佳作
「自主トレ。」音隣宗二
「たかったよ」丸太町 小川
「記憶のエビフライ」雨水秀水

「応援のチカラ」菊池菊千代

 亡くなった同級生の博子さんの両親を運動会で見かけた。
「私に手を振っていて……」と弘子さんは言う。
 二人は字は違うが、同姓同名だった。
 クラスは別で、遊んだこともなかったが〈同級生が交通事故で亡くなった〉というニュースは衝撃であり、初めて身近に死を感じた出来事として、頭に刻まれたという。
 むせび泣くご両親のインタビュー映像が、悲惨で印象的だった。

 それから二ヶ月後である。
 そのご両親が、満面の笑みでこちらに手を振っている。
「徒競走では運悪く、一番端のレーンでした」
 外枠を走る最中、最前列で連写されるシャッター音と〈ヒロちゃん! がんばって!〉の声援に、心底ゾッとしたという。
 青ざめている弘子さんを心配して、担任が声をかけてきた。
 正直に理由を伝えると、退席させられたのは弘子さんの方だった。
 保健室で担任から聞いて驚いた。
「博子さんのご両親は、前の週に後を追って亡くなっているそうです」
 急いで窓から彼らのいた方を確認するが、見当たらない。
「今日は早退して、ご両親と帰りなさい」と担任に言われた。

 帰りの車中、後部席で考える。
「走るのは苦手で、いつもビリか下から二番目だったのに……」
 徒競走は、ダントツの首位だった。
 亡くなった博子さんは陸上部である。
 まるで憑依された気がして、首から下げた金メダルが誇らしい反面、不気味にも思えた。
 一人で抱えるのは荷が重い。
 助手席に座る母に話しかけた。
「ねぇ」
 母が振り返る。
 息を呑んだ。
 自分の母ではなかった。
「ヒロちゃん、どうしたの?」
 亡くなった博子さんのお母さんが笑いかけてくる。
 運転席の男もよく見れば、博子さんのお父さんであった。
 恐怖で過呼吸になる。苦しい。

 ―――夢なら覚めて!

 すると、右から強い衝撃。
 車がほぼ半回転して、窓を突き破ったガードレールに頭がめり込んだ。

 そこで目が覚めた。
 保健室のベッドの上で、滝のような汗をかいていたという。
「直感ですが……亡くなった博子さんの追体験だと感じました」
 実際にその場所に行くと、大量の花が供えてあった。
 弘子さんも金メダルを添えて、手を合わせたという。
 それから変なことはないというが、一点。
「考えすぎだとは思うのですが……」
 厳格な両親から、たまに〈ヒロちゃん〉と呼ばれるようになったと、弘子さんは語る。

総評コメント

今回のお題はスポーツ、運動。圧倒的にランニング、ジョギング中の怪異が多く集まる結果となりました。得体の知れない足音や影に追いかけられるなど、事象としては定番ではありますが、ひたひたと迫る恐怖感をうまく演出できている作品、同じようでも確かにみな違う肌触りを感じ取ることができました。その他、競技の種類としては剣道、バスケットボールがやや目立ったでしょうか、ボクシングも印象深い作品が多かったように思います。
最恐賞は「運動会」に纏わる恐怖体験「応援のチカラ」(菊池菊千代)。複雑な構成、展開を少ない文字数でうまく伝えていた点と、シンプルに恐ろしい点を評価いたしました。佳作は霊を使った危険な特訓法「自主トレ。」(音隣宗二)、剣道の面に纏わる抒情的な怪異譚「たかったよ」(丸太町小川)、 運動会の記憶の異変を扱った「記憶のエビフライ」(雨水秀水)の3作を選出。いずれも味わい深く、オリジナリティの高さが際立っていた良作でした。
以下、最終選考大賞作、一次選考通過作。今月も力作が多く、楽しませていただきました。

〈最終選考対象作〉※投稿日時順
「たかったよ」丸太町 小川
「試合開始」墓場少年
「記憶のエビフライ」雨水秀水
「白い面」アスカ
「怪異探訪ルポルタージュ 幻肢痛」ルクレツィア・薔薇園
「小川に浮くもの」月の砂漠
「無題」雨森れに
「応援のチカラ」菊池菊千代
「キノコ」青葉入鹿
「自主トレ。」音隣宗二

〈一次選考通過作> ※投稿日時順
「風を纏う少年」影絵草子
「運動能力をあげた話」影絵草子
「たかったよ」丸太町 小川
「マルセイユ・ルーレット」アスカ
「試合開始」墓場少年
「たえのね」古森真朝
「いおかげ」古森真朝
「記憶のエビフライ」雨水秀水
「白い面」アスカ
「エンドレス準備運動」丸太町 小川
「碁石拾い」さむらいも
「地獄の特訓なんて、ダサいねぇ」いまい まり
「怪異探訪ルポルタージュ 幻肢痛」ルクレツィア・薔薇園
「小川に浮くもの」月の砂漠
「体育倉庫」月の砂漠
「プールの水神様」夕暮怪雨
「ゲートボール仲間」安田鏡児
「無題」雨森れに
「並行する世界」逸宮佑季
「応援のチカラ」菊池菊千代
「キノコ」青葉入鹿
「自主トレ。」音隣宗二
「グローブ」あんのくるみ

ありがたいことに毎月の応募数がどんどん増えておりますので、いま一度「実話怪談」の作品をどう書くかという点について少しだけお伝えしたいと思います。もちろん「実話である、自他が体験した怪異をもとに書き起こしている」という以外には「絶対的なルール」はございません。あくまで初めて書いてみよう、投稿してみようかなと思った方へのアドバイスとして受け止めていただければ幸いです。
・私、僕、俺など、お話の主人公(怪異の体験者)を一人称で書く場合は、基本、著者自身のことと判断します。ご自身が体験者でない場合に一人称を使ってしまうと、創作(小説)のように受け止められますのでそこはご注意ください。もちろん、聞き手(取材者)として「私、僕、俺」が出てくるのは問題ありません。
・演出上の特別な意図がない限り、ですます調や話し言葉ではなく、である調で書くことをおすすめします。このコンテストは将来、怪談文庫からデビューする方、新人発掘を目的としておりますので、怪談文庫レーベルの一般的な作品形式に準じていただくのが望ましいです。しかしながら、語り口調の作品ももちろんありますし、その作品の魅力を読者に伝える最良のスタイルを選択していただいて構いません。ただ、どう書きだすか決めあぐねている、とくに明確な理由はないが何となく書きやすいから「ですます調」にしているという場合は、「である調」をおすすめします。そのほうが怪異の緊迫感や実話らしさを出しやすいと思います。
・字数制限が1,000字ということもあり、とくに仮名であるという但し書きはいりません。鈴木さん、田中さんなど具体的な名字を使っても、Aさん、Bさんのようなイニシャルを使っても、編集部では仮名と判断します。逆に、体験者から許可を得ている場合でも、プライバシーの観点から一般人の場合は必ず仮名を使ってください。
今月はまずこの3点、これからチャレンジする方にお伝えしました。ご参考になれば幸いです。

さて、次回9月の応募は本日よりスタート!今回は異色のお題――「双子」に纏わる怖い話。
双子に関する不思議な話、双子に纏わる土地の因習。仲が良くても悪くても、ほっこりでも忌まわしくても、そこに「怪」がある実話なら何でもOK。

皆様のご参加、心よりお待ちしております!

現在募集中のコンテスト

【第76回・募集概要】
お題:運動会・体育祭に纏わる怖い話

締切 2024年10月31日24時
結果発表 2024年11月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp