マンスリーコンテスト 2021年9月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー
※※10月結果発表は、11/3夜に延期となりました※※

2021年9月結果発表

最恐賞
赤い明晰夢夕暮怪雨
佳作
「双子の老婆」坂本光陽
「喰われる」芳春
「まくれる」影絵草子

「赤い明晰夢」夕暮怪雨

亀山さんには双子の弟Sがいた。双子のため見た目はそっくりだが、服装の趣味も女性の好みも違う。まるで月と太陽だと言われたそうだ。よく言われる様な双子特有のシンクロなどもなく、社会人になってからは遠く別々で暮らしていた。亀山さんが結婚した後は、連絡も年に一度、年賀状一枚。Sは独身だった。こうして双子としての関係が薄くなった。

しかし、ある出来事がきっかけでSと自分はやはり双子なのだと実感した。ある時、亀山さんは夢を見た。そこは血に染まった様な赤い景色が広がるだけだった。草も木も建物もない。ただ自分が夢の中にいる事が何故か分かった。それが明晰夢と言われている物だとも。亀山さんは歩き回り、辺りを見回した。すると大きな杭が一本だけ打ち付けられている場所を見かけた。その杭には「S」と名が刻まれ、何かが鎖に繋がれている。それは黒い物体で、鎖に繋がれ激しく暴れていた。

そこで亀山さんは目が覚めた。何とも不思議な夢だった。普段夢を見る事などない。ましてや明晰夢だ。するとその日、珍しくSから電話が来た。話を聞くと明晰夢を見たと言うのだ。一面に広がる赤い景色に大きな杭が一本、鎖に繋がれた黒い物体が激しく暴れる光景。亀山さんが見た夢と同じだ。ただ杭には自分の名でなく亀山さんの名が刻まれていた。Sは「やっぱり俺たち双子なんだな!」と嬉しそうに亀山さんに話した。亀山さんもそれを聞いて嬉しい気持ちになったそうだ。

しばらくして亀山さんは同じ夢を見た。やはり明晰夢だと認識できた。鎖に繋がれている黒い物体は以前より激しく暴れて見えた。「これを外したらどうなるのだろう?」そんな悪戯心が囁いた。杭に近づき、黒い物体が繋がれている鎖を外した。すると物体は凄い勢いで走り、見えなくなった。そこで目が覚めたそうだ。その日、両親からSの訃報が届いた。寝てる間にクモ膜下出血で亡くなったという事だった。その時は動揺と悲しみでそれどころではなかったが、落ち着いた時期に家族の勧めで亀山さんは検査をする事にした。検査の結果、亀山さんにもクモ膜下出血の兆候が発見された。幸い大事には至らなかったが、その時に初めて「あの物体を鎖から外したからSは亡くなったのでは」と思う様になった。亀山さんは今でもあの明晰夢を時折見る。一面に広がる赤い景色。ただそこには墓標の様にSの名が刻まれた杭が一本立っているだけだ。

総評コメント

掲載がおそくなりました、9月「双子に纏わる怖い話」の回の総評をお届けします。
最恐賞は、同じ風景の夢を見る双子が、夢の中の動き方によって違う運命をたどる不気味な話「赤い明晰夢」。佳作は、山の神様と言われる双子の老婆の姿を見ると何か重大な吉凶の出来事が起きるという話「双子の老婆」坂本光陽、妊娠初期に二つあった胎嚢が片方に吸収されるバニシングツインに纏わる不穏な話「喰われる」芳春、祖母が「まくれる日」と呼ぶ日に自分とそっくりな仮の弟が現れ予言を残す摩訶不思議な話「まくれる」影絵草子の3作品を選出。最恐賞と、佳作の「喰われる」は恐怖感、不気味さが濃い作品、残りの佳作2作は奇妙さ、不可思議な面白さが際立つ作品とカラーが分かれる結果となりました。
応募作品全体を見通してみると、いつも以上に不可思議系の作品が多かったように思います。双子ならではの以心伝心、離れていても通じ合い、何かが分かってしまう現象など、よく聞かれる話ではありますが、具体的なエピソード、体験談として寄せられたものを読むと信憑性が高く、驚かされました。
また、一昔前の日本の地方や外国の話で、双子が生まれると不吉とされ、片方を里子に出す、もっと恐ろしい場合もありますが、そうした風習が現実にあったこと、それに纏わる怪異譚も多く寄せられました。これは歴史的、民俗学的な意味でも興味深い話でありますが、陰惨な話ばかりではなく、遠く離れた場所で全く別の家の子供として育った双子が、なぜか引き寄せられ再会に至る、偶然にしては奇妙すぎる話など、思わず引き込まれる展開の怪異譚もありました。
今回とくに気になった点、アドバイスとしては結びの推測……という名の断定です。怪異や偶然の一致に対しての作者の考察が蛇足になっているパターンが非常に多く見受けられました。これはたぶんこれこれが原因でこんな結末になったのだと説明してしまう結びですが、作者様が体験者の方や話の提供者さんからお話を伺って、たぶんそうだろうなと思ったことは、読者もほぼほぼ同じように推測します。ですから、そこまで説明する必要はないのです。むしろ、別の解釈も可能かもしれないところを、作者の考えを押し付けるような断定をしてしまうのは逆に勿体ないことではないでしょうか。実話怪談はそこにあった事実、出来事を提示し、その事象からそこはかとない恐怖を読者に感じ取ってもらうことが魅力のひとつであると思います。そこには受け取りの自由さがあってよいのだと思います。
また、思わせぶりなラスト、不気味さ不穏さを印象付けようとして、創作的な匂いを付けてしまっているケースもよく見受けられます。あからさまな「オチ」をつけて、実話らしさを保つのは相当ハードルが高い技です。その一文を付け加えることで、話が締まるような錯覚は少なからずありますが、最後の最後で実話らしさを失い、読者が興ざめしてしまうのは絶対に避けたいところであります。
筆がのってくると書きたくなるところではありますが、その一文が本当に必要かどうか、創作の疑いを持たれないかどうか、いま一度筆をおく前に振り返っていただければと思います。

〈その他最終候補作品〉※最恐賞、佳作以外
「貰った人形」夕暮怪雨
「双子のお面。」音隣宗二
「てれんこしょって」丸太町 小川
「そっくりになった双子」いまい まり
「いれかわり」卯ちり
「入れ替わり」月の砂漠
「三人目」天堂朱雀
「さっきも」中野前後
「双子の人形」雨水秀水
「K恵」影野ゾウ
「すすぎ様」影絵草子
「読み聞かせ」影絵草子
「好かれる」あんのくるみ
「体験入学」ふうらい牡丹
「病の弟」菊池菊千代
「夢抱く腹」雨森れに

さて、次回10月の応募は本日よりスタート!今回のお題は―「憑く」。
動物憑きをはじめ憑き物筋、憑依体験など、憑き物に纏わる怖い話を募集いたします。

皆様のご参加、心よりお待ちしております!

現在募集中のコンテスト

【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話

締切 2024年11月30日24時
結果発表 2024年12月16日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp